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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
喧嘩は先に謝った方の勝ち
13/47

第13話 怖がりな子はかわいい

「……いち? ゆーいち?」


 どこからが声が聞こえてくる。

 少しずつ意識が鮮明になっていく。


 雄一は女子更衣室にいた。

 

 目の前には正也が、少し離れた所では京奈が何だか心配そうにこちらを見ている。


「戻ってきた、の?」


 反応の薄い雄一の様子を見て、正也がすぐに察する。


「ああ。作戦はバッチリだ」


 そう言って二人のほうに向けた雄一の表情は、いつもより少し自信のあるように写った。


――――――


 翌日の朝のホームルームで制服を盗まれた生徒がいるという担任からの話があり、

 

「え、誰がやったの? 気持ち悪い」


「羨まし、いや、何て変態野郎だ! 許せん!」


「この学校にそんなことする変態がいるなんてね」


 などと声が聞こえてきて雄一はちょっぴり傷ついた。

  

 その日の夜に京奈から、今日は嫌がらせが無かった、という旨を伝える連絡がケータイに届いたが、雄一は


「良かった。部活頑張れよ。」


とだけ返信すると漫画を読みながらすぐに寝てしまった。

 

 翌朝起きると、得意では無いであろう長文と出来るだけ難しい言葉を使ったであろう感謝を表す返信が京奈から届いており、どうしたら良いのかわからなくなる雄一(バカ)であった。


 その日授業を受ける京奈は、いつもよりさらに眠そうだったが、その理由はバカにはきっとわからないだろう。


――――――


 数日後に制服は発見されたが、テニス部の3年生による嫌がらせは再開することはなかった。


「作戦は(おおむ)ね成功、といった所だね。雄一の心の傷を除けば」


「人の心の傷を簡単に除くな! 俺だって道具じゃねーんだ! 次のこういう作戦は正也にやってもらうぞ!!」


「まあ落ち着いてよゆーいち。そもそも他の人が過去に戻れるかはまだわかって無い。女子更衣室から過去に戻れるのはゆーいちだけにできる能力なのかもしれないからね」


 正也はいつものようにマイペースに諭す。

 その言葉の中でも、最後の一言が雄一の心に引っ掛かる。


「俺だけの、能力か……」


 自分にしか出来ないこと。それを求めて雄一は後悔部としての活動を始めた。

 確かに、誰にでも出来ることを偶然雄一がやっているだけであれば、以前と何も変わらない。

 白紙の人間のままなのかもしれない。


「それだったら、試してみよう。お前も過去に戻れるのか」


 確認したい。

 そして安心したかった。


 本当に今やっていることは自分にしか出来ないことなのかを。

 自分は白紙なんかでは無いということを。


「それはぼくには無理だよゆーいち」


 しかし正也はその提案には乗ってはくれなかった。


「無理って、何で?」


 正也のことだ、何か難解な理由があるのかもしれない。


「だって過去に戻るなんて」


 低い身長から雄一を見上げ、正也は続ける。


「……怖い、から」


 そう言って少し頬を赤らめる正也の可愛さに、親友である雄一でも言い返すのをためらってしまった。



 迂闊(うかつ)だった。

 他人であれば親友であっても何をさせるのも厭わない正也であるが、自身は極度の怖がりなのを忘れていた。


 とりあえず協力者がいない今、雄一以外の人間が過去に戻れるかを確かめるのはもう少し後になりそうだ。


――――――


 現在、女子更衣室で過去に戻れるということを知る人間は雄一、正也、京奈そして役所朱鳥(やくしょあすか)の3人。

 京奈には前回の依頼の後に概要だけを説明したが、理解できたのかは定かではない。

 

 いずれにしても、自分でもまだわからないことが多すぎる。

 そういった理由もあり、7月の頭である今日の放課後も、雄一と正也は後悔部の部室にいた。

 

 前回の京奈の依頼から、およそ2週間が経過したが、部室に依頼目的で訪れる者はいなかった。

 一度、部活が休みの日に京奈とその友達が二人に礼を言いに来たのみで、あとは雄一が宿題やテスト勉強を正也に見てもらい放課後を過ごした。


 元々勉強など全くしていなかった雄一が宿題に取り組むようになったということに関しては、以前との変化はあるかもしれない。

 宿題を進める手を止め、外を眺める。

 

 梅雨ももうしばらくすれば明けそうだという時期だ。数日ぶりの快晴で、気温もだいぶ高い。外からは野球部の野太いかけ声が響いてくる。

 

 正也はクーラーの無いこの部屋では一番涼しいであろう窓際で風に当たりながら気持ち良さそうに眠っている。

 放課後はほとんど眠るか、今後の作戦を考えてあーでもないこーでもないと悩んでいるかの正也だが、不思議なことに雄一が問題に詰まると、声をかける前に気づくのだ。

 野生の勘、というやつなのだろうか。

 そう言えばどことなく猫っぽいような気もする。


 穏やか、であると言えるこの日常。

 この日常を変えないまま、自分にしかできない何かを成し遂げられる人間になっていきたい。

 だから雄一は、少しでも意味のある人間になれるよう、白紙ではなく、そこに文字を、色を、意味を加えたかった。


 日常を変えないために。

 自分を変えるしかない。


 雄一が再び宿題に目を落とすと。


 コンコン、とドアがノックされる。


 また京奈か? と雄一はドアに向かい、開ける。

 

 するとそこには、数日ぶりの来客が。

 役所朱鳥が立っていた。


「あ、あの!! 私もこの部活に入れてください!」

正也マジヒロイン

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