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04 装備品変更

「あの、気持ちは嬉しいんですけど、俺、男なんです」

「……? ああ、人前ではそういう風に扱って欲しいってことね。ドラゴンメイドだってバレたら、すぐに捕まって売られるし」


 そういうことではないのだが、それ以上に聞き逃せない言葉があった。


「う、売られる?」

「ええ。本来、強大な英雄のみが手にできるはずのドラゴンの素材……それも、一般的な偽なる竜(レッサードラゴン)じゃなく、真なる龍(エルダードラゴン)の素材が無力な少女にくっついてるんだもの。回復魔法で癒されながら、何度も鱗を剥がれるでしょうね」

「うぇ……」


 想像以上にエグい……俺の異世界生活ハードモード過ぎる。顔隠しといてよかった。


「当然、非合法よ。仮にあなたが奴隷だったとしても、そんな非人道的な扱いをこの国の法は認めていないし、国以前に騎士としてそんなことは認めない」

「騎士、なんですか?」

「……家はね。吸血鬼の力があるってバレて、追い出されたけど」


 ……この子も大変そうである。


「とにかく、私がいるうちは安心して大丈夫。それに、あなたの声じゃ男だって偽るのは無理があるもの」

「だから、そうじゃなくて……ドラゴンに身体を変えられただけで、元々は男で……」

「いいのよ、自分まで偽らないで」


 優しく頭を撫でられた。どうしよう、やっぱり話を聞いてくれない。


 このままいけばまた面倒なことになりそうなので、仕方なく用意された服を着ることにする。また勘違いでバトルするようなのはゴメンだ。


「……その、見ないで欲しいんですが」

「そうなの? じゃあ、一応後ろ向いてるから」


 くるりと背中を向けられる。……できれば室外に行って欲しかったが、まあ仕方ない。


 ひとまずパンツからだ。文明レベル的に少し心配していたが、思ったよりちゃんとしている。エルディアナが良い奴を買ってきてくれたのかもしれない。

 トランクス派なので(というか、ブリーフ派というのはどれだけ存在するのだろうか)、股間に張り付く感覚に戸惑う。寝てる間にサイズを測られたのだろうが、深く考えると羞恥が湧き上がってきそうなので、努めて気にしないようにする。


 ブラジャーはなく、代わりにタンクトップのようなインナーがあった。この世界にはまだ無いのか、それとも俺にはほとんど無いので必要ないと思われたのか。どちらにしろ付け方がわからないので好都合だ。


 上着はブラウスだ。この世界でも女性の衣服は左手側にボタンがあるようで、着るのに少し戸惑う。


 スカートはサスペンダー付きだった。初めて身につけるが、それほど着るのが難しいわけではなかったため、普通に着用できた。


 用意された服を身につけ終わり、身体を見下ろす。


「(しかし、これ……)」


 ……なんというか、子供っぽい。言ってしまえば、小学生女児が身につけるような服だ。

 確かに今の身長はそれぐらいだろうが、しばらくこれを着ていなければいけないと思うと、精神が削れていく気がした。


「うん、やっぱり似合うわね」

「はぁ、そうですか……」


 げっそりとしながら頷く。エルディアナは気づいていないのか、ニコニコと微笑みながら、白いリボン付きの、大きな麦わら帽子を手渡してきた。


「ほら、これで角が隠れるでしょ? 耳は……ハーフエルフとでも言っておけば大丈夫ね。実際、顔立ちもそれぐらい綺麗で可愛いし」


 中身は男なので、綺麗とか可愛いとか言われても別に嬉しくはない。それにきっと、ほとんどはお世辞だろう。俺の元の顔は普通だったし、あの邪龍が人の美醜を理解していたようには思えない。


