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手違いで異世界、間違いで転生  作者: 神条
一章ノ前 ――異世界生活――
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第四話 同棲

 正直、一途は現状に対し相当な齟齬をきたしている。

 理解が追いつく訳もないだろう。自分が破壊者ですだなんだ言われ、「はいそうですか」と頷けるはずもない。

 ただ、破壊者云々の件に関してはハルワタート自身も半信半疑だと思う。

 もし一途が破壊者相応の雰囲気やルックスを持っていたら、ハルワタートは「一緒に住もう」だ「私を養え!」だなんだ言えると思えない。

 そう軽口を叩ける点については、一途が破壊者とされるには似ても似つかぬ平凡顔というのが所以していると思う。

 こんなのが破壊者とされても威厳もへったくりもない。だから確かに怖くもない。

 逆の立場から考えても思う。もし逆に、ハルワタートがこの世界を滅ぼす人間だと、そう言われても素直には頷けない。

 同時にそれ以前の先入観が邪魔をするのだ。

 こんな可憐で美少女、加えて華奢な少女だ。「年端もいかない少女がそんなことできる訳ないだろ」の要領と同じで、ハルワタートも似た意識を一途に向けてると思う。

 一途自身ですら信じ難いことを、他者が易々と信じていると思えないのだ。

 しかし最高神である存在がそう予言しているらしい事実。神の頂点に君臨し、数多もの未来を視てきた存在。

 それの言うことを、歯牙にもかけないことはできないだろう。

 何より最高神を間近で見てきたハルワタート自身が、この件に関して一番紛糾しているはず。

 むしろ一途は、最高神の逸話や体験談をいくら聞かされてもピンとこない。

 ある意味当然だ。人間の武勇伝やら何やらだったら、まだ確かめようも信憑性もある。

 だが相手が打って変わって神となれば、体験談ですら神話や伝説の枠組み。

 一応の範囲でも、この件に関しては頭の片隅に置いておくべきなのか。

「ほーら一途。ようやく着いたよーん」


 一途と並行して歩いていたハルワタートが、チラリと目配せして言った。

 どうやら、なんやかんや思考しているうちに到着したらしい。

 約二十分ぐらい歩いただろうか。その分数の先にあった光景は、

「へぇ、ここが初心者広場――通称始まりの街か」


 どこか感心したよう言って、一途は周囲を見渡した。

 先程までいたカフェ街と似たり寄ったりで、やけに洋風な雰囲気が漂っている。

 ずば抜けた新風さは感じないが、逆にこの見慣れた洋風さは体に馴染む。

 先刻のカフェ街より、柔軟でソフトな空気感は心地よかった。人並も老若男女様々であれば、武器を据えた男や鎧を着た騎士、誇張なしに幅広い人間がいる。

 それこそほうきにのった魔女や、黒装束に身を包んだ魔導士がいてもおかしくない。

 真っ当な人間がこの光景を見れば、「コスプレ大会でもやってるのかな?」と思うだろう。

 そうとも思わなくなった一途は、そろそろ感性と固定観念が崩れかけていると思う。

「つーか思った以上に広いエリアだなー。こっから役場探すの大変じゃねえか」

「んー、確か役場は中央エリアにあるよ。今いる場所が南エリアだから、北にもうちょい歩けば着くと思う。役場超でかいし、付近に専用初心者寮がいくつも連なってるから見ればすぐわかるよ」

「そうかい。んじゃ、頑張ってもうちょい歩くか」


 一途はまた、この世界のことについて色々聞きながら歩いた。



     □    □    □     □


 

