表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
エピローグ『革命前夜』
67/67

偽物少年の刹那的幸福論

「ねぇ、聞こえていますか?」

目を覚ますと、知らない場所に居た。真っ先に視界に入ったのは緑。それから、満開の白い花。

暖かな春の日差しが二度寝を誘うけれど、地べたで熟睡するのは流石によろしくないので何とか起き上がる。

音はしない。いや、風が草を揺らす音はする。でもそれ以外は無音だ。沈黙と言うより、静寂と言うべきだろう。まぁ、それは置いておいて。


どうやらここは、どこぞの庭らしかった。一瞬草原かと勘違いしかけたけれど、すぐ側にある民家や塀がそれを否定している。縁側のある民家なんて久しぶりに見た。

さて、これは不法侵入にはならないのだろうか。なったらなったで理不尽な気もするが。

何にせよ、状況がわからない。そう思い、『僕』は辺りを見回してーーーー


「綺麗でしょう?」


不意に聞こえた声に、思わず耳を疑った。


「その花、白雪芥子(しらゆきげし)って言うんですよ。『茎切れば血の色流す花なれど、白き姿はただ清らかに』の、白雪芥子。」


リリィちゃんが一生懸命育てて、昨日咲いたばかりなんです。


声の主はそう言うと、柔らかく笑う。いつの間に背後に居たのだろう?もしかしたら、最初からかもしれない。彼女は意外と、そういうのが好きだから。


「この家は、サクヤさんとノートさんが探してくれました。皆一緒に住んだ方が、色々行動しやすいでしょって。」


行動?と問うと、彼女は少し照れ臭そうにしながら、でもどこか嬉しそうに答える。


「今、皆で革命運動してるんです。『クレイモア』、って結構有名だったりするんですよ?名前は、ルーが付けてくれました。」


言いながら差し出された手。こんな小さな手で、理想郷のほぼ全国民を相手取っているのか。そう思うと少し驚いたけれど、彼女ならあり得ない話ではなかった。本来のこの子は、想像以上に強いのだから。


花を踏まないように気を付けながら立ち上がると、彼女は反対の手で真っ直ぐに木陰を指差した。

そこにあったのは、二つ並んだ大きめの石。ここからじゃ読めはしないけれど、それぞれに名前が彫ってあるようで。ということは、きっと誰かの墓なのだろう。心当たりが、無いわけじゃない。


「【夜】さんが、名前覚えていてくれたんです。女の子の方が『グレーテル』。男の子の方が、『ヘンゼル』。どっちも骨は入れられませんけど、形だけでもと。」


そっか、ありがとう。


はい。



ざぁ、と風が吹き抜けていく。繋いだままの手から伝わる体温は、相変わらず温かくて。胸の中を満たしていく感情が、少しだけむず痒い。きっと僕の中で、何かが動き出しているのだろう。ずっと止まっていた何かが、やっと。


「ーー……皆で作った、皆の居場所です。帰る場所は、ちゃんと在るんです。だから、」


彼女は、笑っていた。


「おかえりなさい。」


だから僕も、笑って言った。



「ただいま。」











THE,《END》

「僕はちゃんと、幸せだよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