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エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
裏切騎士と歯車独裁計画
29/67

Curiosity killed the cat.

幸も不幸も。

「八つの大罪ーー正確には八つの枢機罪」


憤怒、暴食、傲慢、色欲、憂鬱、虚飾、強欲、そして怠惰。


「有名なのは七つの大罪の方だけど、原点というならこっちだろうね」


嫉妬が無くなって、憂鬱と虚飾に。ーーいや、無くなったというよりは『分けられている。』


「でもって面白いのがね?八つの枢機罪は、七つの大罪と違って実体を持っているということなんだよ。実体といっても幽霊とかそっちの類に近いのかな?」


有るのに見えず、在るのに触れられない。だけど形の無い偶像ではなく、想像でしか創造出来ないものではなく。

確かにそこにあるもの。


「憤怒が兎で、暴食が狼。傲慢が(きつね)、色欲が猫で……憂鬱が羊だったかな?虚飾の蝶と、強欲の(ふくろう)。ーーそして怠惰が虎。時たま人間に化けてるのも居るけれど、」


彼らはこの国で、人に寄生して生きている。『八つの枢機罪』として、罪を振りまきながら。寄生した人に特異な力を与え、代償としてその闇を食い荒らすのだ。


まるで、神様にでもなったような気分で。


「面白いでしょ?勿論ノンフィクションだけれど、サクヤちゃんには気をつけた方が良いと思うよ。あの子に『虚飾』は、ハマり過ぎてる」


赤々と提灯が灯る裏道を進みながら、彼女は相変わらずのめちゃくちゃな文法でそう語った。彼女にしては珍しく、そっけない端的な口調。


『八つの枢機罪』。初めて聞いた語句だ。妙に胡散臭く感じる。だけど。


だけど、まったく心当たりがない訳では無いのだ。

特に【虎】と【蝶】については心当たりなんてレベルではない。

となると僕はーーいや、僕らは。


「それ、本当なんですか?大罪が動物になってるとか、現実離れし過ぎてるような」

「本当だよ。あたしは嘘も吐くけど、本当のことが言えるタイプでもあるからね。急転直下の急展開なのは認めるけれど」


流石に伏線張る余裕無くってさ。

そう言って彼女は快活に笑った。

嘘。

もしも本当に、彼女の言葉が本当なら。

否、本当である必要も無いんだ。ただ、嘘じゃないのなら。

僕らはとっくに聞き手ではなく、演者になっているということで。

傍観者のつもりで、当事者になっていたということだ。

僕が出逢ったのは確かに【虎】だった。

そして彼女が出逢い、それから騙されたのはーーーー


【蝶】。


「その、」

「ん?」

「大罪に出逢うと……というか寄生されると、どうなるんですか?」

「おやおや、ノートちゃんは不気味なことを言うねぇ?それじゃあもう手遅れになってしまったように聞こえるよ」


ああほら、いつもの『全てを知り尽くした』ような表情。

過去も未来も、現在(いま)すらも見通している風に。裏も表も、表面も奥も。

一様に知り尽くしておいて、何も知らないフリをしている。

それこそ本物神様みたいな、彼女の笑顔が示すことなんて一つだ。


「まぁでも君の質問に答えるのなら、喰うか喰われるかの二択だと答えておこうかな?大罪に吞まれて崩壊するか、大罪をも凌駕するほどの強い感情を持つか。稀に大罪を受け入れたって人の話も聞くけれど、普通は無理だしねぇ」


彼女は全てを知っていてこの話を僕にしたのだ。彼女流に言うなら、ほんの少し伏線を張ってくれたというか。

僕には【怠惰】が、サクヤ様には【虚飾】が寄生していると。そしてーーここからは僕の推測だけどーーおそらくこのままなら、サクヤ様は。


「ま、『もしも寄生されていたとしたら』どうしようもないよ。余生をどう消費するか、かな?

……と、あたしはこの辺で失礼するよ、急用が入りそうな予感がするんだよねぇ」

「え、あ、ちょっとルシフェルさん!?」


僕がこれからどう対応するかと考え込んでいると、しばらくは黙って立ち止まっていたルシフェルさんは唐突に、言うだけ言って歩き出した。ぶんぶんと大きく手を振って、まるでたった今思いついたみたいに。


「後は自分で考えたまえよ、少年!未知のない人生ほど、つまんないものはないんだからさっ!」


最後の最後まで僕に引き止めることを許さず、彼女は去って行く。本当に急展開。奇跡的に突発的だ。嵐みたいな、というか。あんな到底信じにくい話をしておいて、その上それが事実だと突きつけておきながら、平然と帰るとは。

まさしく奔放。無視してこそのセオリー。彼女らしいといえばーーーー彼女らしい。


「本当に帰っちゃったよ……」


さてさて。

折角だからルシフェルさんの後を追いかけて詳しい話を聞きたいところなんだけど。だがしかし僕には命より大事な使命があるし。何より、詮索を嫌う彼女に無理を強いれば手痛い仕置きが待っていることなど明確だ。


Curiosity killed the cat.

『好奇心は猫をも殺す。』


迂闊に足を踏み入れるものではないのだ。おとなしくーーおとなしく。命令と警告に従っておこう。


それからといえば。

僕は情けなくも着々と、彼女の元へ帰還したのだった。頼まれたブラッディルビーのペアリングと、物語の本質ともいえる【大罪】の知識を持って。


全ては罪で作られる。

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