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手違いで異世界、間違いで転生  作者: 神条
一章ノ後 ――集う闇、始まる非日常――
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第二話 美女剣士

 何が起きたのか、理解できるはずもない。

 自分はもう駄目だと悟った直後の出来事だった。

 本当にどこからともなく声が聞こえて、直後に姿があった。

 腰に刀を据え、背にまで覆う黒髪を靡かせながら、

――そこまでにしろ

 そう彼女が言ったのだ。足音すら皆無、気配すら見えず感じなかった。

 彼女が言った直後、もう進展があった。鞘から刀が抜かれて顕現する。

 白銀の色に仕立て上げられた一閃の刃。

 王道的な意味で、正しく”刀”と表現するに相応しい形と色合いだった。

 しかし、その刀を視認できたのはほんの一瞬。刀が鞘から抜かれたと見れば刹那、虚を穿いて空を割る。

 音速的と言って差し支えないと思う。

 究極的にまで隙を潰し行う抜刀――やがての薙ぎ技は巨躯の男の首元を睨む。

 誰もが硬直し無言のままだった。

 掃射の如くで払われた一刀。それが、男の首を斬る寸前で止まるまで、

「……ぁ」


 間の抜けた呆気声が聞こえた。

 振り払われた一刀が、男の首ギリギリで止まっている。もう数ミリずれていたら、間違いなく首は離れていた。

 恐ろしいほどに高いコントロール力。体躯差は倍以上あるのに、少女一人がまるで圧倒している。

 倍以上ある体躯差を埋める力が、あの一刀に秘められていた。

 三人いる男連中全員が、蛇に睨まれた蛙の如しで硬直。同時に一途もまた多少の戦慄を感じる。

 何故だろう。この少女は一途達を味方し刀を握ったはずだ。

 なのにだ。にもかかわらず、圧倒的にまで開いている戦力の差が、純粋な恐怖へ感じる。

 大の男三人が、たった一人の少女に怖気づき萎縮しているという異常な構図を含めてだ。

「分かったでしょ。貴方達と私とでは、戦うことすら意味がない。結果一点に絞ってみれば、”もしかしたら”の可能性すらないことは分かるわよね」


 息吹に混じる冷酷な声は、一途にまではっきり聞こえた。

 本当に冷たい声だった。場が凍り付く。男たちは戦慄に呑まれ、身動きすら十分に取れていない。

 戦うことすら意味がないと思わせた圧倒的戦力差。

 それが如実に表れているせいで、彼らの戦意を大きく削いでいた。

 もう結果は決まったも同然。無言の中にある圧力が勝敗を決定づけている。

「す、すげえ……」


 率直にそう漏らしたのは一途だった。単純にそう思う。

 子供の時、テレビ越しに特撮ヒーローを眺めているような感じだった。

 ヒーローが颯爽と現れ、悪い怪人を倒す。純粋で単純な構図であるが、そんな構図に心を燃やしたちびっ子は多くいたはず。

 そして誰もが真似したはずである。

 ヒーローごっこ、悪と善の戦い。明確化された立場の戦いは、年齢問わず心を躍らせてくれるものだ。

 故に今の一途も似た状況にいた。見る一方であるが、確かに一戦を目の当たりにした。

 現状に対し理解は中々追いついてこなかったが、徐々に感動の気を纏って追行してきた。

 さっきまでの恐怖をも上回る感動。一刀を操る彼女への理想と憧れ。

 格好良かった。まるでテレビで見るヒーローだったのだ。誇張はない。

 ピンチだった一途達を救ったヒーロー。先行した第一印象はそれだった。

「まーたお前たちが問題起こしたのか悪三人組」


 不意に聞こえた声。完全に自分の世界に入り切っていた一途の意識を引き戻す。

 どうやら声を発したのはその少女じゃないみたいだ。少女は剣を男の首元から離し、鞘に納める。

 反撃の隙ならありそうだったのに、男達は微動だにしなかった。

 もはや戦意すら丸々喪失している図。

 彼女自身の纏うオーラ。隔絶した圧巻の覇気が、全てにおいて驚異的なパンチを効かせている。

