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プロローグ【黒】
鐘。
りぃいん。
鐘の音がした。
りぃぃいいん。
頭の奥に反響するような
重い音が。
りぃぉおん。
音のする方へ、あいつは歩き出した。
だから俺も、同じ方向へ歩いた。
どうせ目的地なんてない。
どうせ行くところなんてない。
「何処へ行こうか」と訊かれたから
「何処でもいい」と答えた。
「何処へ行きたい?」と訊いたら
「何処でもいいよ」とあいつは答えた。
でも少し疲れたから
「休める場所へ行こう」と決めた。
とりあえず月が沈んだほうへ。
月桂樹の旗がたなびくほうへ。
ーーああ、そうか。ここが理想郷。
雑踏と雑音が溢れた
欲望と快楽の街。
『エリュシオン』。