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エリュシオン  作者: 雨夜 紅葉
自堕落少女の優雅なる遊戯
16/67

《また会えたら》

「ねぇねぇ知らない?こーいうのをデートって言うんだよー」

「……これは違うよ」


石造りの階段を、1段飛ばしで跳ねる赤い髪。薄暗い道へほんのりと申し訳程度に灯った桃色の提灯が、まるで誘い込むみたいに妖しく揺れる。


「ここを真っ直ぐ進んだら『ウェスト』の南寄りの辺りに出るんだよっ!近道……ってか、抜け道だったり」

「よくもまぁこんな所見つけたね」

「えへへ、お褒めに預かり光栄です」

「いや、褒めてはいないけどね?」


左右には、何かを啄ばむ鴉の群。見上げれば、雲に覆い尽くされた灰色の空があって。僕ら以外の話し声や他の音、誰かがいる気配すらもない。

そんな場所を喜々として闊歩するルーに、僕は半ば呆れながらついて行った。


その間も、ルーの話は続く。


「とっころっでさー、君ってセラのことどう思っていますの?」

「……へ?」

「うんにゃ、いっつもあたしを見てあの子のこと思い出しているでしょう?つまりつまり、セラに恋だったするのかなって」


そう言って、ルーは僕を振り返った。背の翼がふわりと空を掻いて、小さく音を立てる。白。ーー白?


「別に、そういう訳じゃないけど、」


白、白、白。白白白白……赤。

泣きそうな少女と、笑わない僕と。

白と赤と黒と赤と。


《大丈夫だよ》

《いつかまた会えるから》

《そうしたら今度こそ、》


「ふーん?じゃあ、似てたから重ねただけ?」

「まぁ、ね」


突如として浮かびかけた記憶に、困惑しながらも平静を装う。もしかして彼女は、僕が知りたいことを知っているのではないか、なんて想像と推測が何度も脳内を駆け巡った。だけど、それを口に出してはいけないのもわかっている。不確定過ぎるんだ、何もかもが。記憶の片鱗も、僕自身も。

「今度こそ、」。

僕は、この後なんて続けるつもりだったんだろうか。誰に、なんと。


「ーーーー……本当に覚えてないんだね、何も」


そんなことに、気を取られていたせいで。

ルーを追い抜く寸前彼女が呟いた言葉は僕の元まで届くことはなく、ただひっそりと、冷たい風に乗って街へと消えていった。



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