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優奈の撃退☆大作戦!  作者: 敷金
2/3

後編

その家は、人里離れた場所に、一軒だけぽつんと佇んでいる。

そんな場所に、俺達は車で向かおうとしていた。


「随分寂しいところにあるもんだな?」


「ああ、俺も同じ事考えてたよ」


車を運転しながら、相棒の呟きに適当に返す。

地図が正しければ、そろそろ見えてくる筈だ。


「おい、あれじゃないか?」


相棒が、左前方を指差す。

車のライトに照らされ、一軒の家屋のシルエットが、暗闇の中で浮かび上がった。


「えっ、ここって――本当に、ここでいいのか?」


「ああ、その筈だが」


「これ、どう見ても、廃墟じゃね?」


「ああ、俺も同じ事考えた」


「ここ、入るの? 今から? 俺達?」


「ああ、俺もお前と同じ気持ちだ」


「……真面目に話そうぜ、相棒よ」


「ああ、俺も同じ事考えてた」


「……」


適当な生返事を返してばかりなのは、理由がある。

俺の頭の中では、今回の仕事の内容が、とても引っかかっていたからだ。


今回の依頼は、行方不明者の捜索。


一年前に行方をくらませたある人物の情報を調べて、ようやく掴んだ有力な手がかりを追って、今まで来たこともない北陸の寂れた町まで辿り着いたのだ。



俺は五代、職業は「何でも屋」。

何でもというのは伊達じゃなくて、行方不明のペット捜索から家の掃除、引越しの手伝いからストーカー対策まで、ありとあらゆることをやる。


中には合法とは言いがたい……例えば中小企業の夜逃げの手伝いとかもあるが、基本的には人助けに拘って真面目に活動しているのだ。



俺は、助手席でガタガタ震え始めた相棒の仲田を、横目で見た。



「――なんかさ、ガチでやばそうじゃない? 帰らない?」


「莫迦言うな。もう金貰ってんだから、そんな事出来るか」


「し、調べてみて、何もなかった……ってことにしてさ」


「そんな訳にいくかよ」


正直な話、俺が仲田と同じ気持ちというのは嘘ではなかった。

様々な事情を経て、俺は行方不明者の消息が、ここで途絶えていることを突き止めた。

否、そうとしか考えられない証拠が、沢山あったのだ。


やがて車は、林の中に立つ一軒家の前に辿り着く。

柵はなく、どこまでが庭でどこからが敷地外なのか、全くわからない。

80年代辺りに建てられたと思われる、白い二階建ての洋宅。

海辺にでも建っていれば、ちょっとした別荘のようでイカした家だと思うのだが、はっきり言って場違いな場所に建っていると言わざるをえない。


俺は車を停めると、LEDライトと鞘つきのナイフ、いつもの「七つ道具」を抱える。

仲田も、覚悟を決めたのか、もさもさとだが準備し始めている。


仲田はこういう時、いつもなら切込み隊長のように先に突っ込んでいくのだが、今回は妙にビビっている。

珍しいものが見れたもんだ、嬉しくはないが。



俺達は、問題の家屋の玄関に立つ。

鍵を開けようとするが、はなからかかっていなかったらしく、ノブはあっさりと回った。


「おい、手袋は?」


「今回は別に指紋残しても問題ねぇだろ」


「あ、ああ、そうか」


「でも、中に入ったら話は別だな。怪我したくねぇから」


「俺、今のうちに着けるわ」