 格が違うと、一言では足らないレベルに何もかも飛びぬけていた。

「お前らこれで何回目だあ? 好き勝手暴れやがってもう猶予ねえぞ」

「いや、その。これはだな……」


 ひょこっと、一途の後ろから一人の男が現れる。数十人の団体を引き連れて、

「おいお前ら、このくそ野郎三人を連れていけ」

「「了解です」」


 先陣きって現れた男が、引き連れている団体に命令を下した。

 組織的なぐるみに見える。だとすればこの人がリーダーなのだろうか。

 確かに纏う雰囲気は、そこらにいる奴と違うと一見でわかる。

 腰に据えられた刀。黒をベースとした上下の服装に、一定で刻まれている模様や柄。

 規則性のある服装から、どことない軍服的インスピレーションが湧く。腰元に据えられた一刀と妙にマッチしているし、引き締まった雰囲気からそれっぽさが感じ取れる。

 故に当然、リーダー的な立ち居と威厳を怖いぐらい感じれた。

 ぎゅっと紡がれた口元に、威厳のある眉宇。キリッと長く入っている一線の目。

 薄い茶髪は無造作で、丁寧と言えるほど切り揃えられた感じもない。なのでセットしている感じもなく、悪く言えばぼさぼさだが良く言えば気取っていない。

 眉あたり耳元あたりの短髪なのが幸いしてか、だらしないという気は思わせない。

 本人自身の顔立ちも影響しているか。どことなく中性的、綺麗めな顔立ちのおかげで髪型の干渉を受け付けていなかった。

 はっきり言って一途よりも全然イケメンである彼は――急に、

「いやあわりいな。怖い思いさせちまったか。飯食いにここへ来てるってのに、こんな目に合うなんて想像もしてなかったろう。俺達の見回りが完全じゃなかったばかりに、こんな目に合わせちまって本当にすまない」


 彼は一途の方を向いて言うや否、いきなり深々と頭を下げた。

 反応に困る。別に今件に関しては、誰が悪いとかいう次元の話じゃないと思う。

 そもそも防ぎようのなかった事態というか。意図せず起こったことなのでどうしようもなかったと言うか。

 不可抗力的な面において謝罪されても、色々言及し難い。

 早い話結果論だ。誰も怪我してないし、傷ついていないのだからいいと思う。

 精神的な傷やダメージを含んで尚、当のハルワタートは無傷のようだ。なんせ、今この瞬間ですら何食わぬ顔でバイキングを楽しんでいる。

 すぐにもよだれを垂らしそうな勢いでトングをカチカチしているハルワタートのこと。元が神としての図太い神経が幸いしていると見えた。

「あーいえ。謝らないでください。別に誰がこうされた訳でもないですし、気にすることないですって」


 一途が無難に返し間もなく、彼は頭を上げると申し訳なさそうに

「いやあ、そういってもらえると助かるというか、逆に申し訳ないというか……。とりあえず本当にすまない。以後こういうことがないよう、見回りや警備は厳重にするので何卒よろしく頼む」

 これで二回目だろうか。見回りという不慣れな単語が出てきたのは。

「あの、少し気になったんで良いですか?」

「おう、なんだ」


 快く一途の疑を了解してくれた。なので遠慮なく尋ねる。

「あの、見回りとか警備とか色々聞きなれない単語があるんですけど、要は警察的な立ち位置の方達なんですか?」

「ん、もしかして君達俺たちのこと知らない?」

「……すみません。最近ここらに来たばっかなんで色々無知でして……」

「あぁそっかそっか。それじゃあ無理はないな。すまない、自己紹介が遅れた。俺たちはこの町で見回り隊――かっこよく言えばギルド活動の一環として、街の警備をしている組織なんだ。一応俺はそのギルドで副団長をしている崎島紅蓮ざきしまぐれん。んで、あっちにいるのが団長の霧ノ柚きりのゆずだ」


 言って、崎島はあの少女を指さす。そこで指された子こそ、先刻一途達を救ったあの少女だった。

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