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聖女が不足した世界のお話し

あたくしの聖女へ 異世界より愛を込めて

作者: しゅか

連載小説 聖女不足… の外伝的なやつ。

たぶん単体でも読めます。




 この世界には神がいる。


 とは、その世界では当たり前の事だった。


 神様に祈りを捧げることも、人々にとっては当然の事。しかし、その祈りの熱心さは、土地により落差があった。


「うーん…この土地は、本当にあたくしたちへの期待が低いわねぇ。」

「土地は満ちておるのだ、問題ない。」

「何言ってるの。あなたが彼らの祈りにもっと応えれば、これだけ満ちた土地なのよ?もっと強い祈りが捧げられるはずなのよ。」


 天から見下ろす二つの存在が、とある土地について話をしていた。


 片や、その土地を任された神。

 片や、この世界そのものの創造主でもある神である。


「あなたは人々に完璧な祈りを求めすぎよぉ。」

「主神様は人に甘過ぎでございましょう。まっすぐ届く純粋な祈りが捧げられぬのは、彼らの熱意がそれだけと言うことにほかなりません。」

「んもぉ…頑固ねぇ。」


 創造主といえどこの扱いなのは、この世界の神に明確な上下がつけられていないためである。

 その世界の創造の神は、それぞれの神に土地を持たせ、それぞれの思うままに振る舞う事を良しとした。それ故に、世界への干渉に関しては土地の神と創造主とで意見がわかれることが多々ある。

 今回もかれらの話は平行線をたどり、土地の神が創造の神の意見を突っぱねて終わる。

 ここ数十年、何度かしているやり取りでもある。


「この土地の豊かさや、人々の生活の向上は、今の教会管理をしてる人の子のおかげでしかないわぁ。良くできた子に感謝なさい。」


 創造の神のため息混じりの言葉。そんなものに耳を貸す気はないといった顔の土地神を見下ろしながら、創造の神はその地を去っていった。

 創造の神にとっての問題事は、それだけにとどまらないからだ。


 神様の問題事。それは、散らばる神々の悪戯等の場合もあるが、今一番大きな問題と言えば…


「また、聖女が祈りを失ったのねぇ…」


 神への祈りを行えるようになった男性を聖人、女性を聖女というが、この世界には聖人も聖女もひどく足りていなかった。それというのも、先の創造の神の呟き通り、聖女が神へ祈りを何度か捧げた後、二度と神へ届く祈りを捧げられなくなる頻度が高いためだ。

 創造の神は頭を悩ませる。

 以前はそんなことは無かったというのに、人の子の過度な期待や、王公貴族の圧、教会関係者による囲い込みや、裕福な暮らしでの堕落等々、様々な要因が重なり、聖女が祈りを失うことが続くようになってしまった。

 人々の進歩や文化のせいとも言えるため、このまま世界をあるがままにすべきか…箱庭を統べる神として悩む。

 箱庭の中の小さな美しさや優しさを、その神は愛していた。下手にその偉大な力を流し込めば、簡単に覆り、壊れてしまう世界。

 要らないものを排除して、それで本当に望む世界となるのかは、創造の神であっても知り得ない未来だ。


「これは、少し話を聞きに行くべきかしら…」


 神は、他の世界にいる創造の力持つ神達を久しぶりに訪ねることにした。世界を創造した神でも、全ての世界がいくつあり、全ての神がどのような姿をしてるかは知らない。

 ただ、互いに存在を知り、対話を望んだ神々とだけは、ごくたまに意思の疎通をとることがある。

 世界の均衡は危ういもので、終焉を迎えたことは一度や二度ではきかない。その度に、他の神の話を聞いてみようかと思ってみたりして会いに行くのだ。


「ちょっと聞いてくださいな。変人創造神」

「いきなり来たかと思えば、相変わらず失礼だな博愛創造神。」

「あら、あなたも大概なものだわぁ。」

「そちらには負けるさ。」


 悩みを抱えた神は、知り合いの中でも特におかしな神のもとへと訪れた。

 ある時期を境に人から遠ざかり、謎の試みを行い続けているその世界は、いつ見に来ても文化のたどった道が不可思議極まりない状態である。これを混沌と呼ぶのではないだろうかと、今回も思わざるを得なかった。

 そんな世界を流し見、悩む神は話す。


 とある神が人々の祈りを受け取らない事。

 聖女や聖人が祈れなくなる事。

 今の世界は気に入っている事…。


 友人の神は一切地上から目を話さず聞いている。


「気に入っているなら大切にすればいい。」

「わかっているわよぉ。そんな事。」


 神だとて、壊したいわけではない。

 今の世界を愛しているし、行く末は心配している。


「あぁ…博愛、良いタイミングで来たものだな。」

「?」


 ここまでどうでも良さそうに話を聞き、地上を見下ろしてたと言うのに、急に友である神は上機嫌にそう言葉にすると、いつの間にか手のひらに柔らかい魂を持っていた。


「大事にすると約束できるなら連れていくが良い。お前向きの聖女に成れるだろう。」


 人の子の魂は脆い。

 ふわりと渡された魂は、今すぐつれていくかを決めなければ世界に拡散し還元され、また生まれ直す準備をしてしまうだろう。拡散した魂は、神ですらもとには戻せない。


「そんな急に…」

「今だったから渡せた。早く決めろ。」

「いいわ。あたくし、この子を大事にすると約束しましょう。神の名にかけて。」

「約束確かに受け取った。早く行け。この世界に戻されるぞ。」


 主神は急いで魂を抱いて自分の世界へ戻り、空間を作った。

 渡された魂は、少しずつ小さく溶けゆきそうになっていく。あぁ、まだ、まだだめと、淡い光に望みを託して、魂に話しかけ始めるのだった。


 異世界の魂。

 異世界の神のお墨付きで渡された魂。


 どうか、世界の神である自分の願いを叶える存在になってはくれないだろうかと、大きすぎる役目と期待をかけて、この世界の聖女にと、魂のための入れ物を作り、あのわからず屋な神の土地へと降ろした。


「あたくし向きの聖女…。生まれた土地の神のお墨付きのその奇跡なんていらないわ。あなたが見せた、あたくしへの純粋さが、あなたの本質よ、かわいい子!」


 見送る姿にキラキラとした希望を向けて、創造の神は聖女を見送ったのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました。神視点ありがとうございます。 なるほど、単純に祈りが欲しかったのですね。 土地神が完璧主義で祈りの届くハードルが高かったと。しかし手を加えてしまうと今が崩れてしま…
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