「あの、エルディアナさんが着けてるっていう隠蔽の魔道具? を使うのはダメなんですか?」


 俺がそういうと、一瞬きょとんとした顔になるエルディアナ。


「なんで名前を――あ、もしかしてそれも龍の眼力?」

「ええ、まあ。名前と、種族と、あと能力がなんとなくわかります。……確か、下の名前はアストレイで、得意なのは射撃と、魔術、風魔法でしたよね」

「そこまでわかるんだ……。けど、家を追い出せれてからはエリナって名乗ってるから、そう呼んで」

「あ、はい」


 エリナ、エリナか。エルディアナより呼びやすい。


「最初の時に聞いたけど、あなたはリュード――でいいのよね?」

「そうです。正確にはリュウドウですけど……まあ、どっちでも」


 ついでに言うと柳洞(りゅうどう)は苗字だが、それもまあどっちでもいい。もしこの世界に知り合いでもいてバレたら嫌だし。


 エルディアナ――エリナが軽く咳払いして、話を戻す。


「それで、隠蔽の魔道具だけど……鉄の賢者イーヤが遺したっていう貴重な品で、一個しか無いの」


 エリナが袖を(めく)りあげ、金属製の腕輪を指し示す。これが隠蔽の魔道具なのだろう。


「それに、髪の色を変えるとか、牙を普通の歯に見せるとか、ちょっとした変化しかできない。角をまるごと見せなくするっていうのは、多分難しいわ」

「あ、そうなんですか……」


 思わず肩を落とす。帽子が飛ばないように、顎紐か何か用意した方がいいだろうか。いっそ兜があればいいのだが、特注のものでもなければ被りにくそうだ。


「こっちは手足を隠すための手袋と、ブーツ。結構厚めで大きいのを買ってきたから、手が動かしにくいかもしれないけど我慢して」


 薄茶色の、手袋とブーツを身につける。確かに手が動かしづらいが、これは仕方ない。手甲を常に身につけているよりはいいだろう。


「あとは……お金も少し渡しておくわ。しばらく旅ができるぐらいの分はあるはずよ」


 エリナに金貨袋を渡される。ずっしりと重い。……これ、かなり入ってないか?


「もし嫌になったら、それを持って、いつでも私から離れていいわ。けど……そうでないなら、一つだけお願いを聞いて欲しいの」

「それは、面倒を見ることの代わりに、ですか?」

「いいえ。そっちは迷惑をかけたお詫び。このお願いを受け入れてくれるなら、あなたのお願いも、できる限り叶えて見せる」


 ずっと顔を近づけてくるエリナ。少しキツい顔だが、美人という言葉が誂えたようによく似合う。思わず一歩下がるが、そこは壁だ。


「そ、その、お願いって言うのは……?」

「それは……」


 ――と、そこで大きな腹の音が鳴った。


 一瞬誰の音かと辺りを見渡し、俺の腹から鳴っていることに気づく。


「あ……」

「……先に、ご飯にしましょうか」


 苦笑しながらエリナが部屋の扉を開けて手招きする。その顔は先程とはまるで違って、普通の少女のようだった。



「ほら、ちゃんと野菜も食べて」

「けど、ここの野菜パサパサしてて不味いんだよ……。俺の方も、龍のせいで肉好きになったみたいだし」

「もう、敬語は使わなくていいって言ったけど、そんな乱暴なのはダメ。自分のこともなるべく『私』って言った方がいいわ」


 少し距離が縮まったせいか、エリナが少し口うるさい。聞いた感じ良いところの出っぽいし、マナーもしっかりしてるのかもしれない。


 小さい頃、姉さんがこんな感じだったなあと思いつつ、やはり美味い肉を頬張る。


「ところで、エリナは何歳なんだ?」

「私は十七。リュードは?」

「あれ……十七って言ったと思うけど」

「嘘よ、せいぜい十二歳ぐらいでしょ?」

「…………」


 そこまで今の身体は子供っぽいのだろうか。


 エリナが食事の代金に顔をしかめるという一幕はあったものの、特に問題なく先程の部屋――町の宿の一室に戻ってくる。

 俺は結構な時間気を失っていたらしく、食べ終わる頃には外は真っ暗になっていた。


「さて、と」


 エリナがベッドに座り、ポンポンと自分の横を叩く。


「リュードも座って。さっきのことについて話すわ」


 少し距離を開けつつ、ベッドに座る。


「お願いっていうのは……これから、たまにでいいから、あなたの血を吸わせてほしいの」


 まあそんなことだろうなーと思っていたので、特に驚きはしない。


「……軽蔑するわよね。売られて鱗を剥がれるとか言っておきながら、やることは同じなんだもの」

「いや、別にいいよ。はい」


 左腕を差し出す俺に、目を瞬かせるエリナ。


「……いいの?」

「まあ、さっき吸われた感じ特に痛くもなかったし。それに、正直ただ面倒を見るってだけじゃ怪しいなとも思ってたから、逆に安心した」

「……そっか」


 少し複雑な顔をしながら、俺の左腕をとるエリナ。……言い方が不味かったかもしれない。


「えっと、血吸わないと色々大変なんだろ?」

「……いえ、人間の血は美味しいけど、必須ってわけじゃないわ。獣やモンスターでも代用できるし」

「え? そうなのか」


 てっきり、吸わないと死ぬみたいな感じだと思ってたのだが。


「私がリュードの血を吸いたいのは、もっと個人的な理由――強くなるためよ」


 強く、という言葉に思わず反応する。


「強く……?」

「吸血鬼は、強者の血を吸って力を得る能力がある。龍の血を吸って、強くなって……私を追い出した家に――復讐する」

「え……」


 エリナは、はっとした顔でこちらを見た。


「ご、ごめんなさい。気にしないで。今日はもう血もいいから、一緒に寝ましょう?」


 エリナはそそくさと準備をして、布団に入った。


「……うーん」


 いい子ではあると思うのだが、果たしてこの子についたのは正解だったのだろうか。


 考えても答えは出ない。彼女の言う通り、ひとまず今日は寝ようと毛布を被り、女の子と一緒のベッドで寝るわけにもいかないので椅子に座って寝た。

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