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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
人混みは苦手
22/47

第22話 「変わったね」って言ってくるやつは大抵自分が変わってる

「めんどくせぇ……」


 学校への道を、暑さと怠さに耐えながら歩く。

 7月23日。夏休み二日目である今日も昨日と同様、部活動で朝から駆り出されている。おまけに今日から生徒会による監査が行われることもあり、遅刻厳禁らしい。

 

 遅刻OKな緩さが後悔部のアピールポイントじゃないか、とも思うのだが。

 いつもは遅刻しても、 役所に「もう、遅いですよ!」等と一言怒られ、その様子を正也にニヤニヤと見られるだけで済むのだが。

 あ、いつも遅刻してんの俺だけだった。


 部室のドアを開けると、いつものよう

に正也と朱鳥は先に来ている。

 

「おはようございます! 小澤くん!」


「お、おはよう」


 雄一の姿を確認すると朱鳥が元気に挨拶をしてくる。

 普段教室に入っても挨拶などされないので、中々スムーズに返事ができない雄一である。


「んー。ゆーいちおは……」


「途中で寝るんじゃありません」


 うん、正也は朝苦手だもんね。でもいつも遅刻しないのはとても偉いぞ。

 眠そうな正也を尻目に、朱鳥へ尋ねる。


畔上(あぜがみ)は何時に来るんだっけ?」


「たしか9時には来るって」


 時計を見ると丁度9時になろうかというところ、するとドアが勢いよく開かれる。


「皆さん、おはようございます。生徒会副会長の畔上優子です。9時になりましたので監査を始めさせていただきます」


 入ってくるなり、仰々しい文句を並べる畔上優子あぜがみゆうこ。その声に役所が「は、はい!」と応える。真面目だなぁ。

 正也まだ寝てるし。


 それにしても畔上ってこんな感じだったっけ。高校に入ってから初めて喋ったけど。

 中学の時はもう少しこう、可愛げ? みたいなのがあったような。

 そんなことを考えていると


「な、何見てるのよ小澤くん」


 畔上が怪しむような目でこちらを見てくる。

 いや違うからね。別にジロジロ観察したりとかしてないから。中学の時より色々と育ったなとか思ってないし。


「何も見てません。すみません」


「だったら何で謝るのよ!」


 あ、怒り方とかあんま変わってねーな。やっぱちょっと大人になっただけか。

 身体と心が。主に身体が。


 こほん、と気を取り直すように咳払いをしてから、畔上は始める。


「それでは、今日の活動に同行させていただきます。いつも通りに活動してくださってかまいませんので」


 というわけで、生徒会による監査1日目が始まる。

 

 なるほど、いつも通りか。

 とりあえずいつもの席に座っていつも通りマンガでも読もう。

 役所もいつものようにお茶やコーヒーを入れ始める。

 正也は寝てるし。うん、ばっちりいつも通りだね!


 しかしそんな様子を見ている畔上の表情は固まっていた。

 

「あの……活動の方は?」


「してるじゃねーか。お前がいつも通りやれって」


「一体いつもどんな活動をしてるんですか!」


「まぁまぁ優子ちゃん、落ち着いて。はい、お茶どーぞ」


「あ、ありがとうございます。まったく、想像以上ですね。いや以下と言った方が良いでしょうか。普通は監査が入った部活は、その場だけでも取り繕おうとするものですが」 


 何てことをぶつぶつと言いながらお茶を飲む畔上。

 てか、優子ちゃんって。いきなり下の名前で呼ぶとか役所もかなりコミュ力高いんじゃ。


「まぁ取り繕ったとこで廃部を免れた部活も無いわけだしな」


「そーですね。依頼が来ないことには何もやることありませんし」


 雄一の言葉に朱鳥がうなずく。


「見事な開き直り方ですね。逆に凄いと思います」


 苦い顔で畔上が呟いた。


 ――――結局この日、依頼が来ることはなかった。


「よし、と」


 カチッ、と鍵かかかる音がする。

 部室の戸締まりを確認し、鍵を職員室に持っていく。これはいつも雄一の役割だ。

 正也は先に校門で待っているだろう。


「本当に何もしないんですね」


 不意に、畔上が後ろから声をかけてくる。


「まぁな。依頼が無ければやることもねーし。ボランティア部とかそー言うのじゃないんでね」


 畔上の真剣な表情に何だか居心地が悪くなり、おどけるように言う。


「どうしてこんな部活をやっているんですか」


 タイムリープの実験、とは言えない。

 黙る雄一に、畔上は尚も続ける。


「高校に入ってからのあなたは、別人みたいですね。中学校のときは……」


「そんなことねーよ。前から……こんな感じだ」

 

 畔上の話を遮るように否定し、人気のない廊下を足早に歩く。

 畔上は追ってくることはなかった。


 外の蝉がうるさい。

 

 変化を望んで、後悔部を始めた。

 何もない自分にも何か出来ることがあるのではないか、と。


 職員室の前まで来て、雄一は立ち止まった。 


 ふと、畔上に言われた言葉を思い出す。

 別人みたい、か。

 中学の頃の自分はどんな人間だったろう。あまり思い出せない。


 そんなに簡単に人は変わるのだろうか。

 それなら今の何もない自分も変われるのか。


 

 何もわからないまま、扉を開く。 

 変わりたいと望んでいるのか。

 変わることを恐れているのか。

 それは自分でもわからなかった。

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