半分黒ずんだ皮手袋を着ける仲田をよそに、俺はとっととドアをくぐる。

長年流れていない、篭った空気の層が、むわっと俺に襲い掛かる。

廃墟独特の、かび臭い匂いに、俺は一瞬むせそうになった。


LEDライトに照らされ、一階の状況が見えてくる。

左手には二階への階段があり、右手には別室へのドア、また奥のフロアへ通じる廊下がある。

廊下の奥にはリビングがあるようで、階段の下の空間にはコンパクトな浴室が配置され、その向かいにはトイレがある。


こうして見ると、ここが廃墟である事以外、特段変わった感じはしない。

――だが、何かがおかしい。


俺は、疑問を抱えたまま、まずは一階の捜索――いや、探索を開始することにした。


玄関脇のドアは、応接間のようだった。

ここのドアは何者かに激しく破壊されており、外れて壁に立てかけてある有様。

ここは結構豪華そうな家具が置かれていて、革張りのソファー一式や重たそうなガラスのテーブルなどは、相当値段が張りそうに思える。

しかし、それらは刃物で切り裂かれ、或いは鈍器か何かでぶち割られ、酷い有様だ。


「廃墟で暴れる輩の仕業ってとこかねえ」


「そんなとこだろうなあ。

 見ろよこの壁の落書き。卑猥なマークをよくまあこんなに」


「どーしてこういう破壊活動するんかね、俺よぅわからんわ」


「ああ、俺も同じ事考えてた」


「……」


何故か不満そうな表情の仲田を無視し、俺は応接間を調べたが、特にこれといって怪しいものはなかった。

――調べるといっても、ただ何処に何があるか、を見るだけではないのだが……


廊下を抜けて、次は奥のリビングだ。


「へぇ、結構綺麗じゃん?」


「思ったよりはね。けど、よく見ろよ」


「おう……」


そこは、一見するとついこの前まで人が住んでいたかのように整っている感じがしたが、よく見ると長い間放置されていた痕跡が赤裸々に残っている。

深く積もった埃に、割れ砕けた食器棚のガラス、開け放たれた冷蔵庫、そして台からずり落ちたテレビ。

テレビは薄型なので、一瞬近年の液晶か? と思ったが、どうやら一時期だけ売られていた薄型ブラウン管のようだ。

画面には、埃にむせる俺の顔が写っている。


「もし、後ろに誰かの顔が写ってた……なんてったらやばいよな」


「あのさ……とっとと調べて出ようよ~」


仲田の懇願をド無視して、俺は、もう一度室内の様子を窺った。


玄関や応接間の破壊度に比べ、確かに、このリビングだけは破損の後が少ない。

いや、確かに誰かが暴れた後はあるが、その割合がとても少ないのだ。


「ゆ、幽霊がさ、ここ……守ってるとか?」


「莫迦な、んな事あるかよ」


俺は、リビングの更に奥に、更なる部屋へと通じる戸がある事に気付いた。

早速そこへ進もうと、取っ手に手をかけた瞬間――



「わぁっ?! お、おい!」


仲田が、突然大きな声を上げた。

さすがの俺も、それには心臓が止まるほど驚いた。


「脅かすな! 何なんだよ一体?!」


「い、今、げ、げ、玄関に!」


「玄関に、なんだよ?」


「し、白い影が!」


「アホ言ってねぇで、とっとと先行くぞ」


「だ、だってぇ」


「なんだよ今日に限って。

 やくざ五人に囲まれても余裕で反撃かますお前がさぁ」


「だ、だ、だって俺、こ、こういうの、弱いんだもん!」


五(人選間違えたか……)


