第6話 ゲーセンで遊んでたら補導された
ラーメン店味楽でお腹を満たして満足した俺は、周りにある多種多様な店を見ながら退屈しのぎの為にどこに行こうか考えていた。
流石に満腹なので飲食店には入ろうとは思わないが、ここはそう言う類いの店が立ち並ぶエリアだ。
何十分出歩いて見つけた店のおよそ30%位しか飲食店以外の店がなく、更にその10%にも満たない割合しか娯楽系統の店がなかった。
「時間はたっぷりあるし、ゆっくり見て回ろう」
そう言えばここ半年仕事ばっかりで忙しかったし、こうして時間に囚われずにのんびり料理食べたり散歩したり出来るの、やっぱりいいな~。
戸籍とか国籍の件でひと悶着ありそうだし、趣味で狐少女にされたのはあれだけど、それのお陰で辛い仕事から解放してくれた神様ありがとうございます!
死にかけていた俺を助けてくれた上に残業地獄から解放してくれたあの銀髪の神様に感謝の祈りを捧げつつ歩みを進めていると、懐かしい建物が見えてきた。
「お、『グドエイト』か。閉店してなくて良かった~」
10年ほど前、ちょうど9歳の頃良く連れていってもらった、昔懐かしの物から最新の家庭用・携帯用ゲーム機を売っていたりアーケードゲームやクレーンゲームが出来たりする複合型の店で、ゲームの聖地とも呼ばれている。
一時期資金繰りと物資調達が厳しくなって閉店間際まで追い込まれたと聞いた時は何だか寂しくなるなと思ったが、存続してくれていて良かった。
「10年ぶりに入ってみるかな」
そうして店に入ってみると、その瞬間じいちゃんとばあちゃん一緒に来たあの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。物の配置や雰囲気等もその時と殆んど変わっていない。
「戦車ゲームに銃のゲーム、バスケに卓球……まるで9歳の頃に戻ったかのよう!」
思わず子供みたいにはしゃぎたい気持ちが理性を上回ってしまい、人前にもかかわらず声をあげて笑ったり走り回ったりしてしまう。
何だかここ最近、自身の欲が抑えにくくなっている気がする。身体年齢に精神も引っ張られているのだろうか?
「もうそんなのどうでもいいや! 今を楽しもう」
あまり考えているとそれだけで時間が過ぎてしまうので、考えるのを止めて楽しむことにした。
昔懐かしい思い出のアーケードゲームとクレーンゲームは楽しみに取っておいてまずは当時なかった音ゲーに挑戦してみたが、何を思ったのか難易度を最高にしてしまった。
その結果、初心者だった俺はその場でただ単に足踏みをするだけの謎の遊びと化してしまい、ほんの一部の客に笑われた上にスコアの方は散々なものとなってしまった。
某銃のゲームでは何故か隣に来た30代位のおじさんと2Pでプレイすることになった。そのおじさんが今まで自分が見たこともないくらいの上手さで、全ステージ通して被弾した回数が2回だけと言うものだった。ちなみに自分は5回もゲームオーバーになってしまった。レベルが違う。
後はクレーンゲームコーナーを周回し、使うのかどうかも分からないようなものや某国民的アニメキャラのぬいぐるみ等見境なく取った。
そうして荷物の事を考えずにドカドカ取りまくったお陰で両手が塞がってしまい、歩きにくいことこの上ない。
しかも羽目を外してこれだけでお金を5000円、アーケードに使った分も合わせると7000円も使ってしまった。こんな調子で使っていれば引き出した分のお金などすぐになくなってしまう。
そう思った俺は欲を抑えて何とか踏みとどまり、荷物も沢山あるので帰ろうと店の出口に向かおうとしたその時、後ろから声をかけられる。
「ちょっと、そこの銀髪の黒リュック背負った貴女!」
「はい。何で――」
後ろを振り返ってみると、そこに居たのは女性の警察官だった。
恐らく……いや、確実に『平日の昼間に推定中学生の女の子が学校行かずにゲーセンで遊んでいる』と通報が入ったか、見回りの際に偶然見つけたかのどちらかだろう。
