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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
喧嘩は先に謝った方の勝ち
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第14話 きのこたけのこ

「この部活に入りたいって……」


「お願いします! 私、掃除とかも好きだし、根性もあるので! 雑用もできます! お役に立てると思います!!」


 あまりに突然の出来事だった。

 何故? そんな疑問が雄一の頭に広がる。 

 以前の消しゴムの依頼の後、朱鳥とは一度も会っていなかった。

 後悔部なんていう訳のわからない部活があることは徐々に校内でも広まってはいたが、まさか依頼すら来ない状況で入部希望者のほうが来るとは。


「そんなこと急に言われたって、簡単に入れるわけには……」


「私、小澤くんの助けになりたいんです。助けられてばかりじゃなくて」


 助けた? 俺は消しゴムを見つけただけだ。


 何を言うんだ。

 助けられたのは俺の方じゃないか。

 

 空っぽで、それを認めることからも逃げていた雄一に、朱鳥は前に進むための言葉をくれた。

 過去に戻ったために、無かったことになった記憶。

 だが、雄一が今こうして誰かのために生きようと思えているのも朱鳥のおかげだ。

 

 それに、これから活動していく上で面倒ごとや危険なことが起こるかもしれない。それに他人を巻き込んでも良いのだろうか。

 

 雄一が考え込んでいると


「それで入部希望、という訳か」


 いつの間にか昼寝から起きていた正也が、会話に入ってきた。


「ちょうど人手も要りようだったしね。ぼくは構わないよ」


 雄一の考えを見透かしてか、それとも単純に雑用が欲しいだけか、笑顔を浮かべながら正也はあっさりとOKを出した。

 ゆーいちはどうだい? という目でこちらを見てくる。


 雄一の決断に全て委ねられた。


「……やることって言ったって本当に掃除くらいしかねーぞ」


「掃除、大好きです」


「ほとんど放課後ぼーっと過ごしてるだけだぞ」


「ぼーっとするのも大好きです」


「もしかしたら危険なことも起こるかもしれない。過去に戻るのだってまだわかってないこともいっぱいある」


「はい。それもわかってます」


「どうして、どうして俺をそんなに助けてくれるんだよ」


 まだ会ってからそんなに時間も経っていない。

 初めて会った時も、雄一に変わるきっかけとなる言葉をくれた。

 何故だ? なんで俺なんかに。

 

「それは……あなたが、寂しそうな目をしていたから」


「えっ」


 寂しそうな目。自分の目のことについてそう言われたのは初めてだった。


 腐った目、目が死んでいる、人を殺してそう、なんか変態そうな目。

 周囲の人間は雄一を見てそんな風に評していたし、雄一自身も鏡で自分を見ると、皆が言っていることを不本意ながら認めざるを得なかった。


 そんな雄一を見て、「寂しそう」と。

 

「前、ある人に助けてもらったときに言われたんです。寂しそうな目をしてる人を放っておけない、って。だから、私もそう言う人を見つけたら助けようって思ってて」


「随分カッコいいこと言うやつがやつがいたんだな」


 あまりにキザなセリフに雄一は少し吹き出してしまう。

 たしかにそうですね、と笑いながら朱鳥は続ける。


「でも私にとってはヒーローです。今は、そんなこと記憶に無いだろうけど」


 往々にして、そういった言葉は言葉は言った方より言われた方が覚えているものである。朱鳥にそれを言った誰かも、もう忘れてしまったのだろうか。

 

 少し寂しそうに朱鳥は苦笑する。

 その表情が何だか儚くて。

 雄一は目を逸らした。


 少しの沈黙の後


「あー、あれだ」

 

 目を逸らしたままで雄一が(おもむろ)に口を開く。


「そういえば掃除係とか欲しかったんだった。思い出したわ」


 ぽかん、と朱鳥は首を傾げる。

 どうやらあまり鋭いほうでは無いらしい。


「下手な嘘ならつかないほうがいいよ、ゆーいち」


 馬鹿にしたように笑う正也に指摘される。

 

「うるせー」


 はあ、とため息をついてから、雄一は朱鳥へ向き直る。

 

「何と言うか、その、よろしくな、役所」


 少し困ったように笑い、雄一はそう告げる。

 その言葉でやっと意味を理解したのか、朱鳥はぱあっと表情を輝かせて、


「はい! よろしくお願いします! 精一杯頑張ります!」


 意外と体育会系な挨拶に少し驚いたが、満面の笑みにそれも飛ばされた。


 

――――――


 部員は増えたものの、依頼の方は相変わらずであった。

 朱鳥が入部してから一週間がたった今日も、3人は部室で時間をつぶしている。

 

 昼寝をする正也、部室を掃除したり暇そうに外を眺める朱鳥、勉強をしつつ時々朱鳥の掃除を手伝ったり話したりする雄一。

 ほとんど毎日、そんな風に放課後は過ぎていった。

 2人だけだった日常に、朱鳥が加わった。

 それも悪い気がしない。


 この1週間で、少しずつ朱鳥のこともわかってきた。

 友達もいないと言っていたので、大人しい性格かと思っていたが、意外とお喋りが好き。

 甘いものが好き。

 勉強は得意なようだが、どこか抜けている。

 そして、楽しいときは思いっきり笑う。


 それが最近雄一の知った役所朱鳥だ。

 

 正也の用意してきたお菓子BOXからたけのこの里を取りだし、袋を開ける。

 正也も雄一もたけのこ派なので、お菓子BOXには常にたけのこの里は常備されている。

 

「役所、お菓子食べるかー?」


 掃除を一通り終え、椅子に座って外を眺めている朱鳥に声をかける。

 

「あ、いただきます!」


 ぼーっとしていた朱鳥が雄一の声で我に返った。

 お菓子BOXから甘いお菓子を探してごそごそとする。

 

「そーいやお前ってどっち派?」


 たけのこの里を食べながら尋ねる。

 もちろんこの質問は、きのこ派、たけのこ派を問うものだ。

 

「私は……きのこ派です。そこに限れば敵同士、ですね」


 好戦的な笑みを浮かべる朱鳥に、雄一も応える。


「ほう。だが正也もたけのこ派だぞ? この部室においては我らのほうが優位と見える」


「な……ま、負けません! 私はきのこ派として最後の一人になっても戦ってみせます!」


 朱鳥が高らかに宣言したところで、不意にドアがノックされる。


 二人はやり取りを中断し、どうぞ、と来客を部室に招く。

 失礼します、と一声ありドアが開くと、高身長のイケメンが一礼してから始める。


「はじめまして! 後悔部って言うのはここでいいのかな?」


 そのイケメンの存在は、雄一も知っていた。いや、雄一でなくても校内でその存在を知らないものはいないだろう。


 島崎晴斗(しまさきはると)

 この学校のカーストのトップにいるであろう男が爽やかな笑顔でそこに立っていた。

永遠の争い

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