第32話 意外なカード
「か、片山……」
「んー? どこで会ったんだっけな」
意外な人物との遭遇に言葉を失う雄一。智樹はそんなことを気にする様子もなく首を傾げている。
それもそうだ。智樹と会ったのは過去に戻ったときのみ。つまり実際の時間では会っていないことになっている。
しかし前回過去に戻った雄一の助言によって親友が告白されるはずだった好きな女の子に告白することができた。結果は、まあ、良くなかったようだが。
「なんか思い出せないんだよな。どこで会ったんだっけ?」
考えることを諦めたのか、智樹が随分と直接的に質問をしてくる。
そもそも知り合いかもわかっていない相手にこんな簡単に声をかけられるのが雄一としてはなかなか理解できない。別に嫌ではないけど。
「あ、あー。後悔部って部活やってるからそれで会ったのかもしれないね」
「!! それだ! 後悔部の……小澤くん! ごめんね、何だか顔思い出せなくて」
しどろもどろではあったが、何とか智樹の記憶の奥底を刺激することができたようだ。
なるほど。元の時間に戻ると過去に戻ったときに関わった人たちの記憶からはその時の記憶は消える、という正也の仮説は正しかった。
が、何となくは記憶が残っているようだ。
頭はあまり良くなさそうだが、人間関係の記憶力はしっかりしてるんだな。だから友達が多いんだね!
「なんで忘れてたんだろう。まだお礼もできてなかったよね。この間はありがとう!」
「いや、全然なんもしてないし……」
頑張ったのは智樹だし、依頼のために少しその背中を押しただけだ。礼を言われるほどのことでもない。
「そんなことないよ! おかげで勇気が出せたし、後悔しないで済んだ。だから、ありがとう」
「お、おう……」
謙遜などではなく、事実を言ったつもりだったが、智樹は大きく首を振ってそう答える。もちろん悪い気はしない。
「偶然だったけど、また会えてよかった! 今日は部活で学校来てるの?」
心の底からそう思っているような笑顔を見せる智樹。くそう、眩しいぜ。
「いや、まあ部活っちゃ部活かな。生徒会の監査でさ」
「監査?」
濃いめの顔で思いっきりアホ面をつくる智樹。
いちいち大袈裟な動きだが、智樹の性格や雰囲気もあってか嫌味っぽくはない。
そりゃあ、知らねーか。バスケ部とか監査が入るわけもないし。むしろ予算回される方だしな。
「まあ、あれだ。生徒会がちゃんと活動してない部活を調査して、それで廃部にするか決めるって感じだな」
なんとかわかりやすいように噛み砕いて説明をする。しかし、それでも伝わりきらないのか、智樹はしばらく考え込んでしまった。
ちょっと難しかったかな?
うーんうーんと腕組みをしながら何やら考えていた智樹だったが、はたと気づいたように雄一に目を向け、手を叩く。
「おお! ってことは雄一くんの部活が廃部になっちゃうのか?」
どんな道を通ったかは知らないが、ゴールは間違えていないようだ。それにしてもストレートな物言いだが。
「……そんなとこだな」
「えーと、なんで?」
なんで? と言われても。そりゃ色々理由はあるけども。
「なんというか、簡単に言うと……人助けをする部活なのに、それが出来てないから、かな」
本質的にはそういうことだ。雄一もそう理解しているし、それでどうにか腑に落とそうとしている。
「それ、誰が決めたの?」
「それって?」
「廃部にするってやつ」
「ルールとしては学校のルールだな。実際に決定するのは生徒会長。あと三十分もしないくらいで、たぶん」
智樹には少し難しい仕組みだったろうか。
いや、俺の説明が下手なのかもしれない。
「でも、雄一くんは俺を助けてくれたじゃん。だったらちゃんと活動してるんだよ」
さっきまでとはうってかわって強い口調で智樹がこちらを見る。
もしかして、怒ってくれてんのか?
「ま、まあそうかもしんないけど」
そんな単純な問題でもないのだ。
「俺、生徒会室行って文句言ってくるわ」
雄一の言葉を遮って、智樹が駆け出す。
「お、おい! 待てって……足はやっ!!」
あっという間に学校の中に入っていった。
とりあえず、後を追う。
予想外の事態。しかし雄一は、焦りと共に、意外なカードを引いたことに少し期待も感じていた。
そのジョーカーは吉と出るか、それとも。
そして、雄一の視界は光に包まれた。