《また会えたら》
「ねぇねぇ知らない?こーいうのをデートって言うんだよー」
「……これは違うよ」
石造りの階段を、1段飛ばしで跳ねる赤い髪。薄暗い道へほんのりと申し訳程度に灯った桃色の提灯が、まるで誘い込むみたいに妖しく揺れる。
「ここを真っ直ぐ進んだら『ウェスト』の南寄りの辺りに出るんだよっ!近道……ってか、抜け道だったり」
「よくもまぁこんな所見つけたね」
「えへへ、お褒めに預かり光栄です」
「いや、褒めてはいないけどね?」
左右には、何かを啄ばむ鴉の群。見上げれば、雲に覆い尽くされた灰色の空があって。僕ら以外の話し声や他の音、誰かがいる気配すらもない。
そんな場所を喜々として闊歩するルーに、僕は半ば呆れながらついて行った。
その間も、ルーの話は続く。
「とっころっでさー、君ってセラのことどう思っていますの?」
「……へ?」
「うんにゃ、いっつもあたしを見てあの子のこと思い出しているでしょう?つまりつまり、セラに恋だったするのかなって」
そう言って、ルーは僕を振り返った。背の翼がふわりと空を掻いて、小さく音を立てる。白。ーー白?
「別に、そういう訳じゃないけど、」
白、白、白。白白白白……赤。
泣きそうな少女と、笑わない僕と。
白と赤と黒と赤と。
《大丈夫だよ》
《いつかまた会えるから》
《そうしたら今度こそ、》
「ふーん?じゃあ、似てたから重ねただけ?」
「まぁ、ね」
突如として浮かびかけた記憶に、困惑しながらも平静を装う。もしかして彼女は、僕が知りたいことを知っているのではないか、なんて想像と推測が何度も脳内を駆け巡った。だけど、それを口に出してはいけないのもわかっている。不確定過ぎるんだ、何もかもが。記憶の片鱗も、僕自身も。
「今度こそ、」。
僕は、この後なんて続けるつもりだったんだろうか。誰に、なんと。
「ーーーー……本当に覚えてないんだね、何も」
そんなことに、気を取られていたせいで。
ルーを追い抜く寸前彼女が呟いた言葉は僕の元まで届くことはなく、ただひっそりと、冷たい風に乗って街へと消えていった。




