ー4ー
―日本―
「そろそろ時間かな・・・」
西は恵子にそう告げた。
高層ビルの最上階にあるレストランに二人はいた。
人間が築き上げた文化が眼下に広がる。
ここから眺めると、より複雑そうにひしめく都会が無数の光を放ち動いていた・・・。
そんな窓の外に目を向けながら。
「そうね・・・」
恵子が時計を見ると、深夜0時になろうとしていた。その時は、もう、すぐだった。
「ねえねえ、あれ見て綺麗・・・流れ星かしら・・・」
窓の外を指差しながら、隣の席の女性が向かいの彼に囁いた。
「・・・何だあれ?綺麗だな・・・」
周囲の人々は窓の外の異変にざわつき始めた。
それはまるで、偶然始まった打ち上げ花火を、楽しそうに見つめているようだった。
ビルの窓からは、宝石を散りばめたような夜景とともに、真っ暗な夜空を数本の光が孤を描き、光のラインをひいていた。
それは美しく輝きを放ち、それでも確実に進んでいくのが見えた。
目の前に突然繰り広げられた光景は、まるで、SF映画でしか見られる事の無いような、非現実的な美しいショーだった。
しかしそれは、紛れもなく悲劇へのワンシーンだった。
だが、ムードあるその空間では誰一人疑問を抱く事もなく、ただみとれているだけだった。
「ねえ、編集長!キスして!」
恵子は西にそう言って寄り添った。
「編集長って呼びかたはやめてくれよ・・・」
「ごめんなさい、ヒロシさん・・・」
西はそんな恵子を優しく包み込むように抱きよせた。
そして二人は、静かに唇を重ね合った。
人が造り上げた東京という大都会を、人が造り上げた無数の灯が彩る。
そんな贅沢できらびやかな夜景に祝福されるように、二人のキスはいつまでも続いた。
しかし数分後、皮肉にも人が造り上げた大きな光のエネルギーと共に、一瞬で全てが消え去ろうとしていた。
それは同時に、二人のこの幸せな瞬間を永遠にする事を意味していた・・・。
ー2020年3月16日 青梅市総合病院ー
安らかに目を閉じ、ベッドに眠る恵子。
そんな彼女の姿を、愛おしそうに見つめる彼女の母親は、目に最後の涙を浮かべていた。
やかて決心したように、主治医に向けて話した。
それは何度も口にしかけたが、どうしても言えなかった苦渋の一言だった。
「先生・・・、恵子を、行かせてあげて下さい・・・」
臨床医である水谷に、そんな母親の言葉が重く響いた。そしてその意志を受け止めると、ゆっくり頷いてみせた。
「分かりました・・・。彼女は十分頑張りました。この安らかな表情が、その時を受け止めようとしている証しですよ・・・お母さん」
そんな言葉が母親の気持ちを癒すとは、到底思えなかった。
しかし、そんな言葉しか、口に出す事が出来なかった。
約三ヶ月前の去年の大晦日、マグニチュード8の地震が関東、近畿地方を襲った。
それは死者、行方不明合わせて5万名以上の大惨事だった。
その時恵子は地下鉄で建物の崩壊に遭遇し、行方不明となった。
しかし5日後、奇跡的に救助されたが、頭を強く打っており、意識不明の重体だった。
そして検査の結果、脳死状態と診断された。 家族は三ヶ月間、僅かな望みを持ち、回復を待ち続けていた。
そして今日、生命維持装置の電源が切られ、彼女は永遠の眠りについた。
「ほんと・・・穏やかな顔してるわ・・・恵子・・・さよなら・・・」
人に訪れる死。
それは事故により突然訪れたり、病気により予告された後、訪れたり、人により2つの形でやって来る。
彼女に訪れたのは病院で3ヵ月眠っていたものの、意識は無くほぼ突然の死だったと言える。
彼女にとってはそれで良かったのだろうか。