だがそうはいうものの、実は俺自身、先ほどから嫌な気配を感じてはいた。

まるで、この家に他に人が居るかのような――

何度か視線を感じたこともあったが、懸命に気のせいだと、自分に言い聞かせていた。


「さて……と、あ、あれ?」


リビングの戸は、立てつけが悪いのか、びくともしない。

よく見ると、先の侵入者達も力ずくで開けようとして諦めた痕跡があり、下の方には靴で開けられたらしき穴がいくつかある。


「ここから先は、まだ誰も立ち入ってないってことかな?」


「ど、どうするんだよ~! 開かないなら諦めるしか」


「そういう時のための道具だろうが!」


多少イラつきながら、俺は小型のバールのような物とハンマーを駆使し、戸を丸ごと取り外した。

その向こうにあるのは、どうやら和室のようだった。

比較的まともに状態が保持されていて、リビングよりも整っている。

ただ一箇所だけ、妙に違和感のある部分があるのだが。


「なぁ、これ、どう思う?」


「え? あ、ああ……? な、なんだこれ?」


俺は、和室の床の一部を、ライトで照らしてみた。

部屋の奥の一角だけ、畳の角が若干浮き上がっている。

和風箪笥や小さなテーブルが置かれているだけの、比較的落ち着いた部屋の中で、その部分だけがやたらと異彩を放っている。

ライトで照らしているから、変な角度の影が出来たせいかもしれないが……


しかしそれよりも目を引いたのは、そこに向かって付いている、黒く長い染みだ。

まるで、何かを引き摺ったような跡にも見えるが……


「どう、思う?」


「……あ、ああ、なんかヤバイ臭いがぷんぷんするんだけど」


「よし、手を貸せ」


俺は、浮き上がった畳の角に手を入れ、力一杯持ち上げようとした。


「お、おい!」


「早くしろって!」


「そ、そんな事して、何になるんだよ?!」


俺の勘が、この畳の下に、重要な何かがあると告げている。

つうか、それはもう確信に近い感覚だった。

俺は嫌がる仲田の力を無理やり借りて、なんとか畳をめくる事に成功する。

ドスン、と大きな音を立てて倒れる畳をよそに、俺達は、その下から出てきた物に目を奪われた。


そこには、穴があった。

いや、正しくは穴じゃない。

床板を無理に引き剥がし、それを再度釘で強引に打ちつけて塞いだような、違和感バリバリの状況だ。

その穴の大きさは結構なもので、しかも周囲に黒い染みがべっとりと付着し、乾燥している。

それが一体何なのか、もはや口に出すまでもない。


俺の心の中で、何かが音を立てて繋がった。


「剥ぐぞ」


「ええっ?!」


「道具ならある」


「い、いや、そうじゃなくってさ、これってもしかして……」


「多分そうだろうな」


「い、いや待った! お、俺、車で待ってるからさ!」


「莫迦かお前! 出てきたものを写真に撮るんだよ!」


「ま、マジですか?!」


「それが俺達の仕事だろうが! オラ行くぞ!」


 メリメリ、バキッ!!


俺は、道具箱から釘抜きを取り出すと、次々に釘を取り外し、板を取り除いた。

思った以上に作業は早く進み、やがて人が一人入れるくらいの穴がぽっかりと開いた。


そこには、所謂“深遠の闇”って奴が広がっている――


「よし、俺が先に入る」


「でぇっ!? って、じゃあ俺も?!」


「行くぞ! ここまで来たら度胸出せ! 覚悟決めろ!」


「トホホ……」


俺は、穴に身を躍らせ……もとい、苦労しながら身体をねじ込み、床下に潜り込んだ。

ライトで床下を照らす――と。


「あれ、なんだ?」


「えっ? ――って、おいおいおいおい!!」


ライトに照らされているのは、毛布の塊。

しかも、丁度人間がすっぽり納まるくらいの大きさだ。


「も、もういいだろさすがに! ここからは警察の役目だぞ!」


「まぁ待てよ……正直、俺もブルってるけどよ、ここまで来たら」


「なんでお前、そんなに度胸あるんだよ! 信じられねぇ!!」


喚く仲田を無視し、俺は毛布に接近した。

部分的にドス黒く変色した布地に、手袋越しで触れる。

ややぬるりとした感触を覚え、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「め、めくるぞ……」


毛布の端をつまんで、俺は、思い切りめくり上げた。

実際、思い切りだったかどうかはわからない。

だが、狭い空間の中で、俺は出来る限りめくったつもりだった。


途端に、言葉では言い表せないような不快な臭いが、周囲に充満した!


