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動き出す理

「あなたは探して来なさい。すべての理を」


「はい、わかりました。お母様」


ひたと冷たく、暗い部屋の中、ここだけ現実の世界から切り離されているかのような空間に、二人の女性と少女がいた。


女性は、すべてをいぬくかのような品格と上品さ、そして威厳を身に纏っていた。


一方少女は、女性までとはいかないまでも、その小さく幼い容姿には似合わないオーラを身に纏い、すべてを無に還すかのような鋭さを放つ双眸を持っていた。


「さあ、おゆきなさい。すべては理のために……」


「はい、すべては理のために……」


その言葉と共に、少女は部屋をあとにした。


「偶然なんてものはない。全ては理により定められた必然なんだ。だから今から行きます。……オニイサマ」


部屋を出たあと、少女がすぐに思い浮かべたのは少女の兄だった。そう、少女は女性よりも兄の存在を心から強く想っていたのだった。





*****






まだまだ外は明るい午後1時半。

多くの学生が昼食をとりおわり、眠気が襲い格闘しながらも授業に挑むこの時間。


「ふぁーあ。つまんねー。なんで歴史ってこんなつまんないんだよ」


ここ、城ヶ崎高等学校2―Aでは歴史の授業をしていた。


「それにしても……。ねむい…な」


そう言いながら一人の男、もとい“みやび 孝牙こうが”は授業中にも関わらず深い眠りにおちていった。




――「お兄様。起きて。“始まりの時”です。目覚めて下さい! お兄様!」


少女は孝牙に話しかけていた。訴えかけるように、すがるように…。


「誰? 君は…誰? どこにいるの?」


孝牙は少女に話し掛けるがその声は届かない。


そしていつの間にか森の中に一人たっていた。……いや、一人ではない、森のひらけたところに一人の少女が座っている。


全てが急な事で、少女に聴くより他に術がない孝牙は静かに近付き話しかける。


「君が。……君が呼んだの?」


「お兄…様…。やっと、会えた…やっと…」


控えめに話しかけた孝牙に反応を返す少女。

黒髪に赤い瞳が特徴的などこかミステリアスな少女は、孝牙の存在に気付くと同時、感極まったように涙を一筋流した。


「やっと会えました」


今度は力強くはっきりと声を発した少女。


少女は孝牙のことを昔から知っているかのように語りかけるが、一方孝牙はなにを言っているんだとでも言いたげな表情をする。


「君は…なにを言っているんだ? オニイサマ? 誰のことだ?」


不思議な存在感をかもしだす少女に孝牙は問い掛ける。が、すべては孝牙の目覚めと共に虚無へと消え去ってしまった。ーー




ーー「や……び…。雅! 俺の授業で寝るとはいい度胸だな?」


「あれ? ここは?」


歴史の授業を担当しているやっちゃんこと山吹先生は、自分の授業中に寝られていたという事実から孝牙に対し威圧感を込めて語りかけるが、未だ寝ぼけている孝牙はそんな状況など露知らずに、漫画のような台詞を言ってのける。


「雅……。まぁいい。この問題を解いてみろ! 寝ていた罰だ。この問題が解けたらさっきのは見なかったことにしよう。あくまで解けたらだがな。俺の知ってる生徒で自分だけの力で解けた奴はまだ一人もいないからな」


歴史の教科を担当するやっちゃんは、予備知識と称して数学の問題をだし、自慢話をよくしている。今回、孝牙が寝ていた間ではやっちゃんの数学自慢が始まっていたらしく、黒板には所せましと数字の羅列が鎮座している。


到底解けないだろうと鷹を括り、自信満々に笑いながら孝牙を見て話を続けるやっちゃん。


それに対し孝牙は、やっちゃんの話を聞き流しながら徐々に本調子を取り戻し、いつもの気だるげな様子で黒板の前まで歩いていく。


「山吹先生……終わりました」


黒板の前に出てからすぐに終わりの合図を出した孝牙に、その場にいた全員が視線を向けた。


もちろん出した本人であるやっちゃんも、自慢話をやめ、視線を孝牙のその先にある黒板に視線を向ける。


「雅……。もう終わったのか? ちゃんとあってるのか?」


「さぁ? それは知りません。それを確認するのが山吹先生のお仕事なのでは?」


未だ状況に追いついていかず、困惑気味の様子であるやっちゃんに、やはり気だるげな様子で答える孝牙。


二人のその様子はむしろどちらが生徒で先生なのかわからない。

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