探し求めたタカラモノ【夜】
繁華街【イェスト】
「あ、あの、」
「なんだよ」
とりあえず遅い夕飯でもと、足を伸ばした繁華街。何故かというと、単純にウェストに子どもを連れて行くのが若干躊躇われたからだ。いや見世物小屋にいた奴にそんな気遣いをするのも、妙な話ではあるが。
「人が、いっぱいですね……!」
まるで新しい玩具を前にした子どものように、好奇心溢れる表情でリリィは言う。不安、というより緊張しているらしく、迷子防止に繋いだ手へ込められた力が、少しだけ強くなった気がした。
「お前、来たことねぇの?」
「はいっ!花売り地区までなら行ったことあるんですけど、東に来たのは初めてです」
花売り……っていうと、ウェストの奥の。
「色街じゃねぇか」
「って、言うらしいですね。綺麗な女の人がいっぱい居たんで、いつかあんな風になれたらなー、と思ってたんですが」
残酷な程に純粋な笑顔が、下から俺を覗き込む。訂正しなければならないことは山ほどあるんだけれど、それを口に出すのはかなりの下品だ。俺は元々品の良いとは言えない側の人間だが、そういう問題じゃない。
なんて、柄にもなく返事に迷った末に俺が吐き出せた言葉は、些細にして無意味なことだった。
「あれを目標にするのはやめとけ」
へ?と不思議そうな声を上げたリリィの手を引いて、人混みの中を抜けていく。まったく本当に俺はどうにかなってしまったみたいだ。昔なら、子どもの言うことに本気になることなんてなかったのに。別人に作り『変えられた』ように人間らしくなってーー。
と、そこで。
俺の思考は停止した。
正確には、切り『替わった』というべきだろう。動いていない訳ではないのだから。むしろ今まで以上に動いている。
そうではない。
そうではなくて。
渦巻く雑踏。繁華街からじゃ明る過ぎて、星も見えやしない。見えるのは、月と太陽ぐらいだろうか。そうだ。明る過ぎれば目の前が霞んで見えないんだった。
だから。
今の今まで、俺は気付かなかった?
「リリィ」
名前を呼ぶ。
ただそれだけなのに、あいつはひどく嬉しそうに頷いた。よく表情が『変わる』奴だなと、他人事みたいに思う。
ああ、これでやっと得心がいった。
あの時こいつと記憶の中の子供が重なった訳も、出会ってから一変した色々な事象も。
朝のアレも、さっきの会話も。
【変わる】、または【変える】。
それは、俺が探している物の特徴の一つだ。
「お前、」
「へ?」
立ち止まって視線を合わせ、一瞬躊躇ってから口を開く。勿論これはただの推測で、さっき気付いたばかりだし証拠や確証は何もないんだけれど、俺は不思議と確信していた。
こいつが、俺の探し物の一つなのだと。
「もしかして、【色欲】か?」




