邂逅【夜】
『探し求めたタカラモノ【夜】』の続きからです。ああどんどん血生臭い方向に……
「もしかして、【色欲】か?」
ゆっくりと、硬質な紫の目が見開かれて行く。今だに繋いだままの手から震えが伝わってきて、戸惑うように顔が逸らされた。こうなると答えは明らかなのだが、だからといって俺の口から言っていいものではないんだろうと思う。結論を急ぐべきではあるけれど、結論を急かすべきではないのだ。
続々と通り過ぎて行く人間の群れの中で、黙りこくってしまったリリィの言葉を待つ。
「わ、たしはっ!」
しばらくして、腹を据えたようにリリィが顔を上げた。だがーーーー
ず、とん。
「……え?」
その言葉を
「、ちっ」
最後まで聞くことは出来なかった。
呆然とした声が、目の前から聞こえる。
つい先ほどまでリリィの手を握っていたはずの手の、更に手首から先の感覚が無くなって、見慣れた赤い液体が勢いよく空を舞った。それを視認した途端、鋭く鈍い痛みが走る。正直に言えばかなり痛い、がそんなことよりも。
油断していたとはいえ、自分の手をあっさりと切り落とした人間に意識が向かった。
「っ……誰だよ、お前」
咄嗟に反対の手でリリィを背後に隠し、建物の上から俺たちを見下ろしているそいつの姿を目に焼き付ける。真っ先に俺を狙ったのだから多分リリィに危険は無いんだろうが、まぁ反射というヤツだ。
暗い紺の髪に同じ色の目。どこぞの革命家みたいに文字通り特色のある見た目ではなくとも、溢れんばかりの殺気は充分に感じた。地面に突き刺さった白銀の剣からも、色特有の気高さを無に帰す血生臭さが伝わってくる。危機を悟ったのか、いつの間にかあれだけいた第三者もこぞって姿を消していた。
つまり、向こうにとっては絶好の処刑場。
「悪いな」
そいつが、無表情で言葉を吐く。
機械的に無感動な、まったく意思の籠らない声で。
「死ね」
次の瞬間。
俺は愛刀を片手で抜き、そいつが振り下ろした二本目の剣を受け止めていた。




