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あくちゃん

作者: 有村梨沙
掲載日:2018/02/26

娘は機嫌が良いとき、私のことを「あくちゃん」と呼ぶ。

「あくちゃん」という名前は、私が夫と結婚する前、

友人たちから呼ばれていたあだ名だ。


旧姓を捨て、夫の姓になることに、さほど抵抗はなかった。

“いつかは誰かと結ばれ、その人と温かい家庭を築く”

それが、女の子の幸せだと思っていたから。

「芥川」から「吉岡」になった時も、(ああ、苗字が変わったんだな)

そう思っただけで、それ以上の深い感情は抱かなかった。


「あくちゃん」

娘にそう呼ばれると、どこか若返った気持ちになる。

幼い恋に身を焦がしていた、大学時代を思い出し、

胸がきゅっと締め付けられる。


(私にも、こんな若い頃があった―)

もうあまり思い出せないが。夫と出会う前、自由に生きていた

あの時代、確かに私は、その苗字で呼ばれていた。


「詩織に香織、いつまで寝てるのッ!いいかげん起きなさい!

会社に遅刻するわよッ!!!」


そんな私も、今や二児の母。

二人が二人とも、良い歳して母親抜きじゃ生活できないのが情けないわね。

まあ、それは今は置いといて。

夫と結婚したことに対して、後悔は何ひとつしてないわ。

「夫婦生活がしんどい」そう思うことも多々あったけれど、

なんだかんだいって、私は家族のことを一番に愛してるもの。


でもね、ふとした瞬間に無性に寂しくなる時があるの。

ああ、私もう二度と、「あくちゃん」って呼ばれないんだなって。

死ぬまで、「吉岡さん」として生きる。

“愛する人と一緒になれるなら、それでも良い”

ずっとそう思っていたけれど―


ゴメンなさいね、こんなどうでも良いことをぼやいて。

ぼやいたところで、何も変わらないのにね。

貴方がつい熱心に私の話を聞いてくれるものだから、

つい本音を吐き出しちゃった。

最後まで私の文章を読んでくれて、どうもありがとう。



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