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手違いで異世界、間違いで転生  作者: 神条
一章ノ前 ――異世界生活――
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第二話 ”元”神との再会

 朝、一途は小鳥の囀りと太陽の日差しで目を覚ました。

瞼を閉じていても分かるぐらい日差しは強く眩しい。そして完全な睡魔に落ちて尚、囀りは落ちた意識を打ち破る。

 ごつごつの地に尻をつけ寝たせいだ。尻骨が痛い。座りながら寝たのも相まれば、昨夜歩き回った反動で筋肉痛が体をなぶる。

 しかし一番致命的なのは野宿故に、雨風を凌ぐ手段がないこと。

 例えいかなる暴風雨な空の下、防ぐ術がなければ全てを一身で受けねばならない。

 流石にそんな地獄を味わうのは御免。幸い、昨夜の晩は大した風速でなければ、凍えるほど夜風が靡いたわけでもなし。

 それでも時折、迅疾な風に追随する寒さに、かじかむ思いもした。

 なので当然睡眠も浅いし、三十分間隔で目を覚ました気もする。

 外故に、無自覚に立ちはだかる警戒心と不便性もろもろが熟睡を許してくれなかった。

「ふあぁーあ。体の節々がいてえけど、ぐだぐだはしてられえよな」


 両手を大きく伸ばし、背筋をピンとさせる。ただそれだけの行為でさえ、背骨が悲鳴を上げる。運動不足は怖いものだと、嫌なぐらい実感できた。

 ここまでくると立ち上がるのすら躊躇になってしまう。

 が、四の五の言っていられない。天日が主心に昇っている今しか、街を探索する時間はない。

 剣も銃も魔法も発展しているこの世界で、夜間の行動は避けたいのだ。

 魔法だなんだファンタジーである反面、使い道を間違えれば凶器でしかない。

 即ち現状の一途にとっては恐怖をイコールするもの。

 危険度も殺傷性も漠然だが、予想の範疇内ですら相当なものと伺える。

 ただその予想の基準は漫画やアニメの世界。なので典拠性には大きく欠けるも仕方ないだろう。

 創作物を拠り所にするしかないほど、現状が概念的な世界なのだから。

「よし、行くか」


ポツリ呟いていざ立ち上がった。建物に手を当て、重心を上半身に集中させる。極力足にかける負担を減らし、でも骨はきしんだ。

多少の睡眠はとっても、イコールとして回復に繋がるわけじゃない。

むしろ筋肉痛による反動や、露宿による体力の消費で回復以上の消耗が目立つ。

無論甘えたことは言ってられずだ。

 今日中にこの世界の情報はざっくり把握したい。そして野宿という状況を脱していたい。

そう目標を掲げて、一途は街の探索に繰り出た。



 □    □    □    □




ここがどこかなんて、一途に分かるはずもなかった。

きょろきょろと、不審者同然の形相で周囲を見渡す。日本の世界観で当てはめると、喫茶店やカフェといった建物が目立つ町だ。

店の外観もまた、どれも洋風さを含んだ美麗な格好。いくつかの店はオープンカフェも実装されているのか。

 洒落た日傘の下、お茶をしている人達も見受けられる。

通行人もまたセレブっぽければマダムっぽい女性ばかり。

一途のようなガキが混ざるには、如何せん場違いすぎた。今にもクラシックな音楽が響いてきそうな閑静さは、居心地さえ悪く感じる。

地面もまた造りがおかしく、基本的造形はレンガ。

赤茶色のブロックが幾重にも敷き詰められていて、このエリア全域そういう造りになってそうだ。

だが本当にレンガのみの形成だと、脆弱さと耐久性に不安が残る。

レンガに見せかけた鉄鋼タイルを敷いてるだけか。はたまたコンクリートの上に一層のレンガを据え付けてるのか。

どっちにせよ、そんなことまでしてるあたり相当なものだ。

そして少なくとも、一途の知りたい答えが近傍にあると思えない。

 なんせ今の一途は、カフェだなんだが集中している街筋に興味ない。

 この世界についての歴史観や文化が集中している街こそ目指しているのだ。

 さすればちょっとはこの世の文明や国柄、異世界故に一変している部分を知れるだろう。

幸い街角にある掲示板は日本語表記。掲示板に記載されてる地図を頼りに、ぽい場所を目指すしかない。

そう思って、一途は踵を返した。返した瞬間ほぼ同時、雄叫びのような声が轟いた。

「見つけたああああああああああああ!!」


 流石の一途もびくりと肩を震わす。

 閑静な現場には、あまりにも似つかなぬ絶叫的な蛮声。でもなぜだろう。

 極限にまで張りつめられた声質から、微小の聞き覚えを感じた。

聞き覚えある声の正体。最大に張った声から垣間見える可憐な音色、完全に発達していない声帯から覗く、天真爛漫なあどけなさ。

(まさか……この声って、)


一途にとっては、全ての元凶である声。後ろを振り向けばやはり、想定の範囲内だった。

「織木一途おおおおおお!!!!」


 的中した。

 後ろを振り向き、こちらに走り寄ってくるのは前日出会った少女。

 まるで鬼の形相だった。何故かは分からないし、ある意味一番の疑問点。

角を出さんと目を三角にし、荒々しい見幕で彼女は走ってくる。

名を確かハルワタート――と言ったか。下の名まで覚えていないが、自分は神と豪語していた覚えはある。

 そんな神が何故か、一途の名前を叫びながらこちらへ走ってくる。

 形相が形相であるため少し怖いが、丁度いいと言えば丁度いい。

 神と名の付く者が、知識において欠陥はないはず。

 恐らくこの世界については一から十まで羅網しているだろう。であれば、この世界についての知識に疎い一途にとって、文字通り神的存在。

野宿生活を脱する頼みの綱であれば、同時にちゃっかりチート的な力も貰えるかもしれない。

 なんせ相手は神。「不可能はない」と断言できうる唯一の存在なのだ。

 そう思う根本が、世論的な神に対する共通認識と、一途の神に対する個人的主観。そして万年も前からある神話や逸話、神のみがなしえる所業。

 早い話妄想と言っていい。

 その妄想上でしかいないはずの存在がいるのだから期待も高まる。

 最低限の生活を望んでいた一途は、神という存在への過剰な期待で最高値を期待してしまう。

 最低限からまさかの跳ね上がりで最高値、神の成し得る「可能性」は無限。

(よかった。ひとまずこれでなんとかなりそうだ)


 今考えれば、何故ここで気づかなかったのか。

 彼女の鬼のような形相と、最大限にまで張りつめられた声の”意味”。

 その点について疑問に思うことはあっても、意味までは理解できなかった。

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