心の準備と、少しでもやりたい事ができる時間があったほうが幸せだっただろうか。
母親はふとそんな考えが浮かんた。
そしてすぐ、娘の性格なら後者だと言うことを悟ると、悲しみがこみ上げ、涙が止まらなくなった。
そんな母の心とは裏腹に、恵子の安らかに眠るその表情は、今日は、特に和やかに周囲に映った。
そして気持ち微笑んでいるようにも見えていた。
ふと病室から外を見ると、夜空に一筋の光が空に向かって伸びていた。
まるで恵子の魂か、天に上るように母親の目には映っていた。
―1週間前 2020年3月10日 ジャカルタ極秘国連TV会議―
「今回皆さんに集まっていただいたのは、極秘で入手した重大な情報の提供のためです、まさに、今そこにある危機として慎重に理解していただきたい」
議会の発起人であり、情報の発信元はアメリカ、ペンタゴンだった。
CIAが自らの情報を発表するということ自体、あまり例のない事だった。
しかし今、それほどまでに緊急で重大な出来事が起こっているという証しでもあった。
モニターに映ったカーターCIA長官は、コップの水を飲み干すと、真剣な面持ちで話を続けた。
「朝鮮北と韓国が戦争を始めたのは2013年の事でした。
朝鮮北 に対し、アメリカ、韓国が同盟を組み戦い、わずか半年程で北は韓国に吸収され、韓朝鮮民国という国を作った。
北の脅威が無くなり、世界的にも平和になったと思われたが、現実には韓国が朝鮮北と一体になり、巨大な脅威を持った国が誕生してしまったにすぎません。
元々、北と韓国は同じ国の者同士、考えれば、今まで争っていたのが不思議でした。
やがて韓朝鮮民国は地続きの中国、イラク等中東各国と同盟を組み、現在の勢力は各々近隣諸国を味方につけ拡大の一途をたどっています。
そして今回新たに分かった問題の情報があります。
この件に関しては調査国であるjapanに伝えてもらいます。ではミスターアサト」
カーターはモニター画面から指令を出した。
「日本安全保証委員会のアサトです。早速お伝え致します」
そう言うと、素早くコップの水を一口飲み、話を続けた。
「実は朝鮮北は2000年以降、韓国に多くの仲間を潜伏させ、韓国を吸収させる計画を長い年月をかけて成し遂げた事がわかりました。
そしてそれは、世界に向けた戦争を仕掛ける為の最初の一歩にすぎませんでした。
北と韓国は2000年以降、キムジョ・ルイが体調を気にし始めた頃、極秘利に韓国にスパイを送り込み、軍事面を中心に韓国側での仲間を増やしていきました。
そして体制が整った2013年に、北は韓国に戦争を仕掛け、その混乱に紛れて、韓国の主要な人物を消して行きました。
北はアメリカ、韓国に敗れたものの、その時事実上は韓国は朝鮮北の傘下になっていたのです。その時すでに軍事技術面では、世界でトップクラスになっていた。
何故なら、
韓国でアメリカからの最新鋭技術を手にいれ、北では核開発や軍事秘密兵器開発など、韓国で出来ない事をしていたからです」
各国首脳の困惑した表情が映るモニターは、同時にどよめきが漏れていた。
「そして、2019年末、朝鮮北による実験が行われた。
日本を襲った巨大地震は、朝鮮北が開発した兵器によって海底のプレートを破壊し、発生させたものだった。
あれは実験だったというのです。
日本の大都市を直撃する南海トラフのプレート、今回それを海底用に改良した核兵器を使い破壊した。
そして次に予想されるのは、一気に日本、いや世界を攻撃する計画です」
それを聞くと各国の様子が慌ただしくなった。戦争を想定した事態に対応すべく、部下に耳打ちで指令を出す国もあった。
