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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
人混みは苦手
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第23話 夏はやっぱりさっぱりアイス

 7月26日。

 生徒会による監査も4日目となる。


 相も変わらずに後悔部の面々は部室でだらだらと過ごしていた。

 畔上優子あぜがみゆうこももう慣れたのか、あまり口出しすることもなく、座ることを勧めても律儀に立ったまま時間を過ごしてきた。

 掃除を一通り終えた朱鳥がロッカーに箒などを片付けながら、沈黙を破る。


「依頼、来ないですね」


「そーだな」


 無駄なお喋りには参加してこないという雰囲気をかもし出している畔上と、暇過ぎたのか眠ってしまった正也に代わり、雄一が答えるが、そこで会話は終わってしまった。

 もう何度同じようなやりとりをしただろう。


 朱鳥は近くのコンビニへ冷たいものを買いに行く、と部室を出ていく

 本当に依頼が来ない。高校生ってこんなに悩んでないもんなのか?

 まぁ、少なくとも得たいの知れない部活に簡単に相談できる悩みはあまり無いのだろう。


 監査の期間は一週間。

 それまでに部活動としての活動意義を示さなければ後悔部は廃部となる。


 雄一はケータイを取りだし、昨晩クラスメイトの市丸京奈いちまるけいなから送られてきたメッセージを見返す。


『ゆーくんの部活なくなっちゃうの?』


 という質問で始められたやりとりは、監査を受けている後悔部を心配するような内容が続き、最後に

 

『無理して来ないでいいからね!』


 という一言で終わっていた。

 

 来なくていい、というのは京奈と行くということになっていた夏祭りのことだ。

 7月29日、夏祭りが行われるのは丁度監査の最終日にあたる。

 祭りは昼間から始まり、夜の8時頃に花火が上がって終了。それが毎年のパターンらしい。監査は基本的に夕方までなので、日が被っていても間に合わないことはないだろう。 

 自分の方がテニス部の練習で大変だろうに、お節介なやつだ。

 そこが良いところでもあるのだが。


 どちらにしても、この監査を無事切り抜けないことには楽しい夏祭りは待っていない。

 べ、別に市丸と行くのが楽しみとかじゃないんだからね!

 ……冗談はともかく、一般的な男子高校生ならば市丸みたいなかわいい子とお祭りなんて楽しいに決まっている。

 そして、俺もそんな一般的な男子高校生なのだ。

 それにこの前の余罪(現行犯。着替えを覗く)もある。その分も償わなくてはならない。


 どうしたものか。

 京奈への償い、そして監査をどう切り抜けるか。雄一の考えるべきことは多い。

 

 依然として立ったまま難しい顔で何やら書類のようなものに目を通してい畔上優子に目を向ける。

 冷房が設置されているとはいえ、あまり性能も高くないため部室は中々に蒸し暑い。表情には出さないまでも、畔上の首元からも少し汗が滲んでいる。

 白く健康的な肌に流れる汗が、中学の時よりもきわめてふくよかになった胸元に消えていく。そのせいもあってか、白いポロシャツはうっすらと透け、中の下着の色が僅かに浮き出てしまっている。


 ……紫か。嫌いじゃないぜ。

 あまりに艶っぽい光景に、雄一の目はメデューサ宜しく固まってしまった!!


「な、なぁ畔上。冷たいもんでも飲むか?」


「……いきなりどうしたのよ小澤くん。結構よ。今は監査中だし」


「い、いやーでも何か暑そうだし」


「どうして私に飲ませたがるのよ。いらないものはいらないわ」


 中々手強いなこいつ。こっちが気を使ってやっているというのに!

 

「そのー……あれだ。目に毒というか……」


「毒? 何のことよ」


 察しが悪いなこいつ! 男の子に言わせるつもりか!!


「えっと、それ……」


 そう言って雄一は優子の胸元を指差す。

 優子の顔が段々と赤くなり、すぐに胸を腕で覆い隠す。


「へ、変態!!」


「いや、毒って言ってもそれは言葉の綾というか、むしろありがたいというか眼福エロいというか」


「今変なルビを振ったわよね!? そもそも言い訳になっていないのよ!」


 優子のそんな叫びが、依頼の来ない部室に響いた。


――――――


 しばらくして、朱鳥は4人分のアイスやジュースを買って戻ってきた。

 もちろんそのお金も部費という形で支出となっている。生徒会的にはマイナスポイントとなってしまうだろう。


「優子ちゃんもこれどーぞ」


 朱鳥が雪見大福と冷たいお茶を机に並べる。


「この暑さで雪見大福ってお前……」


 他のアイスは夏でも食べやすいようなさっぱりした物なのに、わざわざそんなこってりしたアイスを選ぶなんて。

 役所、恐ろしい子!!

 

 しかし、優子の反応は雄一の予想外のものであった。


「……これ、私の好きなアイス」


「な、なんだと!?」


 まじかよ。中学から同じだけど知らなかった。

 

「女の勘ってやつです!」


 えっへん、といった感じて腕を組む朱鳥。

 女の勘すげえ!


 だが、当の優子は好物の雪見大福を目の前にしても中々手をつけようとしない。

 少しがっかりとしたように朱鳥が声をかける。


「いらなかった、ですか?」


「い、いえ。そんなことはないのだけど」


 もごもごとどっち付かずな優子。

 監査対象である相手から出されたものは、食べにくいのだろう。

 しかしやけにチラチラ雪見大福を見ている。やっぱ大好物なのね!

 一々意地を張るのは相変わらずのようだ。

 仕方ないやつめ。こっちから言ってやらないと。


「心配すんな畔上。生徒会のやつらには黙っててやるから」


「な!?」


「そうですよ! はい、あーん」


 そう言って朱鳥が差すと、誘惑に負けた優子はついにそれを口にした。

 

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