何でも知ってる彼女
その後。
「で、これからどこ行くの?」
「うーん……素晴らしい場所!」
多分『いい所』って言いたかったんだろうなぁ。なんて呑気なことを思いながら、僕はやけに楽しそうな彼女についていった。今思えば途轍も無く無謀な行為だ。数分前の自分を殴りたい程に。なんせ、のこのこ付いて行ったその結果が
「歓楽街【ウェスト】の最奥部、通称【花売地区】でっす」
「そういう意味じゃなくて!」
まさしく、この光景なのだから。
シンプルながらも煌びやかな着物やドレスに身を包んだ女性たちが、見せつけるように艶めかしく、台の上で体をよじる。大胆にはだけさせた服からは、病的なほど白い肌が惜しげも無く晒されていた。
視線を向けることすら躊躇われるような、お世辞にも『素晴らしい』とはいえない光景。そこに、僕とルーはいた。
「なんでよりにもよってここなの!?」
「だってだって最初は普通ここじゃんよー。君だって好きでしょでしょ?」
「好きじゃないよ!そもそも来たこともないし、」
「ふむふむ。まぁルーちゃんは優しいからそういうことにしてあげますよー……とか言ってみる」
「ちょ、何その誤解を生む表現」
聞きたくなくても耳に入ってくる全ての言葉が卑猥で卑猥で、そんなに純情ではないはずの僕も耳を覆いたくなる。赤い唇がこちらを見て弧を描くのを横目に、僕は必死に彼女を説得した。
「と、とりあえず出よう。ここから、今すぐ」
「えー?でも、暗黒街に行くならこっからの方が近いよう?」
暗黒街。
その言葉を聞いた途端、嫌な予感が背筋を走る。まさかとは思うが、この子は。
僕を『サァズ』へ連れて行く気だったのか?
「いや、別に暗黒街へ行かなくても」
「あれ、いいの?なーんだ、てっきり行きたいんだと思ってたよ」
本当に「予想外!」という表情で、ルーは大きく目を見開いた。それからくるりと向きを変えて、僕より一歩進んで、また振り返って。
「《お父さんに会いたくてこの国に来た》んじゃなかったんだっ」
「え、」
彼女は笑う。
茫然自失の僕に、なんの邪気も込めずに。
そう、全てをーーーーーーーー
「もしかして、知らなかった?」
知り尽くした表情で。