ー官邸 日本安全保証会議ー
「日本が地震によってダメージを受けている今、朝鮮、中国からの攻撃は、まさに今日起きてもおかしくない状況です」
「なんということだ...」
林国防庁長官は、突然、吐き気を伴うほど体から血の気がひくのを覚えた。
「アメリカではイラク戦争を始める陰謀を企てたブッシュが大統領に再選し、中国は急激な経済成長と共に、軍事力を増強し、反日感情はピークに達している。
そして統一により勢力、武力共に巨大化した韓朝鮮民国・・・この先、日本、いや、地球はどうなってしまうんだ・・・」
林は、火を消したばかりの指先を再びシュガーケースに運んだ。今はこれを吸って気を静めるしか、為す術はなかった・・・。
2013年、自民党が再び日本の政権を押し進めて行く中、経済は長い低迷から回復していった。
それと同時に隣国の脅威を背景に、核に対する日本の確たる反対意識も崩壊した。
第二次世界大戦により世界で唯一の原爆投下国であり、核保有に一番反対する立場にあるべき日本が、この年初めてジュネーブ会議で核保有反対の意見を否定した。
そして東日本大震災により大きな原発事故を経験したにも関わらず、原発を再可動させ、外国に原発の技術を積極的に売り出していった。
教訓は、わずか一世紀ももたず、日本人は同じ過ちを繰り返そうとしていた。
そしてこの過ちは、その日以降、幸いにも、二度と繰り返される事はなかった。
それは何故なら、日本と言う国が無くなってしまったに等しいからだった。
2020年3月16日 立川
それは突然の出来事だった。
深夜、立川駅のホームで帰りの電車を待っていた時、少し大きな地響きと共に辺りが揺れた。
地震
いつものようにそれはすぐ収まると思った。 ガタガタガタ しかしその揺れは少しづつ大きくなって行った。
回りの人も、一瞬様子を伺うように固まっていたが、時がたつにつれて大きくなる揺れに、気づいたようにそわそわと安全な場所を探し始めた。
キャー
悲鳴も聞こえ、駅のホームの屋根は大きく揺れ、所どころで落下物が降ってきていた。 大きな揺れは4分程続いた。
揺れが落ち着くと、情報を探そうとした。
これだけの地震だ、今度の震源はどこだ?
震度は?
知りたい情報は沢山あった。
どうすることもできずあたふたする人混みを掻き分け、 ホームの階段を上がり外に出た。
駅前のロータリー脇に人だかりを見つけ、その先にはテレビがあった。
どういうことだろうか、テレビがうつらないという。
新潟辺りに核が落ちたようだ!・・・ほんとかよ。
スマートフォンの画面に映った呟きにそうのっていたが、情報は少ない。
まさか核なんて。
そうでないにしても、地震ならばこの場所は震度5くらいだったのだろうか。
一体どうしたらいい
辺りはちょっとしたパニックになっていたが、皆、次に起こる事を予測しながら、静かに動いていた。
辺りが一瞬ざわついた。
西の空を中心に辺りが一瞬輝いたのだ。
そちらを振り向くと、暗闇に包まれた空が真っ赤に染まっていた。
地震による気象現象せいだと思ったが、次の瞬間、その考えは間違っていると思うしかなかった。
光の輝きが次第に落ち着くと、大きなキノコ雲のような煙の塊が一瞬姿を現したからだ。
「マジかよ・・・」
同じ光景を隣で見ていたサラリーマンが、思わず呟いた。
まるで悪夢のような光景が目の前に現実として起こっている。
そして春一番にしては早すぎる突風が徐々に強く吹き抜けた。
「一体何が起きてるんだ、まるで戦争が始まったようだな・・・」
本当に核戦争がおきたのか?
