第30話 自分に勝てる人が意思の強い人
監査終了まで、残された時間はもうほとんどない。
雄一は、単身女子更衣室へ来ていた。
女子更衣室にくるのは久々だ。そんなに頻繁に来て良い場所ではないが。
もう午後5時を回ろうかという時間帯であり、夏休みということもあって、利用している女子はいない。
後悔部の他の面々と優子は、一足先に生徒会室へ監査の結果を受けに向かった。
過去へ戻れば時間は関係ないが、機会で言えばこれが正真正銘のラストチャンス。
今回の過去へと戻るトリガーは、失敗となるであろう監査の結果。それを強く願えば、現在を変えるのに必要な分だけ過去へと戻る筈だ。
そもそもどのくらい前に戻るのだろう。
数日なのか、数ヵ月なのか、下手したら数年過去に戻って「大澤雄二」として生きていかなければならないかもしれない。
それだけ戻っても、真中に廃部にされるという現在を変えられる保証はない訳だ。
「ははっ。笑えねーな」
そこまで後の無い状況ではある。
どうしよう、やっぱやめとこうかなあ。
早起きして体を動かそう、と決めた初日から堂々と二度寝をかました雄一の弱い心が拡がっていく。
三日坊主ですらない、休日坊主の雄一である。
「……はあ、やだなぁ」
人間誰しも面倒なことは嫌なものだ。
個人差はあれど、朝強い人なんていない。朝はみんな眠いが、強い人は眠気に勝つ意思が強いのだ。真面目な人は怠惰な自分に強いのだ。
そして雄一は朝に関わらず、すべてに弱い。
そう、最弱。恐らくこの学校でもトップクラスの弱さ。
そんな雄一が、この学校で最強であろう真中に勝つためには――――
「――ちょっとは無理しねーとな」
ケータイを取り出して時刻を確認する。
5時5分。
正也達は今ごろ真中に監査の結果を告げられているだろうか。
そして今日はもう一つ、予定があるのだ。
京奈との待ち合わせは6時。学校からは歩いて15分ほどの駅だ。
そのまま向かうとしても、あと30分くらいで終わらせなければ。
それが雄一にとっては、どれだけの長さになるかはわからない。
それでも
「よし、行くか」
それでも雄一は、あの真中に少しでも仕返しをしてやりたかった。
――――雄一の視界を光が包む。
そして雄一は過去へと戻る