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エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
裏切騎士と歯車独裁計画
26/67

18650円の愛

最初に訂正です。

前話のタイトルが間違っていました…

正しくは『「こんばんは」の聞こえる朝を』です。

昔、昔の話。

僕が、まだ人間じゃなかった時。

18650円で売られていた時。


「いいわ、私が買ってあげる。貴方も、貴方の大罪である『虎』も。今この場所この時間をもって、貴方は私の玩具になるの」


本物の笑顔で言われたそんな言葉を、僕は今でも覚えている、

鮮烈で、強烈で、凶悪で。

あまりに劇的だった、言葉を。


「サクヤ様……」


と。

呟きかけて伸ばした手が綺麗に空振った瞬間、僕はふと目を覚ました。

相変わらず明かりの無い部屋。だけれど、彼女の自室よりは禍々しくない僕の部屋。

狂狂しくない、というか。

どうせなら彼女の狂気を肩代わりして差し上げたいのだけれど、それはきっと僕には荷が重いのだろう。そういうのは恋人とか家族とか、友人とかの特権で、たかが玩具に務まりはしない。

わかっている。

わかっている。

わかっている。


「馬鹿か、僕は」


思わず漏れた自虐。

これも、毎朝のことだ。

毎朝毎朝目を覚ます度に彼女への想いを再確認して、身の程知らずな感情に呆れ返って。

それでもまだ、好き、だなんて、

恋か愛か、あるいは忠誠か。彼女に抱いた感情の名前は、未だにはっきりしていないけれど。考えるのも馬鹿らしい程に、深く重い感情なのは確かだ。


「ノート、居るー?」


ほら、こうやって名前を呼ばれただけで、嬉しくてたまらない。




「まったく、めんどくさいことをしてくれるわよね」


最近の彼女は、いつも忙しそうだ。聞いた話によるとその原因はとある通り魔らしい。一般人だけではなく、暗黒街の重鎮やその部下にまで手を出したものだから、お偉いさん達が処刑処刑と荒ぶっているのだと。

何処で誰がどんな風に、あるいはどんな理由で殺されたって僕は全然構わないんだけれど、彼女を困らせるのは止めて欲しいと思う。

ま、それはともかく。


「名声目当てなら名乗りでも上げてくれればいいのに。正体不明ってのが厄介よねぇ」


そう嘘を吐いた彼女の元へ紅茶を運びながら、その一言一言に耳を傾ける。おそらく彼女はそいつの殺害を命じるだろうから、その時を聞き逃さないように。


……なんて、思い込んでいたのに。


「まぁいいわ。今日の私は、機嫌が良いから見逃してあげる」


彼女は、笑って言った。


「だからね、ノート。今日は別のことを頼みたいのだけれど構わないかしら?」


いつもは背筋をぴしりと伸ばして座るソファに体を横たえて、肘掛けへ頭を乗せたサクヤお嬢様が上目遣いで僕を見る。悪戯を思いついた子供みたいなその笑顔は、まるで本物のようだった。いやいやあり得ないとは思っているけれど、迂闊にも夢見てしまいそうになる。

サクヤお嬢様は嘘つきだ。

自分を偽ることで生き延びた、自他共に認める大嘘吐きなのである。

ずっとそばに居たんだ。それぐらい知っているよ。

だから、ーーーーだから。


「かしこまりました、お嬢様」


今だけは、騙されたフリを。

いつか覚める夢でも構わないから。

……なんて。少し、我儘だろうか。


こうして、僕の人を殺さない日は始まったのだった。

とはいえ、特に何があった訳ではないのだけれど。

物語としてはつまらなくとも、遺書としてならなかなか重大な日にあたる。

今思えば、そんな、一日だった。


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