「げほ! げほっ、げほ!」


「ひゃあぁぁぁ! や、やっぱこれってぇ?!」


最後の勇気を振り絞って、俺は、毛布の中にライトの光を当ててみた。

だが――さすがに、それが限界だった。


「し、死体だ! う、腕が! 腐ってる!!」


「ぎゃあああああああああ!!」


「うわあぁぁぁぁっ?!」


ありったけの緊張感をみなぎらせ、かろうじて平静を装っていた俺も、もうこれ以上は耐えられなかった!

仲田を押し上げるように穴から這い上がると、俺はリビングまで逃げ出した!


「やべえ! やっぱり、やっぱりだぁ!!」


「まずいよ、もうまずいよ! 逃げよう、逃げるぞ!」


「ま、まま、待て! しゃ、しゃ、写真……」


「んなの、無理に決まってンだろ!」


毛布にくるまれた腐乱死体。

すっかり恐怖に支配された俺達は、逃げるようにリビングから飛び出……そうとした。


だが、その時。



 ――ガタガタ、ガタガタ!


 ――ガタガタ、ガタガタ!


大きな音が、窓の外から響き始めた!


「うわあっ?! な、なんだ?!」


「か、風?! それとも――」


「見て来い! 仲田!」


「えーっ! なんで俺が?!」


「俺が雇い主だからだ! とっとと行け!」


「えぇぇ……」


俺は、物凄い剣幕で仲田を怒鳴りつけた。

奴は恐る恐る窓――というか庭へ抜けるサッシの方へ歩いていく。

どうやら、雨戸がガタついていただけのようだ。


「お、おい……だ、誰もいねぇ……ぞ?」


「か、風で揺れただけだって!」


「風なんか全然吹いてねぇよ!」


「……!」


俺はもう、すっかり冷静さを失っていた。

それが自覚できるほど、心臓はバクバク鳴り、脚はガクガク震えていた。

確かに、ここは仲田の言う通り、素直に逃げ出すべきだった。

だが、俺の――中途半端なプライドが、音の正体を確かめたいと思ったのだ。

つうか、何もない、自然現象でたまたま音がなったのだという、確信を得たかった。


俺は仲田を避け、サッシと雨戸を開けると、庭に躍り出た。

もしかしたら、俺達がここに入り込んだのを見ていた誰かが、脅かそうとしているのかもしれない――そんな気もして来たのだ。


俺は、もし誰かが雨戸を揺さぶっていたのなら、まず間違いなく辿るだろうルートを考え、その方向を確かめることにした。

家の角を曲がり、脇に踏み込んだ瞬間――




 オォオオオオオォオオォオオオオオオ―――



俺の眼前に、真っ白な影? 布? 骨? が、突然現れた!



「――ぎゃあぁぁぁっ?!?!」


「出た、出た! デタァァァァァァ!! マジで出たぁっ!!」


すぐ後ろから、仲田の叫び声が響く。

なんてこった! ガチじゃねぇか!!

冗談じゃねぇぞぉ! 


「居あう円bpwhvcmёЖ(゜з゜)‡?!?!!?」


俺は、訳の分からない叫び声を立てながら、背後から迫る恐怖から逃げ出した。

もう、なりふりかまってなんかいられない!

慌てて車に飛び乗った俺達は、シートベルトをはめるのも忘れ、エンジンをかけた。

車を切り替えしていると――


「わああああああ!」


「なんだぁ! おどかすなぁ!」


「お、追ってきたぁ!!」


「ナニィィィィ!!??」


俺は、その時、はっきりと見た。

バックミラーに写る、白い影。

それは両手を広げるような姿で、身も凍りつくような恐ろしい形相で迫ってくる。


ほんの僅かな時間に過ぎなかったが、その恐ろしい姿は、俺の網膜にしっかり焼き付いてしまっていた。


何が悪戯だ! 何が廃墟だ! ガチじゃねぇかよ!! くそったれ!


俺は、横で急かす仲田の声をガン無視して、とにかくアクセルを目一杯踏み込んだ。

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