第34話 助っ人?
「あ、あの……これには深い訳がありまして」
「不可抗力系ハーレム漫画の主人公のような言い訳の仕方ね。あなたは勉強もできず、不真面目でその上になんだか大人をなめたような態度をとる生意気な生徒だけど、異性に迷惑をかけるような子ではないと思ったけど」
大きな黒目をギロリと雄一に向け、いつも通りの冷たい表情のまま魔女はそうため息をつく。
「地面スレスレだった評価が遂に地に落ちたようだ……違うんです、原先生。実は部活のことでどうしても女子更衣室に入らなくてはならない状況でして」
「女子更衣室に入らなくてはならない状況なんて果たして存在するのかしら? あなた、いくらモテないからってそういうのは……」
「信用が毛ほども無え!!」
「あら、それは下ネタかしら? いくらなんでもパイパ……」
「違います! むしろ先生がそっちに持ってってませんか!?」
規制ギリギリの台詞を全力で止めに入る。なんでこう、俺も周りは限度というものを知らないのだろうか。
それはともかく。
超低空飛行からとうとう墜落した雄一の信用度は、相当なようだ。悪い意味で。
たしかに、普通に生きてたら男子高校生が女子更衣室に入らなくてはならない状況なんて全く無いだろうけど。
「そもそもあなた、夏休みなのにどうしたのよ。後悔部は基本的に夏季休業だと広田くんから報告を受けたのだけど」
そういえば一応魔女が部活の顧問だったか。部活には来ないから忘れてたけど。
「生徒会の監査がありまして」
「……監査ですって?」
魔女の声のトーンが低くなる。
が、雄一は特には気にせず説明を続けた。
「はい。今日が、というかまさに今、監査の結果を知らされているところです。たぶん結果は……廃部、ってことになると思います。実はそのこともありまして女子更衣室に……」
自分でも言い訳になっていないとは思う。 しかし、監査のせいで女子更衣室に入らなければならなかったのは事実だ。
そんな雄一の言い訳を魔女は途中で打ち切る。
「そう。まさかあなた達が……小澤くん、生徒会室へ行くわよ」
そう言うと、魔女は足早に歩き出す。
いつもの流れ通り、説教を受けると思っていた雄一は予想外の魔女の行動に一瞬止まる。
「え? お説教ならいつもの部屋じゃ……生徒会室に何しをしに?」
「決まってるじゃない」
魔女はこちらに目も向けずに歩きながら続けた。
「廃部を止めに行くのよ」
――――――
「後悔部は廃部とする」
真中がそう言い放つと、生徒会室の空気は凍りつく。
正也は唇を噛み締め、智樹は唖然と目を見開き、優子は目を背けるように視線を落とした。
「それじゃあ、この書類を書いて提出を――」
真中が用意していた書類を机に並べる。
と、廊下からわずかに物音が聞こえてくる。
カツン、カツンと、サンダルの音。
そしてもう一つ、バタバタと上靴でそれを追いかけるような音が。
段々と近づいてきたその音は、部屋の前で止まる。
コンコン、と丁寧なノックのあと、真中が答えるよりも前にドアが開かれる。
そこには夏休みに入ってから初めて見る担任の、後悔部の顧問の姿があった。
「後悔部顧問の原です。真中くん、監査についてお話があります」
そう言うと魔女は上品に、そして少し不気味に笑った。