 正直、流石神と言ったところだと思う。

 いや、所詮は元であるし神の力も使えないが、ハルワタートの知恵は本物だった。

 今の一途にとっては、ハルワタートを歩く辞典と表現しても大げさではない。

 疑問に思ったことを聞けば、殆どが刹那的に返ってくる。元々頭の回転が速いのだろう。

 知りたいであろう内容をほぼ的確に、そして正確に突いて喋ってくる。

 さっき歩いている時に聞いた「役場」の件と「初心者専用寮」のこともそうだ。ほぼほぼ最低限にまで言葉を絞って、究極にまで要点を纏めて言ってくる。


 ――役場、それは日本の世界観で言う市役所のようなもの。街の行政事務や市民による義務的手続き、そういった最重要な骨組、プロットを組織的に管理する場。

 ――初心者専用寮。それはこの異世界に転生されたばかりの、身寄りもない人間を居留させてくれる場。

 しかしその期間は定められていて、居留の期間は最高半年。

 それまでにギルド団体に所属し専用の住居を提供してもらうか、魔導士や魔術師になって金を稼ぎ住居を借りるか。

 所詮は身支度や準備を整える仮の場所でしかない。

 だが反面に当然家賃もかからない。ご飯に関しても朝昼晩と一定の時間帯にバイキング形式で行われる。

 ただ本当に最低限なので部屋も狭いし待遇も決して良いとは言えない。


 と、役場や初心者専用寮について問うた一途に、ハルワタートは上記のよう答えたのだ。

 おかげで把握も安易。聞き返すことはほぼなかった。

 本当に聞けば何でも返ってくるし、有益な示唆を瞬間で得られる。ただし、だ。

 ハルワタートの知恵を引き出しにできる代わり――その条件が一途にもある。

 それは最低でも六ヶ月間、一途はハルワタートの面倒を見てやらなければいけない。

 最初その条件を聞いた時、「どうせ怠慢だろ、だるいだけだろ」と思った。そしてハルワタートの言う「面倒を見る」の真意を理解できなかった。

 だって初心者専用寮があれば金銭食料衣料住居、最低限の衣食住は確保される。

 その時点で面倒は見られているようなものなのに、そこから更にみる面倒とはなんなのか。

 そう思って聞き返せば、返ってくる答えに一途は思わず納得してしまった。


 ――要は、元が神だった故の反動だ。

 確かに神と名の付くだけあり知識も豊富、知恵の宝庫と言ってもいい。

 ただ、知識や知恵だけ相当数あってもそれを活かせる経験がないのだ。

 人間が生きていく上での最低限すら、ハルワタートには経験がない。

 例えば、人は食べ物を食べなきゃ餓死してしまう。例えば、排泄は人が生きていく上で欠かすことのできない行為。例えば、人は睡眠をとらなければ衰弱死してしまう。

 上記の行為が人間に必要不可欠と知って尚、その行為のやり方が分からないのだ。

 何故なら神は寝ない、睡眠もとらないし食事も要さない。当然排泄行為もなし、性欲も生まれなければ、神とは完全な純潔であり潔癖。

 人間が何をしなければ生きていけないのかは知っている。知っているだけで、その知識の応用が利かない。

 ではどうしたらいいという疑問にぶち当たってこそ、一途の出番である。

 要は一途が、その知識に伴う経験を覚えさせる。

 それこそが唯一、ハルワタートの知恵を引き出しにできる条件だった。

 パッと思いつくだけでも入浴や食事の仕方、服の着替え方や文字の書き方。

 知識だけでは応用の利かない分野で、最低限の実体験を与え体に馴染ませる。

 このレベルになると、小学生範囲の算数から教えなければいけないのかと思った。

 しかしどうやらそうでないらしい。早い話、行動や体験を必要とせず、脳だけの処理で解決できる勉強系はめっぽう得意とのこと。

 なんせ元神、知識と知恵の塊のような存在だ。

 四平方定理の証明や、ベクトルによる厳密で機械的な計算。そんなことは文字に表すこともなく暗算で済ませられるらしい。

 場合によっては、世界レベルの最難関大学すら安易に合格するだろう。

 最も、そこに辿り着くまでの基礎的な生活が成り立たないのだが。その基礎的な面を、一途がフォローする形になる。

 なので当然同棲だ。最低半年は一緒に住むことになる。

 美少女と同棲、と言えば聞こえは良いが、実情は決して違う。と、思うしかなかった。

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