だとしたら、この悪夢はまだ始まったばかりだと気づいた時、寒気を伴う絶望感が全身を襲った。
何時かこの時が来るかもしれない事は誰もが想像していただろう。
そして私はとりあえず家路を急ぎ、線路沿いの混乱した道を歩いていた。
当然電車など動いていない。
ただ無性に家に帰りたかった。
幸い、都心とは反対の方向に自宅はあった。
「被害が大きいのは都心なのか?新宿辺りのビル街も、かなり酷い状況みたいだ」
途中歩きながら話をする者がいた。
情報が錯綜する。
真相は分からないが、街灯すらろくに電灯していない闇の中で何も正確な情報を得る事はできなかった。
2011年、東日本大震災、そして三ヶ月前の南海トラフ大震災と、日本は大きな地震が立て続けに起こっている。
そんな時、情報を得るためにワンセグ、ラジオは大変役にたった。
ラジオはどうだろうか?私は周りを見回し、ラジオを持っている人を探した。
「ラジオは聞こえますか?」
その老人は横に首を振った。
ラジオも聞こえないとすれば、事は重大だ。
この先どうすればいいのだろうか。
自宅は青梅にあった。
そこまでは5時間程で着くと思われた。
自宅に着くのは朝方だろう。
明日の会社の事が頭をよぎったが、すぐにその心配は無駄だと悟った。
「明日は休みだろう、明日どころか何時まで休みなのか」
だが、一体何処の国が日本に核を落としたのたろうか?
朝鮮だろうか?
またはテロ?
いずれにしろ、なんてことしてくれたんだ。 ただ、核兵器が世界中に存在する以上、遅かれ早かれこうなる事は不思議じゃない。
むしろ、去年の大地震の大津波の方がよっぽど不思議な事だったのかもしれない。
人間は実に愚かな生き物だ。
自分を守る為に自分を危険に曝し、大切な信頼関係をおろそかにしていく。
ただ、人がみな愚かではない。
一部の人間の愚かさが、そうでない人間の意見をかみつぶし、納得させてしまう。
強い意見が悪い意見なのか、良い意見なのかが、世の中を左右してしまうということだろうか。
青梅街道、真っ直ぐな国道を 自宅方向、奥多摩方面にひたすら歩いた。
隣を走る車は物凄い渋滞で走るどころか止まっている。
恐らく自分の方が早く進んでいる。
この先道は山道になり狭くなっていくはずた。
帰る車もあれば、逃げる車もあるのだろうか。
いつ渋滞が解消するのかなど検討もつかない。
真夜中なのに自分のように歩く者の姿も多い。
このまま無事に家に帰っても、何をすることがあるのか。
とりあえず疲れた体を休めた後、みな一体何をするのだろうか?
それは、自分にも当てはまることだった。
色々なことを考えると、情報の重要性がじわしわと身に染みてきた。
「何か知っている情報はありませんか?」
通りを歩くサラリーマンに聞いてみた。
「私もほとんど情報がなくて、核爆弾が投下されたのは横浜じゃないかと・・・」
「横浜ですか?都心ではないのですか?」
「都心から逃れてきた人が言ってましたよ、方角的には横浜辺りだろうと・・・東京にも落ちる可能性は高いですから、逃げてきたと言ってました」
「そして、噂によると、攻撃は中国から行われたって・・・」
「中国?」
「そう、爆発前のテレビ放送でそう言っていたらしいですよ」
そうか、爆弾の投下前になにか情報を放送していたのか。
「それはニュースですか?」
「ええ、ただ、見た人も放送事故だと思ったらしいです、 ドラマを見ていたら急に臨時ニュースが流れて、核爆弾が日本に発射されたと繰り返し放送されたそうです。
その後突然画面が切り替わり今の放送は間違いだったと訂正のニュースが流れたって」
「訂正のニュース?」
「ええ、一度核攻撃があると放送した後、間違いだと訂正があったそうですよ」
「そうですか・・・」
「私も人伝いに聞いた話なのではっきりしたことは・・・」
核が投下される前に情報はあったが、放送局でも報道するかしないか混乱していたのだろうか。
ただ、国はある程度情報を把握していたが、パニックを恐れて公表はしなかったに違いない。
そんなハッキリしない情報のなかで、なおさらテレビによる放送はしにくいだろう。
「これから帰宅されるのですか?」
「ええ、青梅駅まで帰ります、貴方は?」
「私は河辺なんですよ・・・」
そう話した瞬間、北の空が眩しいくらいに輝いた。
END
つたない文章
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