自業自得【夜】
「この世界は君たちの想像よりずっと」
きぃぃぃ、と金属の上を同じ金属が滑るように這う。その甲高い音は悲鳴みたいに、重々しく木霊した。もっと言えば、断末魔の悲鳴みたいに。
「ちっ、」
どちらのものとも言えない舌打ちが一つ。
振り下ろされた剣には加減も理屈も無く、俺を切り捨てる為だけに動いている。
均衡。
というよりは単純な力の押し付け合いが、俺と襲撃者の間で続いた。それは刹那だったかもしれないし、永遠だったかもしれない。まぁ、重なった二つの武器がーー人を殺す道具が同時に軋んだこの瞬間に、そんな均衡はあっさり崩れるのだが。
技術も方法もかなぐり捨てて、横薙ぎに刀を振るう。片手で弾くなんてどだい不可能だし実際無理だったけれど
「…………!」
「名乗れよ。見当は付いてるがこっちには確証がねぇんだ」
ばきりと。
結構極限状態にあったあいつの剣を破壊することには成功したようだ。
限界が近かったのはこちらも同じだが、生憎俺には出来すぎたこの刀が折れることはない。当たり前だ。何しろ、それが売りなのだから。
それはいい。それはいいとして。
さて、問題はここから。
「どうせあの女のーーーーサクヤだとかって女の差し金なんだろ?」
そう言った途端、正確には俺が『彼女の名』を口にした途端に、あいつはもう一度地面を蹴る。そりゃあそうか。
答える訳がない。
裏を返せば、怒らない筈がない。
何故ならあいつにとって俺は、主人を殺そうとしている反逆者そのものなんだろうから。
想定はしていた。あんな風に見境なく通り魔みたいな真似をすれば、通りすがりの通り魔みたいなやり方をすれば、いつか邪魔になって消されるだろうと。例えば、俺の標的になりやすかった暗黒街の住人とかに。
そう考えるとこいつの判断は、人間性はともかくとして悪いものじゃなかった。
こういう馬鹿には、動機だの何だのを余計に喋らせるより息の根を止めた方が早い。
「つっても、殺されてやる気は無いけどな」
「言ってろ、化け物」
吐き捨てるように返ってきた返事。それから、大きく振り上げられた三本目ーーいや四本目か。の剣が頭上に迫っていた。
これは避けられないな。ちょっとタイミングが殺人的だ。
とはいえいきなり頭真っ二つは絵面上よろしく無いので、ほぼ無意識に体を傾ける。
するとやはり剣は俺のすぐ側を通り過ぎて地面に亀裂を走らせた。もうとっくに手首から先を失っている右腕を、ご丁寧にも切り落とすのを忘れずに。
遠くで聞こえるリリィの悲鳴。
ああそうか、あいつ逃がすの忘れてたなーーーー
「……めんどくせぇ」
しょうがない、よな。
意思疎通が出来ない人間っていうのは殺してもいい人間っていうのと同義みたいなものだ。幸い、人殺しには慣れているし。手段には事欠かない訳だし。リリィを死なせるのは胸糞が悪いし。大罪も全てを見つけてはいないし。暇つぶしの現状分析も、飽きたし。
敵の右腕を奪ったばかりだというのに退くことなく五本目の剣を抜き、素早く突きつけた切っ先で俺の眼球を刺し抜こうとするあいつを、達観して傍観しながらそんなことを思う。
俺の価値観で申し訳ないが殺してもいい人間が目の前にて、殺しても殺し足りないーー殺されても殺され足りない俺がここにいるのだから、構わないだろう。と。
些か短絡的で暴力思想な気もするが、気にしないことにしよう。余計なことを考えるのは得意じゃない。
それに極論一人や二人や百人消えたって。どうせ世界は、問題なく回るのだ。
「悲劇的で、無関心だ」




