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女子更衣室は過去へとつながっている  作者: 浅漬け
落とし物には気を付けて
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第11話 頑張る女の子は素敵

 市丸京奈(いちまるけいな)

 雄一と正也のクラスメイトである。

 テニス部に所属していて、日焼けが眩しいスポーツ少女だ。


 ショートカットの髪と、その雰囲気と対を為すかのような可愛らしいルックス、明るくあまり怒らない性格で、友達も多い。

 無論、男子生徒からの人気も高い訳だ。

 頭はあまり回らない方なので、勉強などで困るとこも多い。

 ただ、それも彼女の魅力を引き立てる要素の一つではあるのだが。

 

 テニスのスポーツ推薦で高校に入学した彼女は強豪校にも関わらず1年生のうちからレギュラーを獲得した。

 もちろん強豪校であるから、部員もそれなりの人数だ。団体戦ともなれば3年生がメンバーのほとんどを占める。

 よって、3年生でも1年生だった京奈の代わりに団体戦のメンバーから外れてしまう。

 実力の世界、と言ってしまえばそれまでだがメンバー発表の後に部室で泣いている先輩を見て、もっと頑張らなくてはと自分に言い聞かせた京奈であった。


 そして今年も同様に京奈は団体戦のメンバーになった。

 昨年と違うのは、京奈の他に2年生がもう一人メンバーに選ばれたこと。

 それも、大会直前でのメンバー変更であった。

 

 京奈ほどの飛び抜けた実力であれば、下級生のうちからメンバーに入ってもあまり文句を言う者もいなかったが、ギリギリの争いに勝って入った場合はそうはいかない。


 メンバー発表の後から、始まった複数の3年生による嫌がらせ。去年も似たようなことはあったが同級生が同じようなことをされているとなるとやはり(かば)ってあげなくてはならない。

 

 しかし、あまり気の強くない京奈にはどうすればいいのかがわからなかった。

 自分はテニスを頑張る、それ以外のために部活動をしているわけではなかった。


 純粋で才能のある彼女には、平凡な人間の本来必要ないしがらみはよくわからなかった。


 どうして。

 一生懸命テニスをして、自分が出ていないときは仲間を応援する。

 それだけだ。

 それだけのシンプルな事のはずなのに。


 それが普通のことなのに。

 普通の人間には、その普通はあまりにも難しい。


 


「今回の作戦はその手順でいこう」


 雄一との作戦会議――と言ってもほとんど正也がたてた作戦だが――を終えると正也はそう言って締めた。


 了解だ、と雄一が(うなず)く。

 

 嫌がらせをしている先輩の特徴を教えたのみで、作戦の内容は聞かされていない京奈には何が何やら解らなかったが、頷いた雄一の表情を見て、少し安心した。

 

 高校に入学してから死んだような目しかしていなかった雄一が久々に見せた自信のある表情。

 京奈の知っている頼れる雄一のあの表情だ。

 安心して任せられると思った。

 

 そんな京奈の信用は雄一達に連れられて女子更衣室の前に来たところで少し揺らいでいた。


「ユークン? コレハドウイウコトカナ?」


「落ち着け市丸、勘違いだ」


 日本語がいつも以上に不自由になるほど動揺している京奈に、雄一は必死の弁解を試みる。


「正也! お前もなんとか言ってくれよ! そもそも市丸を女子更衣室まで連れてくる必要あったのかよ!?」


 慌てて詰め寄る雄一に、正也は小さな声で耳打ちするように言う。


「まぁ落ち着きなよ雄一。市丸さんを連れてきたのには二つの理由がある」


 なるほど正也のことだ、きっと何か作戦があるのだろう。


「まず一つは過去が変わったことを観測できるか確かめるため」


 なるほど、確かに筋は通っている。

 その分のリスクは大きいが、マッドサイエンティスト気質の正也なので今に始まったことではない。


「そしてもう一つは、ふつーにおもしろそうだったから」


「本当に興味本意かよ!!」


 マッドサイエンティストな上に、友人が変態扱いされるのを見て楽しむという恐ろしい嗜好を持つ親友であった。

 もう誰も信じられない!


 とりあえず、勘違いを解かなければ。


「とにかく信じてくれ、市丸。俺はお前を助けたい」


 そして女子更衣室に入ったことと着替えを見てしまったことも見逃してくれ、までが雄一の本音ではあったが。

 もちろん、それは言葉にはしなかった。


「ゆーくん……でもこんな場所で言われても説得力無いよ!」


 そんな心をを知ってか知らずか、京奈はそんなカッコいい台詞には騙されてくれそうに無かった。

 だが、そう言いながらも京奈は少し安心できている気がしていた。

 

 私はゆーくんのこの顔に弱いんだな、なんてことを考える。

 

「もう、ゆーくんは……あとで理由、説明してもらうからね」

 

「悪い、恩に着る!」


 着替えを見たことまで許されると思っている雄一(バカ)であったが、それに気づく者は誰もいない。


 


「よし、それじゃあ行ってくるわ」


「頼んだよ、ゆーいち」


「が、頑張って! ゆーくん!」


 京奈を、助ける。

 雄一はそう強く思う。


 すると、以前のように簡単に。

 当たり前のように。

 自然に、単純に。


 雄一の視界を光が包む。





「行ってらっしゃい」

 

 誰がそう言ったのかは、雄一には解らなかった。

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