孤独なカミサマの無神論【紅】
軽い足音が木霊する、細い道。
「ふーん、【強欲】が出てきちゃったか。ということは、真相も知られちゃうだろうね。折角隠してあげたのにーーーー。」
コツ。 コツ。 コツ。
「このまま、このまま『あの子』の思ったままに進んだとして。『あの子』の願いが、叶ったとして。」
『昼』間だというのに、彼女の進む路地裏は『夜』のように暗く。提灯すら吊るされていないここでは、彼女の赤い髪が更に際立って見えた。
「【偽零蝶】は行方不明。【止終虎】と【花色猫】は人の中。」
「【憂鬱】はとっくに舞台から降りてる。」
「……となると、あの子はやっぱり【兎】なんだろうね。」
どうでもよさそうに。本当にどうでもよさそうに彼女は言う。そこにいつも愉悦や、楽観の色などどこにもない。
あるのは、ひたすらに深い。
殺意。
「きっとあの子は、白い方の彼を殺す。【兎】は全てのストレスを発散するまで決して止まらない。白い方の彼を殺して、ついでに黒い方の彼も殺して。最後に、奪った『現世切り』であたし【私】を殺しておしまい。だーいだーんえーん。」
その殺意を覆い隠すような、乾いた笑い声が反響する。壊れた神様の、壊れた笑い声が。
くるくる、くるくると。
だが。
しばらくそうした後、彼女は唐突に足を止めた。
「ってことはさ、あたし【私】の国も犠牲にするって言うんでしょ?でしょ?あはは、そんなのって。そんなのってさぁ、」
静寂が辺りを包み、
「ふっ、ざけんなぁぁぁあああああ!!」
「何が理想だ!何が希望だ!幸せになったこともない奴が、不幸になれると思ってんじゃねぇ!」
文字通りの、激昂。
力任せに振るわれた拳は周囲の建物を、地面を、時には空気すらも壊して行く。
「希望を押し付けんな、理屈を多用すんな!偉そうに、偉そうに偉そうに偉そうにーーーー!」
「この桃源郷は、あたし【私】のための理想郷は!てめぇなんかが我儘で壊していいもんじゃねぇんだよぉっ!!」
彼女の絶叫は、いっそ悲痛な程に轟いた。おそらくは路地の外まで響いていただろうが、道ゆく人がそれを気にする素振りはない。
そう、誰も彼女を認識していないのだ。
彼女は。
誰にだって気づかれない。
知られない。
見つけてもらえない。
だから。
だからこそ彼女はーーーー。
「絶対、絶対、絶対絶対絶対絶対絶対!あたし【私】の手で、あたし【私】自身の手で、」
「ぶっ、殺ぉす!!」
肩で息をしながらも、確かにはっきりと言い放って。
【傲慢】の名を冠した化物は、まるで地団駄を踏むように、体重の倍以上の力でアスファルトを踏みつけた。衝撃に耐えきれなかったアスファルトは深い深いひびと共に砕け、更に彼女の足はその下の地面にまで突き刺さっている。
そこで、暴れ狂っていた彼女はぴたりと動きを止めて。
「……せいぜい首洗って待ってなよ、×××。」
睦言のように甘く、どこまでも甘く、溢れんばかりの憎悪を込めて、彼女はそう囁いた。
理想郷の創造主、罪深き神様。
彼女はルシフェル。またの名をルー。そして、本当の名は。
『ルシファー』




