[END] of prologue. 【朝】
あんなに嫌いだった私のことも
あんなに好きだった君のことも
突然開かれた扉の向こうから、淡い光が差し込んでくる。ああ、朝がきていたんだ。と、どこか達観した考えが脳裏浮かんで。それから、扉を開いた張本人の声に耳を傾ける。
祈るように呼ばれたのは私の名前。向けられたのはあったかい笑顔。
だけど、私が彼に返したのはそのどちらでもなくて。
「何しに来たんですか?」
残酷で残忍で最低で最悪な言葉、それだけだった。ああ、こんなこと言いたかった訳ではないのに。これが私の本心なんだろうか?だとしたら、なんて救い様のないーーーー
「なんで、きたんですか。」
あいたくなかったのに。
冷たい、冷たい声。
すると彼はちょっとだけ苦笑して、後ろ手に扉を閉めた。ばたん、と重い音が響き渡る。
こちらから見ればその行為は、自分で逃げ道を塞ぐっていう自殺行為にしか見えないんだけれど。彼は「最初から逃げるつもりなんて無い」と言わんばかりにまっすぐ私を見つめ、躊躇いなく一歩目を踏み出した。
思わず固まってしまった私の前で、彼が笑う。何かを諦めたような、さみしそうな表情。
さっきまではまるで気づかなかった。でも、この距離で見ればすぐにわかる。
彼は。
私の好きな人は。
……何かを、隠しているのだと。
それも、世界滅亡とかよりもっと重大な何かを。
訊かなければ、と思う。私が『こう』なってからの三日間、一体何があったのか。その他にだって話したいことは沢山あったし、確かめたいことも沢山あったんだ。引き裂かれそうな程大きな『想い』が。
だけど、どれも言葉にはならなくて。意味もない声が、ぽつりぽつりと漏れ出すだけで。
何も伝わらない。
何も伝えられない。
どうしてだろう?と自分の手を見つめて、ああ。と悟ったように笑う。彼は不思議そうな顔をしているけれど、私にはそれだけで充分だった。
「セラちゃん?」
そうそう。私は、化け物になったんでした。【兎】に壊されて、【憤怒】なんていう化け物に。
そりゃあ人間の言葉なんて出てきませんよね、当然です。うっかりしていました。
さて。そうなると優先順位が少し変動するようです。まぁこれも、当然といえば当然なのですが。
先の発言は本当です。訊きたいことも確かめたい愛も話したい真実も、山程あります。が、それどころではないのです。一刻も早く、
「あは、は。」
こんなに狂っちゃった化け物から、彼を逃がさなければ。
もう何も、考えないことにしたの。




