あかいいと。
きってはつないで、はりなおす
ブラッディ・ルビーの宝石が付いたペアリング。
彼女が通り魔の首より欲したのは、まさしくソレだった。血のように赤い二人分の指輪が欲しいと。誰かとお揃いにでもなさるのですか、と尋ねた際に見せられた、彼女の悪戯っぽい笑顔は忘れられない。そのおかげで、僕はまだ彼女の真意にまで辿り着けていないのだけれど。とりあえずは、『イェスト』で意外にも早々に発見された目的のものを、彼女に届けるしかない訳で。
もしかしたらお嬢様は、指輪が『イェスト』に売っていることを知っていたのかもしれない。それぐらい良いタイミングだった。僕は宝石には詳しくないからなんとも言えないが、何分マイナーな宝石であまり入荷しないそうなのだ。
値段は20000円ジャスト。そこまで高額なものではない……が、まぁ僕の値段よりは高い。
『今この時間この場所をもって、貴方は私の玩具になるの』
そういえば、サクヤお嬢様は随分と機嫌が良く見えた。何かあったんだろうか?嘘、という可能性も無くは無いけれど、あの笑顔は初めて会った時と同じ笑顔だったと思う。狂い出す前の、彼女曰く『蝶に騙される』前の笑顔に。
だとしたらーーーーーーーー
「あ、ノートちゃんじゃーん!」
思考を貫いたのは聞き馴染んだ声。それからむぎゅ、と後ろから抱きしめられる。脇の下をくぐった細い腕が器用に絡みついて、同時に素早く寄せられた『あの子』の体が、僕の背に自身の体温を伝えていた。
本来なら慌てふためいて然るべきだけど、毎回恒例の儀式となれば流石に慣れる。いや、やっぱりちょっと恥ずかしいとは思うけども。
「ルシフェルさん、お久しぶりです」
「久しぶりだよー、サクヤちゃんと仲良くしてるぅ?」
しっかりと服を掴んでくるあの子ーールシフェルさんの手をゆっくり外しながら振り返ると、心底楽しそうなその赤い目と視線が交差した。
ルシフェル。
確か聖書にそんな名前の天使だか神だかがいた記憶があるけれど、残念なことに教養のない、というかお嬢様以外を信仰していない僕にわかるはずもない。
そしてまたこの子自身にも関係の無いことだろうから、深くは考えないでおこう。
とにかく。
目の前にいる少女について語るとするなら、僕に言えるのはたった一言だけである。
『怖いもの知らず』。
ーーそう、この言葉だけ。
「相変わらず人殺ししてるの?血の匂いがしていた気がするよ」
ルシフェルさんは、にっこり笑って言い切る。そこに遠慮や容赦の類は皆無だった。
恐怖という感情のないルシフェルさんにとって、はたからみれば立派な殺人鬼の僕も暗黒街のボスそのものなお嬢様も、等しく『~ちゃん』扱いなのだから当然かもしれない。
「昨日はしましたけど、今日はしてませんよ」
「そーお?じゃ、良いコト教えてあげましょー」
他の誰にも内緒だよ、とわざとらしく唇の前に立てられた人差し指をしばらくの間横目で眺めて、それから僕は丁寧にうなづいた。少し帰りが遅くなってしまうけれど、きっと大丈夫だろう。
昔から彼女の言う『良いコト』が意味の無い話だったことはない。むしろ、『聞いて置かなければまずいコト』ばかりだった。幹部が企てていたお嬢様の暗殺計画であるとか、この国で何が起こっていることとか。
つまり、彼女なりの世間話に付き合って損はないと。
「今日は、そうだねぇ。
八つの大罪の話をしようか」
何でも知っている不思議な少女は、そうして話し出した。
ぼくときみとの、ちょっとゆがんだあかいいと。




