第1話 起きたら狐少女になってた
新作投稿始めました。良ければ見ていって下さい。
「うぅぅ……」
俺は、コンビニで買い物をして家に帰る途中、階段を降りている時誰かに背中を思い切り押されて転げ落ち、頭を打ってしまった。
タイミングが悪かったのか、通りがかる人が居ない。怪我も酷く、スマホで救急車を呼ぶ体力がない。
意識も薄れてきてこのまま死んでしまうのかと思った時、目の前に突然銀髪の女性が現れてこう言った。
「ぬぅ……これは不味いな。待っていろ、今主を助けてやる」
そう言って彼女は俺の頭に手をかざしたと同時に意識を失った。
その後、何分経ったのかは分からないが意識を取り戻した。
致命傷を負ったはずなのに生きているし、コンビニで買った弁当や卵、持っていたバッグの中身も全て無事だった。あの銀髪の女性に助けられたのだろう。
「それにしてもあの人は一体――」
そう独り言を言った時、俺はとある事に気がついてしまった。
発した自分の声が女性……いや、女の子のように高くなっている事に。
髪も肩辺りまで伸びていて、色は少し光沢のある銀色と言う感じだ。
ここまで来ると何となく今の俺がどうなっているのか察した。
持っていたスマホの内側カメラで自撮りをしてその写真を見てみると、案の定そこに居たのは青い宝石のような瞳を持つ銀髪美少女と化していた俺であった。
身長も低くなっていて、中学生に見えた。
ただ、俺の身体にはそれらの変化を軽く凌駕する部分がある。
それは自分の頭に生えていた狐耳と、腰の下辺りから生えているふさふさな狐の尻尾だ。
「どうして俺が……」
百歩譲って性別が変わるだけならまだ良い。
もちろんそれによる影響は計り知れないが、まだ何とかなりそうな気がしたからだ。
しかし、今の俺はもはや人間ですらなかった。
普通の人とはあらゆる事が違うだろうし、何より人外となった俺がこの現代社会で生きていけるのかすら分からない。
「とにかく家に帰ろう。色々考えるのはそれからだ」
散らばっていた荷物を持ち、目立つ尻尾と狐耳を四苦八苦しながら何とか収納して急いで家へ向かう。
走っていて気づいたが、沢山荷物を持っているはずなのに苦に感じない。
身体も軽く、走る速度も変化前の俺より比べ物にならないほど早い。
下手すればオリンピック選手を超えているかもしれない。
道に居た歩行者を避けながら高速で走り抜け、行きの約半分ほどの時間で家へとたどり着く。流石、人外となった俺の身体である。これから起こることを考えればデメリットしかなさそうだが。
着いた後、汚れた身体を綺麗にする為に風呂に入る。
「……」
いくら自分自身とはいえ、さっきまで男だった俺にとって女の子の身体を洗うと言うのは何だか罪悪感が沸いてくる。
まあ、これについては繰り返して慣れるしかない。
そして風呂から上がった後、コンビニで買った弁当を食べながら今後の生活について考える。
当然だが、さっきまで男だった俺の家には女性用の服や下着、その他必要な生活用品など1つも無い。
必要なものは調べれば何とかなりそうだが、それを買いに行く勇気がまだない。
それに、今の俺は現代社会で暮らす上で必要な個人情報が全くないし、国籍すらない。
「絶望的過ぎるだろ俺……」
どうすれば良い? 警察に行くのか、児童相談所に行くか? こういう場合は入国管理局なのか? いや、この場合どこに男だったはずなのに女の子になった挙げ句に人外になりましたと言っても『何言ってんだコイツ?』と思われておしまいだろう。
考えに考え、迷いに迷ったが結局どうするか思い付かなかったので、ひとまず昨日引き出したばかりのお金が無くなりそうになったらまた考えることにした。
「他に俺みたいに不思議な出来事に巻き込まれたりした人は居るのか?」
ふとそう思ったのでスマホで検索してみる。
すると、俺みたいに性転換し、種族すら変わったと言う人は今のところ居なかったものの、気になる記事を見つけた。
今から3日前に、富士山から北西にドラゴンが飛んで行ったのを複数の登山客が目撃したと言うものだ。
その他にも昨日一斉に未知の鉱石や植物が見つかったり、ゲームやラノベ等幻想世界で良く登場するスライムやゴブリンと言った『魔物』と呼ばれる生物が日本各地で目撃されるようになったと言う記事もある。
と言ってもまだ数は多くなく、たまに山から降りてくる熊位の少なさな上に一般家庭にある物で撃退出来るレベルの為、重傷者は居るものの死者は今の所出ていないようだったので良かった。
しかし、魔物たちの目撃場所の90%近くが山やある程度の自然がある公園と言った場所の為、そう言った物がある場所近辺の町や村等の場所には少なからず生活への影響が出ているらしい。
「俺のこの変化も何か関係あるのかも知れないな。いつか調べてみるか」
そう思ったが、やるとなると途方もない手間が掛かる事は明白なので、俺と似たような事例がネットニュースが何かにいくつか載ったら調べることにしよう。
後はやることも特になかったので、家でグータラ過ごして初日を終えた。
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「で、狐の耳と尻尾を持つ少女が血まみれで倒れていると言うのはこの公園で間違いないですか?」
「はい! あっちの階段の方に倒れていました」
いつも通り、柳森公園を突っ切るコースでランニングをしていた私は、そこで血まみれで倒れている女の子を見つけた。
普段なら恐怖のあまり叫び声をあげていただろうが、それを塗り替える程の光景を目にした為、至って冷静で居ることが出来た。
何故ならその女の子、狐の耳と尻尾を持っていたからだ。
最初に見たときはコスプレかと思ったが、良く見てみると風が吹いていないのに尻尾と耳が動いていた。
これは本物だと確信したと同時に、そんな事を考えてる暇があったらとにかく警察を呼ばなければと思い、焦った私は近くの交番に駆け込んで警察官を連れてきていた。
「……確かに周りに血が散っていますね。ですが、貴女の言う女の子は見当たりませんでした」
「え!?」
おかしい。あれだけの大怪我をしていて動けるはずがない。もしかしてなんかの事件の後?
と言うかそもそも尻尾と耳が動いていたと気づいた時点で救急車呼んでおけば良かった。
いや、人と同じように治療とか出来るのか分からないから警察で正しかったはず。
そんな事を考えてると……
「これだけの血の量、もしかしたら何らかの事件が起きた後の痕跡かもしれません。捜査をするので貴女は公園から出て下さい」
「分かりました」
公園から出るよう促された私は、その後いつも通りランニングを再開した。
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