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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
人混みは苦手
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第35話 バカだけどいい子なのはかわいい

「生徒会長の真中です。原先生、ご意見というのはどのような?」


 教師が相手でも変わらないトーンとペースで真中は質問する。やはり大人相手も慣れているのだろうか。


「端的に言えば、監査そのもののやり方の見直し、または廃止をしてはどうか、という意見ね」


 真中に負けず劣らずな、冷たい声で魔女も答える。

 え、監査の廃止? 予想していなかった魔女の意見にその場の面々が一斉に魔女のほうを向く。


「廃止、ですか。しかし、監査を始めてから今までにない成果を上げる部活動も増えています。それによって学校の知名度も上がり、より優秀な生徒が集まることも予想できます」


「……たしかにそうね。私もこの学校の教師として優秀な生徒がたくさん入ってくるのは教えるのが楽で良いわ」


 あ、あれ? なんかちょっと魔女も丸め込まれてねえか? 


「ゆーいち! どういうこと? 寄りによって魔女をつれてくるなんて!」


「女子更衣室から出るときに見つかっちまって……なんか廃部を止めてくれるとかいうから連れてきたんだけど」


 止めてくれるどころか真中に丸め込まれそうだ。


「それに、進学実績という面でも無駄な部活動で時間を使わず勉強に専念したり部活動の推薦で有名大学へ進学する生徒も増えていくでしょう。どうでしょう、ご納得いただけましたか?」


 真中の言葉に魔女は深く頷く。

 

「そうね。さすが真中くん、数学の成績もトップクラスなだけあって論理的な筋の通った良い意見です」


 何度も何度も噛み締めるように納得している様子の魔女。

 おい! 結局丸め込まれてるじゃねーか!

 それにしても、こうも次から次へと言葉が出てくるとは。しかも説得力もある。

 

「真中、恐るべし」


「恐るべし、じゃないわよ! どうするのよ小澤くん、顧問まで丸め込まれちゃったじゃない」


 感心する雄一を優子が現実に戻す。


「そうだよ雄一くん! 廃部になっちまってもいいのかよ!?」


 智樹も一緒になって騒ぎ立てる。

 しかし、もう真中を止めることはできない。なんて恐るべきやつなんだ!


 真中は机においてった書類を手に取り、魔女に渡しながらいつもの張り付けたような笑顔を浮かべる。


「それでは、丁度顧問の原先生にも来ていただいたことですし、この書類を書いていただいて――」


 



 ビシッ!!


 乾いた音をたてて、真中の差し出した書類が破ける。


 紙片は僅かに飛び散り、残りは真中の手の中、そして――――



 ――書類を引き裂いた本人である魔女の手に握られていた。



「残念ね、真中くん。たしかにあなたの言っていることも間違ってはいないけれど、それじゃあダメなのよ」


 突然の出来事に同様を見せずに、変わらぬ微笑のまま真中は口を開く。


「どのあたりが、でしょうか?」


「優秀な生徒だけ集めたら良い学校になる、というところね。たしかに実績は上がるかもしれないわ。だけどね」


「――――」


 無言の真中を気にもせず、嬉々として魔女は続ける。


「バカな子ほどかわいいものなのよ」


 生徒で一番立場が上だとしても、学校にはそれ以上の権力を持った、教師という存在がある。


 うっとりと微笑む魔女の顔は、今までで一番無邪気で、今までで一番恐ろしかった。



――――――


「なにはともあれ、廃部はなんとか免れてよかった」


 智樹と別れた後、生徒会室からの帰りの廊下でため息混じりに正也が呟くと、雄一も首肯する。


「一時は、というよりは常にどうなることかと思ったわ。畔上も、ありがとな」


「わ、私は別に……ま、まあ、よかった、わね」


 何やら少し慌てたような優子。

 そうだ。思い出した。こいつ優等生なのに誉められると弱いんだったっけ。


 中学時代の、同じように照れ隠しをしていた優子の姿が想起される。


「? 何笑ってるのよ」


「いや、何でもねえ」


 あなたは変わった。監査の始まったばかりの時、優子はそう言った。

 優子も中学の時から変わった。雄一はそう思っていたが、どうやらそうでない部分もあったようだ。

 それが何だかおかしいような、安心できるような。そんな気がした。


 部室まで来ると優子が三人のほうへ向き直り、改めて、と小さく咳払いをしてから始める。


「皆さん、今回は私の責任もあり、ご迷惑をお掛けしました。これを持ちまして正式に監査は終了となります。これからは出来るだけ監査は廃止する方向で議論していきたいと思います」


 少しを頭を下げる優子を、慌てて朱鳥が止める。


「気にしないでよ優子ちゃん! 廃部にはならなかったし、優子ちゃんも頑張ってくれたんだから!」


「……朱鳥、ちゃん」


「えへへ、名前で呼んでくれるようになったね!」


 何だか微笑ましいやりとりが聞こえてくる。

 一息をついて、窓の外を眺める。蝉たちの声は随分と落ち着いて、夕日もかなり傾いていた。


 ん、夕日? ……あ、そうだった。

 そう、今日は市丸に誘われた夏祭りの日。

 

「か、完全にわすれてた……」


 



 待ち合わせの時間は、あと数分後に迫っていた。

時間に追われまくる雄一くん

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