「どこの中学? 学校サボってゲーセンで遊んでちゃダメでしょう?」
くっ……やはり土日の方がよかったか! 今更後悔するも、もう遅い。
案の定どこの中学って聞かれたけど、どこの中学にも行ってないから返答に困る。
例え、実は19歳の柳原勇斗なんです、去年高校卒業して働いてるので中学生じゃありませんと言ったところで、今のこの容姿じゃ説得力は全くない。
ええい! こうなったら、狐化して流れを変えるしかない。
そう思い、すぐに銀狐になる体勢に入ろうとした時更に2人の警察官がこちらに来るのが見えたので中断する。
「おい、霧柳! この娘じゃないか? 狐耳と尻尾は無いが、その他の特徴は目撃証言と完全に同じだし、俺はそうだと思う」
「そうですね山倉さん。ただ、ここでそれを調べると目立ちすぎて仕方ないのでとにかく警察署まで連れていきましょう」
「ああ、そうだな。銀髪の嬢ちゃん、一緒に警察署まで来てくれ」
「……はい」
ここで全速力で逃げることは可能ではあったが、それをすると心証を悪くしてしまって今後この町に居られなくなる可能性もあり得る。
そうなればこの街の美味しいものが食べれなくなると言う損害を被る事になる。
当然、ついていくことに決めた。
そうしてパトカーに乗せられること15分、八山警察署に到着した。
最初に話し掛けてきた女性警官の鳥下優花さんに誘導されながら中に入り、長いテーブルとパイプ椅子がコの字型に並べられている部屋に案内される。
「早速で申し訳ないが、単刀直入に聞こう。君は、柳原公園に倒れていた狐少女で間違いないか?」
あの時の事か。まあ、ここで嘘をついても何のメリットもない上に、その山倉警部と言う人は俺が狐少女であると言う確信を持っているようだ。
仮に嘘をついたとしても速攻でバレてしまうだろうし、正直に全てを打ち明けた方が良いだろう。
「そうです。証拠を見せましょうか?」
「もし出来るのであればお願いしたい」
そう山倉警部にお願いされたので、俺は狐耳と尻尾を展開させる。
「おぉ……やはり俺がにらんだ通りだったようだぞ! 霧柳」
「ええ。そのようですね山倉さん」
「……嘘ぉ」
俺を学校サボってゲーセンで遊んでる中学生だと今の今まで思っていた鳥下警部はこの光景についていけていないようだった。
てか、この姿見て全く驚かずに落ち着いている2人はどれだけ精神が強いのだろう。俺でさえ初めて見たときは落ち着いていられなかったのに。
「では、次の質問に移る。君が今持っているリュックの中身を見させて貰ったが、この中から今行方を探している柳原勇斗と言う青年の物とみられる免許証等が出てきた。これを何故持っている?」
「あ……それはですね……」
その訳を包み隠さずに全てを話すと、流石に予想外だったのか、2人は少し驚いていた。鳥下警部は今の話が止めとなったみたいで、完全に黙りこんでしまった。
「こりゃあ、本格的にファンタジーの世界じみてきたな」
「そうですね。ここ1週間、ラノベやゲーム等で良く見る魔物出現事件に加えて狐少女への転生事例の発生、もうこの世界がすでにファンタジー世界じみてるのではなく、完全になってますよ」
「確かにな……さて、それはひとまず置いておくとして、1つ重要な問題が発生した。それは、この狐少女に今戸籍と国籍がないと言うものだ」
「「「あぁぁ……」」」
若干ファンタジー世界と化してきてはいるこの現代社会で暮らしていくには絶対に必要なものだし、早急に解決するべき課題だろう。
そんな事を思っていると、山倉警部が更にこう言い出した。
「まあ、それは俺がどうにかするとして問題はこの狐娘の住む場所をどうするかなんだが、|神林の家にしようと思う」
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