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エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
さよならユートピア
59/67

真夜中の謎解き【夜】

一人語り。

まず最初に言っておくけれど、私とセラの喧嘩……というか、戦争の原因はね?セラが、【憤怒】に取り憑かれたからなんだよね。そう、君も会ったでしょ?ノート君をぶち抜いた、兎のレインコート着た子。あれはセラだったんだよ。で、何で取り憑かれたかというと……

彼。白い方の彼が、あの子をーーううん。正確には、『私達』のことを忘れてたからなんだよね。我慢出来なくなっちゃったんじゃない?あの子は、昔から白い方の彼が好きだったから。

どういうことかって?まぁ、単刀直入に説明するとだね。


私とセラは、おんなじなんだよ。ほら、君だって気付いてたはずだよ?【強欲】が妙なこと言い出したからおかしくなっちゃったみたいだけど。その話を聞くまで、君は私達が同一人物だって思ってたでしょ?だから、私達の関係が複雑だって言ってたんだもんね。その通りだったんだよ。


ーー本来私達は一つの存在だった。だけど、『歯車独裁計画』において『白い少年』が死んだ時に。私は少年の感情から【正義】を創作して、そして『セラ』を切り離したの。なんでって?必要だったからだよ。【正義】が生まれた時点で計画の終焉は予想済みだったからね。研究者を君が皆殺したら、私は逃げられないじゃん。あの頃は拘束されてたから、外から逃がしてくれる人が必要だったの。……本当は君が私を殺しに来た時に、どさくさに紛れて逃げようと思ってたんだよ?でも、君はさっさと贖罪始めちゃってさ。白い方の彼の中に寄生しちゃったから、逃がしてくれる人がいなくなったんだよ。……寄生って言うな?じゃあ、居候で。とにかく私は、誰かに見つけて貰うまでそのまんまってのに耐えられなかったの。


だから、私を逃がす私を作ろうと思った。で、『セラ』を切り離したって訳。ちなみに、セラには元の私の『人間らしい部分』を丸ごと渡した。常識とか情とか、そういう部分をね。

その後。そう、問題は私が脱出した後だよ。

私達は、白い方の彼に出会ってるの。記憶にない?そりゃそうだよ。君は彼の中に寄生……じゃないや。居候始めたばっかりだったでしょ。おまけに、彼も作り出されたばっかりだった。そんなすぐ記憶の共有なんて出来ないって。つまり、今の彼も君も知らないシーンってこと。


話したよ。私は後始末とか証拠隠滅とかしてたから少しだけだったけど、セラはもっといっぱい話してた。なんて言ってたか?自分が偽物だってことと、これからどうするかって話してたかな。その時だと思うよ?セラが、彼のこと好きになったの。理由はわかんないけど。だから、生まれた時から余命を数えて生きてく彼を、助けたいと思ったんだろうね。

だけど私の『人間らしさ』の塊でしかないあの子に、彼をどうこうするなんて出来なかった。でもせめて、自分が偽物だって記憶だけは消してあげたかったんだよ。僅かな間でも、自分のために生きられるように。

勿論、そんなことしたら自分の記憶も彼から消えちゃうよ。それでもいいって、そういうことだよ。


セラは言ったの。「愛してあげられなくてごめんね」「でも大好きだよ」って。ボロボロ泣きながら。

そしたら彼は、びっくりするぐらい無表情で。でもすっごい優しい声で。「大丈夫だよ」って。「いつかまた会えるから、そうしたら今度こそ、」「君の側を離れないから」って。

んで、彼の記憶を消して。目覚めた彼に、「8つの大罪を壊して」って言い残して、私達は失踪した。あれは思いつきだったけど、なかなかいいアイディアだったでしょ?まさか理想郷にまで来るとは、思わなかったけれど。


これが、あの時に起こった全てだよ。もうわかったでしょ?


そう、セラは『赤い少女』じゃないんだよ。私の分身だからね。

『赤い少女』?……ねぇ、本当に想像つかないの?


世界で一番好きな人が自分を庇って死んじゃって。この世にもう希望はないって思い込んだ女の子が何をするか。人間っぽく考えたらわかるでしょ。


うん、そうだよ。『赤い少女』は、私達が来た時にはもう死んでた。君が白い方の彼に寄生した後、彼が目覚めるより早くね。君は彼が生きてることを知ってたんだろうけど、少女は知らなかったんだよ。知らなかったっていうか、壊れてたっていうか。


さて。

少年が生き返るのは『少女の救済』だからだよ?でも肝心の少女は自殺。なのに、少年に生き返る権利はあるのかな。きっと真実を知ったら、少年も同じ道を辿るのに。だったら、わざわざ白い方の彼が死んでやる必要もない。だって誰も、これ以上不幸になりようがないんだから。生きることが罪じゃないなら、死ぬべきじゃない。


【強欲】がなんで、デタラメを語ったのかはわからない。多分あの子にも色々事情があったんだと思う。でもだからって、彼が犠牲になるのは理不尽だよね。少なくとも私はそう思って、色々手回ししたんだけれど。それも無駄になっちゃったのかなぁ……。

ほら、サクヤちゃんに会わせたりとか、積極的にセラと遭遇させたりとかさ。彼が主人公になれば、そう簡単には消せなくなるでしょ?でも、【強欲】が出てきちゃったからねぇ。あの子は本当に、トリッキーな子だよ。殺したくなる程迷惑だね。


ふむ。さて、これが私の知ってる全ての『伏線』ってやつなんだけど、この後君はどうするの?私は所謂『探偵役』を引き受けて、解決した。でもあくまで、物語に介入出来ない『外側』の解決だからね。内側で誰かが動かないことには、ハッピーエンドは訪れないよ。


もうハッピーエンドなんて無いって?それもそうだね。じゃあ、こう言い換えようか。


必ず巡ってくるバットエンドを、楽しむために。さぁ、君は何をするの?もう時間は無いよ。早くしなきゃ夜が明けちゃうんだから。


「善は急げ」


だよ。君のしようとしていることが、善か悪かは、知らないけれどね。


独り語り。

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