天使と悪魔と厨二病
『自堕落少女の優雅なる遊戯』編突入!
「みーつけたっ!」
「……なんだ、君か。どうしたの?」
「なんだとは失礼だなぁもー」
からからと笑って、赤髪赤目の彼女は言う。その格好は、酷く異質だった。
まるで聖書に出てくる天使のような、浮世離れした服装に身を包んで。背中に生やした、純白の羽が風に揺れて。どこぞの革命家と瓜二つな顔で、まったく正反対の笑顔を浮かべている。
彼女の名は、ルシフェル。愛称はルー。一昨日出会った時に、「ルーって呼んでねっ」とインパクト大な自己紹介をされたもんだから、よく覚えていた。
「いやいやー、大した理由はないんだけれどもね?見慣れた背中を見かけたから声をかけただけだったりしないんだよ」
どこか違和感がある文法と、そんな些細なこと気にするなと言わんばかりのハイテンション。これが彼女のスタンダードで、通常運転だ。朝から元気過ぎるその姿に、僕の口から溜息が漏れる。
最初に会ったときは、酷く驚いた。だってルーは、あまりにもセラちゃんに似ていたから。双子とかのレベルじゃなく背格好や声まで一緒で、まるで分身でもしたみたいに。ルー曰く
「あの子とあたしは全然違うんだよ。おんなじだけど全然違う。他人じゃないけど他人だし、あたしはあの子を知っているけどあの子はあたしを知らない。その本質は鏡の像みたいに正反対」
だ、そうで。
よくわからないけれど、別人であると。ーー否、別人ということにして欲しいと。そういうことだった。
とはいえ、像は確かに正反対だとしても、鏡に映る前のそれは同一の存在。つまり彼女たちは、いや、彼女たちのどちらかは。
「はーいストップー。それ以上は深読みしちゃいけませんよーっ」
と、そこまで考えたところで彼女からの制止が入った。わざとらしく伸ばされた手が、僕の目の前で左右に揺れる。
「知らない方がいいことと同じくらい、考えない方がいいことだってあるって誰か言ってたんだからね、ねっ?」
緩やかな弧を描く口元。
それでいて有無を言わせないような言葉の圧力だ、頷く以外の選択肢はないだろう。殺される、とまではいかなくても、ろくな目に遭わないことは簡単に予想できる。
「あー、はい」
「それでよしっ!」
両手を顔の近くまで挙げて開き「降参」を示すと、彼女は満足そうに笑って腰に手を当てた。どうやら、怒らせずに済んだらしい。
ーーなんて一安心したのも、僅かな間だけで。
「さっき言った通りあたしの方に意味はないらしいんだよー、でもって君はこんなとこで何するの?もしかして暇人さん過ぎた?」
「うーん、と。まぁやることはあるよ。とは言っても観光だけなんだけどね」
その瞬間、不思議そうに僕の顔を覗き込んでいた彼女の表情が目に見えて変わる。悪戯を思いついた子供のようにあどけない、無邪気な笑顔。あ、と自分が選んだ言葉が間違いだったことに気付いた僕をキレイに無視。そして何度かわざとらしく頷いた後、満を時して言葉が紡がれた。
『彼女』と、同じ声で。
口調や癖、仕草まで意図的に似せ。
「私が案内しましょうか?」
ただ、やはりほんの少しの圧力を含ませて。




