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手違いで異世界、間違いで転生  作者: 神条
第零章  ――始まりと終わりは突然――
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第一話 子供だましな都市伝説

 この世界には下らない都市伝説がある。

 神隠し――と言えば率直で良い。

 親の言うことを聞かない悪い子は、天界より召された天神に連れ去られるという都市伝説。

 傍から聞けば、都市伝説の王道中の王道と言ったところか。

 だが王道である反面、所詮大の大人が真に受けるような話ではない。

 その例外に漏れず一人の青年、織木一途おりきいっとも信じていなかった。

 まあ大の大人でも何でもない一途だが、信じる訳もなかろう。

 そんな強引な説話、サンタさんを信じているかいないかの狭間を揺らいでいる子供にしか通用しない。

 なので無論、高校二年生にもなった一途がその話を信じる訳なし。

 恐らくはちょっとませたガキ程度でも、即座に首を振ってこの話を否定するだろう。

 天界より召された天神? いるはずがない。

 そもそも一途は、神様以前科学的に証明できないものは信じない派だ。

 ゆーふぉー然り幽霊然りである。まだ上記の存在についてなら賛否両論あるかもしれないが、神となると類が外れる。

 宗教関連に携わる人間以外で、絶対的に信仰する者はいないだろう。

 そのレベルの存在なのだ。

 ただ絶対的に信仰する者は少なくとも、半信半疑程度に抑えてる者は多くいるかもしれない。

 一途の場合その半信すらせずの真っ向否定。

 バカバカしいにも程があると、内心思っていた。

 思っていたのに――”それ”が実在した。都市伝説の中にしか存在しないであろう神が。

「うそ、だろ」


 思わず一途の口から言葉が漏れる。目をも見開き硬直。

 息をするのさえ忘れ、時すら止まったよう感じた。

「――聞こえなかったのか?」


 今一途のいる現場は、迷路のよう入り組んだ住宅街。時刻はまだ午後七時四十二分で、空は仄かに明るかった。

 沈みかけの夕日が魅せる微光の黄昏。空に薄っすら散りばめられた点々の星。

 空の一部が薄い紺色で支配されれば、それは夜更けの前兆を意味した。

 薄い紺と沈み切っていない夕日のコントラストが、一閃に空を切る。

 確かに綺麗で神秘的ではある。だが、今の一途はそんな一景に見惚れている余裕がない。

 神秘的以上に、不気味な現象が起こっているのだから。

「君は選ばれた人間になったんだ。私、天神であるハルワタートセーナ様が異世界に連れて行ってやる」


 空に浮いている一人の少女は冷静に告げた。

 一途は疑問を投げかけることすらできなかった。相手の言葉すら頭に入ってこなくて、ただただ一点の疑問が脳裏を占めていた。

 「何で空に浮いているの?」――そう問いかけたかった。

 けれど言葉が詰まって、思うように発言ができない。

 どうやら硬直しているのは体だけじゃなく声帯もらしい。

 まるで自分の体が自分の体じゃないみたいに自由が利かない。

(…………っ)


 開いた口が塞がらない。正にこの状況下のことを指すのか。

 この少女――――いや、そもそも少女という枠に収めていいのかさえ不明。

 姿身なりこそ少女の面持ちだが、それ以前重要な部分での欠落がある。

 人間としての面持ちであり面影。

 空に浮いている少女を見れば、そう思うのが妥当なところである。

「なんで浮いてるかって聞きたそうな顔してるね? とりあえず答えとくけど私が神だからだよ。ていうか早い話、君のどんな質問にも”私が神だから”の一文あれば十分なんだよね」


 この少女は、当たり前のように自分を神だと名乗った。

 この状況、この現状。不思議の枠をも超えた夢にすら感じる。

 一途はただお菓子を買いに行こうとしただけなのに。近場のコンビニへ行こうとしただけなのに。何故こんな目に会う。

 何故お菓子を買いに行くがてら、神と遭遇してしまうのか。

 色んな意味でこの状況を夢だと思いたい、幻想で幻聴だと全てを否定したい。

 脳の処理と理解が追いつかず、全てを夢という一言で片付けようとしている。

 無意識の中にある自分が現状から逃避しようとしている。

 誰だってそう思うはずだ。

 目の前に空を浮く少女が現れ、現れたら現れたでいきなり「君は選ばれた人間だから異世界に行こう」と戯言を抜かされ、挙げ句高圧的な態度で迫って来る。

 これが現実なのかと疑いたくなるのに無理はない。

「ま、いきなり異世界行こうだなんだ言われてもビビるよねえ。でもこれは夢じゃないの、とりあえずお話は”ゼロの世界”に行ってからしよう」


 勝手に一人で話を進められた。

 ふわんふわんと上下に浮き揺れながら、少女は一途の手を握る。

 正直何が何だか良く分からない。聞きたいことも確かめたいことも色々あるのに、それすら驚愕で忘れた。

 あ、とか、え、とか、ちょ、とか。まるでコミュ障よろしくばりの不定な言葉しか喉元を上がらない。

 成すがまま成されるがままである。

 ろくな否定も肯定もできる訳なかった。

 ある種この少女の思うつぼだったのかもしれないと、思わざるを得ない。

「そんじゃ、ゼロの世界へレッツゴ―!!」


 意気揚々と胸を張って少女は言う。

 やがて一途の足元に浮かんでくるのは煌めく紋章だ。

 魔法陣と表現しても間違いではないだろう。複雑に線が入り組んだ、それでいて規則性のある模様。

 そんな刻印がどこからともなく地面より浮き出て、一途達を照らす。

 かなり眩しかった。青白い燐光に包まれた紋章。

 生気をたたえたこの住宅街に顕現するには、あまりにも不相応だ。

 不相応すぎるが故の場違いさが、不気味へ繋がっている。

 夕日のコントラストも、住宅街だからこそある生気も、紋章の燐光がぶち壊しにしているのだ。

 その点については、この少女にも当てはまるかもしれない。

 淡い夕日に充てられ、むかつくほど輝く少女の銀髪。それは風に吹かれ、扇のよう背まで広がり神秘を纏う。

 外人のよう高い鼻立ち。雪のよう淡くて白い肌、三日月にまがった口から覗く歯は完璧の並び。

 程よい桜色に染まった唇もどこか妖艶で、少女ながらのあどけなさは時折消える。

 まるで色気づいた女のような雰囲気もあれば、不意に戻る子供らしさが彼女の素か。

 それすら不明なのが彼女の魅力であれば、末恐ろしささえ感じる。

 もう人間味すら感じないのだ。あまりに整いすぎた顔立ちが人間味をかき消している。

 この住宅街に居ては何かが崩れてしまう。

 紋章に次ぎこの少女も。非現実的レベルで整った顔立ちは、紋章と相まってファンタジー性の増大に繋がる。

 それと同時、正に一瞬と表現しても良い。刹那的で、爆発的に輝く紋章の燐光が二人を囲って”消した”。この日本上、いや、地球上ですらない。

 宇宙というちっぽけな枠組みすら超越した”ゼロの世界”へ、二人は消えていく。

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