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05 冒険者登録

 何かが掛けられる感覚がして、目を覚ます。

 見れば、まだ暗い中エリナが俺をベッドに寝かして毛布をかけていた。……ベッドに温もりが残っている。


 俺に毛布をかけ終わったエリナは、椅子に座って目を閉じた。満足そうなドヤ顔である。「龍眼」の力か、暗いところでも驚くほどよく見える。


「(ふふ、これで完璧ね。ちょっとお姉ちゃんっぽいかも……)」

「あの……」

「ひゃ!?」


 猫が踏まれたような声を出し、目を開けるエリナ。


「お、起こしちゃった?」

「いや……俺が椅子で寝るから、エリナはベッドで寝ればいいよ」

「ダメよ、私と一緒に寝たくないっていうのはわかるけど、私の方が年上なんだから」

「だから俺も十七だってば……。あ、いや、こっちじゃ一年って何日ぐらいだ? 一日は二十四時間っぽいけど……」

「? 一年はどこの国でも三百三十三日でしょ?」

「俺の方が年上じゃん」


 それからしばらく言い合うが、この子、一歩も譲ろうとしない。頑固者すぎる。

 だんだんと眠くなってきたので、言い合いは有耶無耶になったまま眠った。



「…………」

「すぅ……」


 朝起きると眼の前にエリナの寝顔があった。起きている時は美人という形容詞が似合う彼女だが、寝顔は可愛らしい――ではなく。


「(なんで一緒にベッドで寝てるんだ……)」


 ひとまず起こさないようにベッドから降りる。きっと最終的に一緒に寝るとか言い出して、眠気に耐えられずにじゃあそれでいいとか言ってしまったのだろう。


 誰かと一緒のベッドで寝るのは、小学生の頃に姉と寝ていた時以来ではないだろうか。


「(姉さん達、どうしてるかな)」


 まだ三日目だが、普通に心配しているだろう。

 無事だと伝えたいが、焦っても仕方ない。


 待てよ、送還の魔法陣に手紙でも突っ込めば……いや、もし使えるのが一回きりだったりしたら困るか。


 エリナが寝ている間に服を着替える。普段なら顔を洗うのが日課だが、ここに水道はない。

 あるところにはあるらしいが、少なくともこの部屋には設置されていない。


 どこから水を汲めばいいかと悩んでいると、エリナが起き上がってきた。そろそろ結構な時間だと思うのだが、吸血鬼ゆえか朝は弱いようだ。


「……おはよう、リュード」

「おはよ――ンッ、お、おはよう」


 ……気を抜くとやたら高い声が出る。恥ずかしい。

 エリナに水はどこにあるかと聞くが、彼女は寝起きの顔でぼーっとこちらを見た後、「ああ」と呟いて呪文を唱え始めた。


「《神に捧ぐその身、光にて清めよ――浄化の光》」


 指先から光が放たれ、俺の身体を包む。


「はい、綺麗になった」

「え、これで?」

「吸血鬼の弱点にもなる神聖系の魔術よ。自分に使うと肌がヒリヒリするから、水浴びができる時は使わないけど」

「吸血鬼の弱点っていえば、エリナは陽の光とかって大丈夫なのか?」

「私は隔世遺伝せんぞがえりだから、ほとんど弱点はないわ。その分吸血鬼としての能力は弱くて、血の匂いを嗅ぎ取れる程度だけどね」


 そう言いつつ彼女は自分にも魔術をかけ、服を脱ぎ始――待て待て。


「……どうしたの?」

「俺、外出てるから、ちょっと待って」

「なんで? 見られても気にしないわ」

「俺が気にする。いいから、少し待ってくれ」

「別にそこまで男の子のふりしなくても……」

「だから本当に男なんだって!」


 部屋を出る。遠くに行くわけにもいかないので、扉の前で待機だ。


 しばらくすると、装備を身につけたエリナが部屋から出てきた。


「お待たせ。それじゃ、行きましょうか」

「行くって、どこに?」

「ん……リュードが何をしたいかで変わるわね」


 そう言いつつ、エリナは少ししゃがんで俺と目線をあわせた。……完全に子供扱いでつらい。


「血を吸わせてもらう代わりのお礼、あなたは何が良い? 故郷まで送って行く? それともどこかで引き取ってくれる、信用できる人を探す?」

「……呪いを解いて、元の姿に戻る。それを手伝ってほしい」


 俺がそう言うと、エリナは少し面食らったような顔をした。


「それは……難しいんじゃないかしら。ドラゴンメイド自体ほとんど例が確認されていないし、自分の力で眷属化を解除するにも、龍の力なんてそうそう超えられるものじゃ……」

「難しいことはわかってるけど、なんとかして戻らなきゃ両親も姉さんも、俺だってわかってくれない」

「……わかった。できる限りのことはするわ」


 そう言って、エリナは俺を両腕でぎゅっと抱きしめた。……思った以上におっぱい大きい。

 慌てて引き離し、宿の廊下を歩いていく。


「ええっと、その、そのためには、どうしたらいい?」

「うーん、まずは、旅をするためにも冒険者ギルドに登録するところからかしら。モンスターとも戦えるし」

「冒険者……旅をするのはいいけど、別に戦わなくてもいいんじゃないか? 強くなるなら他に修行とかでも……」

「ダメよ。実戦が一番いいの。うちの家じゃみんな技だ知恵だって言ってたけど、結局戦い慣れした私が一番強かったんだから」


 腕を組んで自慢げに語るエリナ。

 ……まあ、経験則からくるものならそれなりに信用できる……のか?


