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06 初戦闘開始

 町の近くの森を歩きながら、エリナが説明する。


「ドラゴン退治って言っても、邪龍みたいな真なる龍(エルダードラゴン)じゃなくて、街道に昔から住み着いてる偽なる竜(レッサードラゴン)だから安心して。別に討伐じゃなくて、追い返せばいいだけだし」

「追い返す?」

「そう。邪龍が出たせいで、他のモンスターが縄張りとしてるこの森に逃げてきちゃったの。そのせいで森のモンスターが刺激されて、凶暴になってる」

「なるほど……けど、そっちの竜も強いんだろ?」

「強くはないけど、頑丈よ。昔、街道のど真ん中に住み着いた時は、冒険者達が囲んで袋叩きにしてもいびき立てて眠ってたらしいし。最終的に旅の大魔術師が丘に追いやらなきゃ、流通に大きな問題が出たかもしれなかったんだって」


 エリナの話を聞きながら、俺は昨日から気になっていたことを質問する。


「そういえば、『真なる龍』と『偽なる竜』って何が違うんだ?」

「そうね……『龍』は魔神の血を引く強大なドラゴン。『竜』はそうじゃないドラゴン。姿はほとんど同じだし、今じゃ『龍』はほとんど存在しないから『竜』もドラゴンって呼ばれてるけど、昔は亜龍スードゥとかドレイクって呼ばれてたらしいわ」


 そうしているうちに、件の竜らしきものが見えてきた。かなり遠いし、木々に隠れて見えづらいが確かにいる。このドラゴンアイ、優秀である。


「あ、いた」

「え、どこ? ……いや、確かにいるわ。血の匂いがする」


 エリナがすんすんと鼻を鳴らす。この距離でも匂いを嗅ぎ取れる彼女も凄い。


「竜自身の血ね。邪龍に傷を負わせられてここに逃げてきたんだと思うわ」

「ん……他にもなんかいるけど、草が邪魔で見えないな。もうちょっと高いところに登れば……」

「よいしょ」


 脇の間に手を入れられ、エリナにひょいっと持ち上げられた。


「……あの、エリナさん?」

「どうしたの?」

「恥ずかしいからやめて」

「けどこうしないと見えないでしょ?」

「…………」


 黙って竜の方を見る。

 エリナの言う通り竜は胴体に大きな傷を負っていた。ほとんどふさがってはいるが、傷跡の部分の鱗がごっそりと削れている。


 だが、それ以上に気になるのが、竜を守るようにして周囲をうろつく、六体の骸骨だ。

 全体的なフォルムは人型だが、頭部だけは爬虫類のようになっている。人間らしさの感じられない動きでフラフラと竜の周囲をうろつき、骨から削り出したような剣を携えていた。


「……なんか、骸骨みたいなのがいるんだけど」

竜牙兵スパルトイね。生え変わる時に落ちた牙から生まれる竜の兵よ。竜自体が大人しくても、こいつらはすぐに襲ってくるわ」


 そう言いつつ、エリナは俺を抱えたまま、体重が無いかのような軽業で竜から少し近い場所にある木に登った。……別に俺が見なくても、自分でここに登れば普通に見えたと思うのだが。


「《風の鏃》《破裂の槌》」


 とりだした五本の矢に二つの魔法をまとわせるエリナ。そして、ソフトボール選手もかくやと言わんフォームで、矢を五本まとめて投げはなった。

 飛翔した矢は的確に五体の竜牙兵の頭部を貫き、爆散させた。魔法のアシストもあるのだろうが、凄まじい命中率である。


 竜は無反応だが、残った一体の竜牙兵は骨だけの身で掠れた咆哮を上げ、こちらへと走ってきた。


「じゃ、あいつはリュードがやってね」

「……え、俺?」

「そうよ。実戦しないと」


 木から降りて、俺に盾を構えさせるエリナ。……心の準備とかさせて欲しい。


 とりあえずは深呼吸をして、向かってくる竜牙兵を注視する。


竜牙兵/Lv25

種族:スパルトイ 状態:---

職業:ソルジャー

能力:---


 表示される情報自体は簡素なものだが、名前の横のレベルが25もある。


 大丈夫なのかとエリナの方を見るが、平然とした顔で手に持った矢を見せてくる。


「いざとなったら助けるから、安心して」

「……わかった」


 骨格のみであるがゆえか、竜牙兵は素早い動きで距離を詰めてくる。


「キシァアアア!」

「……」


 初めての戦い。剣を持って走り寄ってくる姿に、足がすくみそうになる――かもしれないと思ったのだが、特に恐怖は感じない。よく考えれば邪龍ウィルムとか横にいる吸血娘の方が怖かった。

 人間味を感じさせない無機質な動きのまま、竜牙兵は俺に向かって剣を振り下ろす。


 俺は横に跳び、剣を回避する。竜牙兵は返す刀で剣を薙ぐが、それも後ろに下がって避ける。

 普通にしていれば速すぎて見えない速度だが、「龍眼」を全開にしている今の俺にはスローモーションだ。ほんとこのドラゴンアイ優秀。


 とはいえ、余裕でいられるわけではない。俺自身のスピードが上がったわけではないので、上手く避けないと速度の差ですぐに追いつかれる。

 回避と防御を繰り返していく。動きが単調なので、攻撃は読みやすい。大ぶりになったタイミングを狙って、相手の腕に盾を叩きつけた。


 竜牙兵の手が砕け、剣が飛んでいく。


「よっしゃ――ぁ!?」


 それと同時に振り上げられる竜牙兵の脚を、慌てて自分の脚で受け止める。

 俺の鱗を勢いよく蹴った竜牙兵の脚はバキリと折れ、バランスを崩した。


 ふらつく竜牙兵に盾を構えて突進し、吹き飛ばす。


「キ、シ……。…………」


 ……倒れ伏した竜牙兵は動かない。だが、俺は目に力を込めて相手を見る。


竜牙兵/Lv25 状態:---


 まだ生きている。俺は慎重に近づき、頭部を勢いよく踏み潰した。


 今度こそ竜牙兵は力を失い、ボロボロと崩れ去っていった。

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