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エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
裏切騎士と歯車独裁計画
24/67

昔々あるところに。【夜】

『昔々あるところに』

随分と、昔の夢を見た。

ずっと昔、具体的には5、6年ぐらい前の。

まだ俺が、『俺』じゃない何かだった時の話。




一番古い記憶は、黒い部屋の中だった。

黒くて深い暗闇の中には、ソファとテーブル、それから大きな窓があって。窓の外には、真っ白な部屋が広がっていたのを覚えている。

そこで俺は、ずっと見ていたんだ。

白い部屋で、人が死ぬのを。それから、実験台として利用されるのを。

ずっと見ていた。

見ることしか、俺には許されていなかったから。

目を逸らすことも出来ずに、ただひたすら傍観を繰り返す。それが俺の日常で、俺の存在理由で。


子供や夫と散り散りになったと、泣いている母親がいた。

両親から引き離されたのだと、身を寄せ合う兄妹がいた。

置いてきた妻子にいつか必ず再会すると、叫ぶ父がいた。

もしも力があるのなら教えてやりたいと、何度も思う。家族だけは無事だから、なんて安堵する彼らに、今お前の隣にいるのがお前の母で、父で、兄で、妹で、家族なのだと。だけど、どれだけ声を上げたってこの言葉が届くことはない。黒い部屋の中でだけ反響して、空回って。

そんな日々を繰り返す中で、『もういい』と諦めるようになったのは、案外かなりの時間が過ぎてからだっただろう。





「ごめんね」


そう。

あの日も、こんな声が聞こえていた。


「『愛して』あげられなくて、ごめんね」


押し殺すような、涙まじりの声。

俺は「またか」と耳を塞いで、なおも聞こえ続けるソレから意識をずらして。


「本当に、本当に好きだったんだけれど」


部屋の中央、出血で真っ赤に染まった少年(ガキ)と元々真っ赤な少女(ガキ)が何やら話している様子を、いつも通りにぼんやりと眺める。

きっと少年(ガキ)は死ぬんだろうな、とか、どうでもいいことばかりを考えていた。


「私なんかじゃ、あなたを『愛する』には力不足みたいで」


ポタポタと流れる涙が、少女(ガキ)の頬を伝って床へ。そこで血と混ざり合い、二人の服や体を濡らしている。


尋常じゃない出血量。

どこから流しているのかは見えないけれど、多分そう長くはない命だ。

と、どこか壊れた思考が訴える。そのまま緩慢とした動作で目を閉じて、俺は806回目の現実逃避を開始した。


確かあの頃は、随分と世界が淀んで見えていた気がする。世界、といっても黒い部屋と白い部屋だけだったけれど、俺にとってはあれが全てだったから。殺処分や人体実験が、俺のためだけに行われていることだって本当は知っていたんだ。知らないふりをしていただけで。


「大丈夫だよ」


「いつか、またあえるから」


「そうしたら、こんどこそ」


段々と、文字通り目に見えて浮上して行く意識の中、歪む感覚の向こう側で少年(ガキ)が笑う。もう、手遅れな笑顔で。


「ーーーーーーーーーー」


ああ。

ほら。

そろそろ時間切れだ。

つまらない回想や過去編が終わって。

また今日も、悪夢が。


始まる。


『無力な化け物がおりました』

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