「じゃ、さっそく行きましょ。まずは装備を揃えるために鍛冶屋からね」



 冒険者ギルドのすぐそばにある鍛冶屋に入った。

 中には無造作に剣や鎧が並べられており、少し男心をくすぐられる。


「ちょっとワクワクするな」

「ふふ、男の子みたいね」

「だから男だってば」

「はいはい。とりあえず、適当な兜を角があっても被れるように調整して、鎧は胴体を重点的に守るものにして……武器は何がいい?」

「うーん……」


 強くなって邪龍の力を超える、というのはやっぱり俺自身が強くならないと無意味だろうし、極端な話無くてもいいような気がする。

 だが、こうして剣なんかを見せられると、やっぱり何か欲しい。


「じゃあ……これとか」


 肉厚な、いかにも実用品といった感じの直剣を手に取る。無骨な感じがかっこいい。

 ぱっと見た感じそこそこ重そうに見えたが、木の枝のように軽い。このドラゴンハンド、耐久力だけじゃなく腕力もかなりあるようだ。


「……? リュード、ちょっとそれ振ってみて」

「ん? わかった――っとお!?」


 剣を両手で持ち、縦に振り下ろす。一瞬で剣が手からすっぽぬけ、宙を舞う。あ、宙を舞ったのは俺の方である。

 壁にぶつかり、強かに頭を打った。


「……痛い」

「ご、ごめんね、まさかこんなに飛ぶとは……」


 エリナが俺の頭を撫でつつ回復魔術をかけ、顎に手を当てる。


「……腕の力はすごいけど、体幹がダメね。それでも普通よりは筋力があるから、鍛えれば扱えそうだけど……」


 アニメなんかによく登場する、巨大武器を振り回す小柄な少年少女のようにはいかないらしい。


「なるほど……。じゃあ、ナイフとかの方が?」

「それじゃあせっかくの腕力がもったいないし、強弓……いや、まともに扱えるようになるまで時間がかかるわね。だとすると……」


 悩んだ末、エリナがチョイスしたのは――盾だった。

 確かに今の俺なら重厚な物でも簡単に持てるし、剣ほど振り回さなくていい。


「……なんか、強くなるって目的からかけ離れてる気も……」

「そうでもないわ。盾だって立派な武器の一つよ。ほら、これなんか棘とかついてるし」


 龍の脚で一気に突進し、龍の腕で盾を構えて体当たり。なるほど、シンプルに強い。小回りは利かなさそうだが、その場合は生半可な鉄より硬いこの手で殴ればいい。……なんか脳筋っぽくて複雑な気分になる。


 真っ当な武器でないのは少し残念だが、合理的だ。


 そのまま盾と革鎧を購入し、事情は上手く隠しつつ、兜に穴を空けてもらった。

 角を見られないように店の隅に隠れ、兜を着ける。


「どう? 被れそう?」

「ん……これでどうだ?」

「大丈夫そうね。あとはこれで……」


 エリナが店主にもらった、革の切れ端を俺の角に巻きつけていく。


 俺からでは角が見えないが、彼女は満足そうに頷いた。


「うん、これなら兜の飾りっぽく見えるし、人前に出ても問題ないわ」

「んー……鏡が無いの不便だな」

「この辺りは田舎だもの。もっと大きい街に行けば色々あるわ」


 話しつつ、隣にあるギルドへと入る。

 武装した男性たちが多く、エリナのような少女はあまりいない。いや、いるにはいるが、あまり強そうではない。


 試しに龍眼で覗いてみる。


パメラ/Lv5

種族:人間 状態:---

職業:メイジ

能力:魔術/Lv1


ケリー/Lv9

種族:人間 状態:---

職業:ハンター

能力:射撃/Lv1


 ……やっぱりエリナと比べると格段に弱いらしい。確か彼女はLv47と表示されていたはずだ。

 そういえば俺はどうだったかと、自分の手を見て目を見開く。


柳洞龍画/Lv2

種族:ドラゴンメイド 状態:眷属化

職業:サクリファイス

能力:龍眼/Lv1、咆撃/Lv1、眷属/Lv5


 他人のことを言えないぐらい弱い。が、昨日と比べるとレベルの部分が一上がっているし、咆撃という能力が増えている。おそらくだが、昨日ブレスを撃ったことによるものだろう。


「リュードの登録お願い。年齢なんかの条件は満たせてないけど、私の紹介があるから大丈夫でしょ?」

「はい、エリナさんはⅢランクでも上位ですから、簡単な手続きだけで済みますよ」


 そうやって周りの冒険者たちの能力を見ているうちに、いつの間にか手続きが終わった。


「はい、これがリュードさんのギルドカードです。失くさないように」

「あ、どうも」


 白色の金属板を渡される。「リュード・リューガ」という名前と、よくわからない魔法陣が刻まれただけの簡素なものだ。


「それじゃ、まずはこの依頼からね」


 手続きを終えたエリナは、そのままギルドの壁に貼られた紙の一枚を剥がした。

 それを見た他の冒険者たちが、ざわざわと話し声を立てる。……なんだろう、珍しい依頼なのだろうか。


「エリナ、その依頼って?」

「うん? ドラゴン退治よ」

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