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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
落とし物には気を付けて
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第7話 コミュ障にも色々タイプがある

 気がつくと雄一は、やはり女子更衣室にいた。

 

 周囲に人の気配は無い。

 前回と違い、攻撃を受ける心配はなさそうだ。


 ケータイを開いて時刻を確認する。

 5月29日、9時20分。今日の1限目の授業中だ。

 

 とりあえず、思い通りの時間には戻って来ることができたようだ。

 ふう、と安堵の息を漏らす。


 正也の計画した実験はここからだ。

 雄一にとってはただの実験ではなく、自分を励ましてくれた少女、役所朱鳥(やくしょあすか)への恩返しでもある。

 朱鳥の無くした消しゴムを見つける。それだけのことだが、雄一はどんなことでもあの少女の力になりたかった。

 どこか悲しげな雰囲気ながら、無邪気な笑顔を見せる少女の力になってあげたかった。


 よし、と気合いを入れ直し、雄一は女子更衣室そっと出ていった。



――――――


 授業中であったが、廊下に出ていても誰もおらず、探されている様子もなかった。

 前回過去に戻った時は、魔女に見つかり教室に連れていかれたが、教室にいなくてもそこまで意識されていないようだ。

 

 やはり過去に戻った人間は存在が薄いのだろう。


「消しゴムは過去の役所ちゃんに渡すんじゃなくて、どっかに隠しておいてね。もし未来が変わって観測ができなくなると困るから」

 

 計画を立てている時に正也が言っていた事だ。

 

 前回過去に戻ったときに、雄一は過去を変えたことで、現在に戻ってきた時の状況が変わっていた。

 今回は実験が主な目的となっている為、極力未来が変わるような行動はとらないように気を付けろと言うことだ。


 もし消しゴムを朱鳥に渡してしまったら、今回の雄一への依頼自体が無かったことになる可能性がある。

 それも考慮した正也の意見だった。


 今回の実験で確認することは三つだ。


 過去に戻る方法の再現性。

 過去で雄一が別の人物となること。

 現在に戻るタイミング。

 

 よくよく考えてみれば過去から現在に戻って来れる保証は無いわけなのだが、それを正也に話すと

 

「成功のためにはリスクは付き物だ」


 などと煙に巻かれてしまった。

 それは本来リスクを背負う当人が言うセリフな気もしたが、どうせ丸め込まれるのはわかっているので特に言い返すことはしなかった。

 

 自分にとってもほぼ唯一の友人が消えてしまうかもしれない、というリスクは一応正也にもあるのだが。

 バカな雄一にはそんな考えは思い浮かぶどころか、頭の片隅を掠めることもなかった。


――――――


 雄一は廊下の角で、身を潜めながら教室の様子を窺っていた。

 1限目の授業が終わるまではあと5分。

 雄一のような不真面目は生徒は、この時間になるともう授業が早く終わらないかとそわそわしているが、朱鳥は友達とお喋りをすることもなくしっかりと授業を受けているようだった。


 いやむしろ、友達がいないから喋る相手もいないのだろうか。授業を聞かない前提の心配をしてしまう不真面目な雄一であった。


 そんな余計な心配をしていると、キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴る。

 全く関係ないが、チャイムのこの音を最初にこんなに的確なオノマトペで表したのは誰なのだろう。

 本当に関係ないが。


 日直が号令をかけ、生徒たちが席を立つ。

 特に友人と喋ったりする様子も無く、しばらく座ったままでいてから朱鳥も席を立ち、廊下へと出ていく。

 一応見つからないように身を隠しながら、そのまま朱鳥の机を観察していると、直後に教室でじゃれ合っていた男子が朱鳥の机にぶつかった。

 仲良いな。あんまりそういうことしてると見る人が見たらホモの烙印を押されそうだ。


 机の上から落ち、床を転がる消しゴム。

 そのまま教室の入り口にいる雄一の目の前まで転がってきた。

 なるほど。こうやって無くなったのか。


 教室に入り、消しゴムを拾うとそれをポケットに入れる。

 正也に言われた通りに隠しておこう。

 教室の前にある自分のロッカーにでも入れておけば、無くなることもないだろう。

 何せ雄一のロッカーは教科書類が入れられたまま全く開けられることのないロッカーだからだ。

 授業中は(もっぱ)ら居眠りか聞いているフリでノートに落書きをしている雄一には、教科書が必要になることはほとんどない。

 もちろん、教科書を借りに来るような他のクラスの友人もいない。


――――――


 雄一のクラスである2年6組の教室の前へと向かうと、何人か同じクラスの生徒がいたが、特に話しかけられることもなく消しゴムをロッカーにしまうことができた。

 話しかけられないのは過去に戻ってきたからとかではなく元からなのだが。


 ふう、とため息をついてロッカーを開けると

 

「あのー」


 後から声をかけられた。


 え? 声を、かけられる?


 予想外の事態に驚いて振り返った先には

クラスメイトである市丸京奈(いちまるけいな)がいた。


「もしかしてゆーくんのお友達、ですか? 教科書借りに来たとか」

 

「へ? いや、友達と言うか何と言うか」


 未来から来た本人です、何て言っても怪しまれるだろう。


「まさかゆーくんにせーや君以外の友達がいたなんて! 私嬉しい!」

 

 ・・・・・・何目線なんだこいつは。

 俺には馴れ馴れしいのに初対面の相手には敬語なのかよ。

 相変わらずの頭の弱そうな京奈の、優しさのような何かにそうツッコミをいれることは叶わなかったのだった。


「あ、初めまして! ですよね。私、市丸京奈って言います。ゆーくんのクラスメイトです」

 

「こちらこそ初めまして。大澤雄二です」

 

 「あれ? 大澤雄二君って確か同じクラスだよね? 名簿に書いてあったような」


 過去に戻ってきた雄一の存在の薄さは相変わらずなようだ。

 

 まぁ、こういったやり取りは過去に戻っていなくても、他のクラスメイトと話したときにしたことはあるが。

 クラスメイトだったんだ! 全然気づかなかったよ! なんて平気な顔して言ってこられたので何も言えなかったコミュ障の雄一である。


 だが、相手が知り合いの京奈ならば話は別である。

 コミュ障であっても、見知った相手との会話には強いのだ。


「そうだ! 市丸さん。雄一くんは何だか君を怒らせてしまっていることを気にしていたよ! 何で怒らせてしまったのかは知らないけど、もう水に流してあげたら良いんじゃないかな!」

 

 最近、京奈に恥ずかしがるような怒ったような視線を向けられ続けているのが気まずくて仕方なかったので、第三者と言う立場を利用して説得しておくことにした。

 着替えを覗いてしまったことなんて直接謝れることではないもんね!


「うーん、それもそうかなあ。何かあんまり怒ってるのも可哀想な気がしてきた」


 そして京奈は非常に単純なのであった。



――――――


 話を終えると、京奈は何か考え込むよえにぶつぶつと言いながら教室へ戻っていった。

 

 雄一は再びロッカーに手を伸ばし、消しゴムを入れる。

 頼んだぞ、と心で念じながらロッカーを閉めた。


 



 さて、どうやって帰ればいいのか。

 

 そんなことを考える間も無く。


 雄一の視界は光に包まれる。

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