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エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
さよならユートピア
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夜明けの番人【夜】

すいません、この話投稿するの忘れてました……(笑)

「行っちゃった。本当、怖いもの知らずだよねぇ。」


段々と太陽が登っていく空を見上げ、私は大きく伸びをする。あんなに長い間喋ったのは久しぶりだ。……ついでにいえば、あんなに感情を曝け出したのも久しぶり。随分とまぁ、私らしくないことをしたものだ。

もっとも、当の彼は全く気にして無いんだろうけど。ありがたいような、でもやっぱり腹が立つような。なんだか妙な気分。


「彼はどうするのかな?」


目を閉じれば近くで聞こえる拍手喝采。その正体は、ついさっき音を立てて降り出した雨だった。雨は嫌いじゃない。雪よりは好き。だけど、晴れよりは嫌い。

まぁ、それはともかくとして。

さぁて、彼は今も走っているのだろうか?この大雨の中、『あの子』を間に合わせるために。

『あの子』がセラに会えるように。


なんて、彼自身には無関係なことなのにね。


『あの子』が死のうと生きようと、世界から逸脱した私達には何の影響もない。例え『あの子』が死んじゃったって、いつも通り朝が来て、いつも通り夜が訪れるのだ。そんなこと、彼だってよくわかってるはずなのに。


「わかってても、止まれないんだろうなぁ。彼はとってもとっても馬鹿だから。」


諦めるとか諦めないとか、そういう次元の話じゃなくて。彼はただ、『見て見ぬ振り』が壊滅的に苦手なだけ。そして、きっと学習能力も低い。

過去。自分が惨殺した伍千伍百伍十四(ごせんごひゃくごじゅうよ)人分の命全てを相手に、『贖罪』なんて馬鹿げたことを行って。その結果あり得ない程の労力を消費して、ついでに『無限再生』っていう不死の呪いまでかけられて。それもこれも、無視していい無駄なものに構ったせいで。


あの時、散々不利益を被ったというのに。悔いるどころか、彼は飽きもせず同じことを繰り返している。まるで子供みたいだ。

下手に世の中を知ってしまったが故に、必死で悪ぶってる良い子。不恰好に格好つけて、下手くそに強がって。

ああ、無力。そしてなんて、脆いんだろう。


「でも、割と好きかも♪」


ふふ、と漏れた笑みが何を意味していたのか。それは私にもわからなかった。だけど、妙に熱を持った頬に気づかない私でもない。

不思議と、あれだけ荒れていた機嫌もすっかり落ち着いていて。胸に湧き上がるのは、また別の感情。

我ながら単純だなぁ。まぁ、たまにはこんなのも悪くないと思うけどね。

どうせ長い人生を生きるのだから、こういう『縁』があったっていいじゃない?


恋は盲目。恋に恋する乙女心。

なんて、ちょっと飛躍し過ぎ?


「『人が恋に落ちるのは重力の責任ではない。』ばい、アインシュタイン。」


人間は嫌いだった。人間らしいのも嫌いだった。だけど全員こうも弱い生き物ならば、可愛げがあるというもので。

……ああでも、彼は人間じゃないんだっけ。元は人間だから、対して変わらない気もするけれど。


生まれて、というか存在してから初めてだったんだよ。今の気持ちも勿論だけど、この広い国から『私』を見つけ出した『人』も。

こんな始まりはおかしい?

そんなの百も承知だよ。

奇天烈で、荒唐無稽。誰にも理解なんてされないような、そういう序章(プロローグ)。だからこそ価値があって、だからこそ面白い。


実に、私好みの展開だ。


「んじゃ、私も少しだけ頑張っちゃおうかなぁっ。」


好感度を上げておいて損はないし、何より私を利用してくれちゃった【強欲】ちゃんへのお礼もしなきゃだし。


濡れた風が、頬を撫でる。溶けた雪は水に帰して、足元でばしゃばしゃと跳ね上がった。それが、何だかとっても楽しくて。一向に止む気配のない雨の中、黒いワンピースの裾を翻した私は唄う。子供のように、声を上げて。


「息を止めて朝を待つ」


「私は全部を知ってるの♪」


「ヤギは祭壇で丸裸」


「暖炉の中の聖女♪」


「君は言うーーーー」

「『世界は(しゅ)、その御手(みて)の中に』」


「私は言うーーーー」


灰色の雲の下。いつも通りの朝を迎えた理想郷は、ゆっくりと動き始めていた。自由を手に入れるため『人間』を捨てた彼らは、今日も今日とて欲望のままに、ひたすら快楽を求めて。

当然だ。私がそう望んで、そう作って、そう間違えさせたんだから。

だけどそれも、きっと長くは続かないだろう。

当然だ。

私がそう望んで、そう作って、そうやって『革命家』に成ったセラが、あの子の死の後に何もしない筈がない。


「『世界は僕らの手の中に。』♪」


とにかくこの国は変わる。さてそれは改善か、または改悪か。さぁ、どっちなんだろうね?脱線したシナリオの未来を、私は知らない。故に、ここからは手探りで進まなければ。

少し不安ではある。でも、大抵のことなら何があったって大丈夫。

これは驕りでも何でもない。ただの真実だ。例え誰がどんな策を考えて、どんなものを賭けてたって変わらない。

そう。

どうせ、私に勝てるものなんて存在しないんだよ。

だからいつも通り、好きなように振舞っていればいい。創設者としてではなく一人の国民として、理想郷ライフを楽しんで。あぁ、重役は人間にあげちゃおう。そしたらもっと楽になるよね!

ここは人間の国だもん。変わるのが人間なら、変えるのだって人間が一番でしょう?


「さぁ、何しようかなぁっ。」


風に靡いた髪が、根元の方から灰色に変わっていく。堕ちた時に捨てた色。まだ真っ当なカミサマだったころの色に。同時に、伏せていた目も真っ黒に染まって。さっきまでの印象的な赤は、どこにも無くなってしまう。

赤は好きだった。逆に、灰色は嫌いだった。だって、カミサマっぽくないじゃない?

でもね、今はこれでいいの。


「まずは、あの子へのお礼だよねぇ。それから彼に会いにいこうかなぁ。」


一から十まで本当本物の私を、好きになってもらいたいから。


「いっぱいお話しして、いっぱい遊んで。ああでも、その前に名前聞かなくちゃ!」


心臓が高鳴って、笑みが零れた。一向に止まらない高揚と、言い表せないもどかしさが胸を満たして行く。嫌いなものでもキレイに見えて、なんだってできちゃいそうな気分になる。

思わず走り出したくなるような、ちょっとオーバーな感情。でも、あんまり不愉快ではないんだ。

この感情の名前を、私は知っている。知っているけれど、知らないフリをする。


「ーーーー絶対、惚れさせてやるんだから。」


覚悟しててよ?


なーんちゃって、ね。


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