ギミックぎみっく
あたしが知らないものはこの世に存在しないんだよ?だから、あたしは知っています。貴方のことも、貴方のお父さんの居場所もぜーんぶ知っています。だけどそれを教えてはあげません。面白くないもんね?なら君は、教えてくれそうな人の所に聞きに行くんでしょう。でもでもって、君のお父さんを知っているのはこの国にただ二人ーーーーあたしと、サクヤ嬢だけなのでしたー!
これが、その後彼女が語った僕の父親についての情報全てだった。
耳を疑うほどめちゃくちゃな文法で話し出された時はかなり焦ったけれど、何とかルーの伝えたかったことは理解出来たからまぁ良しとしよう。今更気にしたってしょうがないしね。とにかく今は、やっと見つけた手がかりのことを考えないと。
結論から言えば、僕は自分の父親のことなんてまったく覚えていない。生存していることさえ『知らなかった』。いやいや生物学上「一度として存在したことがない」ってのはありえないんだけれど、記憶の中に、という意味では「存在していない」ような父親だ。
それが、この国の暗黒街にいる。
しかもその情報を語ったのが目の前にいる彼女なのだから、僕の大して優秀じゃない脳は混乱しっぱなし。
「なんで君が、僕の父親を知っているの?」
「知っているから知っているんだよ。知らないことだって知っているけれどねっ」
相変わらず要領を得ない回答に、僕は思わずため息を吐いた。どうやらルーは、どうしても理由を教えてくれないみたいだ。まるで教師と話しているような気分。
『人に聞く前に自分で考えなさい、調べなさい。』っていうか。
まぁ教師と話した記憶もないけどね。
それにこんな教師の生徒になるのは嫌だ。
なんて考えていると、僕が黙ったのが気に食わなかったらしいルーが急に勢いよく僕の手を引く。
「うわっ!」
僕はつんのめりそうになりながらも危うく体勢を立ち直し、何をいきなり、と文句を言おうとして口を開きかけた。が、そんな言葉が声になる前に。
「ほらほら、さっさと来ないと置いてくよ!」
僕の手をしっかりと握りしめたまま、彼女は全力で走り出した。
「ちょ、ええ!?」
鼻につく香水の匂いを振り切って街の奥へ。遊女らしき女性たちやその客らしき男性たちの間をくぐり抜けるように、彼女は迷いなく右へ左へ体を滑らせていた。僕も反射的に向かってくる人を避けながら転ばないように足を動かすけれど、なにぶん彼女のスピードが段違いに速いものだからついて行くだけで精一杯で、まずいとは察していても、この手を振りほどいて逃げ出すなんてことは不可能だ。
そういえば最初の頃セラちゃんにもこうやって助けて貰ったけれど、シチュエーションや人が違えばここまで危機感溢れるんだなぁ。
「ルー!?どこに……」
「決まってるじゃん、サクヤ嬢の所だよだよー」
あたし、立ち止まってるのって嫌いなんだ。そう言って振り返った彼女は、澄み切った青空みたいな笑顔で。
これから暗黒街のボスに会いに行こうという少女には、とても見えなかった。
「さて、彼は『私』を思い出してくれるのかな?」




