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愚者と勇者  作者: リキア
8/11

愚者とキメラ

騎士。

勇者や一部の冒険者などの個人的に絶大な力を持つ者の出現のせいか、その地位自体は高いもののたいして強くないと多くの人々に認識されている。

しかし、実際は弱い訳ではない。

むしろ強い。

騎士は大きく二種類に分類することができる。

一つは貴族出身。

もう一つは平民出身。

貴族出身の者は大抵幼少時代からの英才教育を受けている。

平民出身の者はあまりにも厳しすぎる試験を通過している。

騎士自体の強さは最低でもギルドの階級で表すと陀はある。


世間の認識ではその程度の強さしかないのかと思われている。

しかし、実際の魔物を人々が想像する以上の強さを持っている。階級拾であるゴブリンですら平均的な一般男性がギリギリで倒せるぐらいである。

階級が陀ともなれば平均的な一般男性が何十人集まったところで倒せるか疑問を抱くほどの強さを持つ。


近年、勇者や冒険者達の目覚ましい活躍により、魔物に対する認識が恐れる対象ではなくなってきた。それと同時に騎士の実力も軽視されてしまう風潮がある。


あくまで勇者や一部の冒険者は個人的に飛び抜けた力を持っているだけで、個人で強い敵や複数の敵を倒すことが出来る。


しかし、騎士達は個人的な強さをあまり持っていない。騎士達は集団戦でこそ、その実力を発揮する。


勇者や一部の冒険者みたく個人で敵と戦うにはあまり向かない。


訓練された動き、組み立てられた戦略、様々な魔物の対処。

何より研磨された連携。


これらを持つ騎士達は自分より実力が上の者にも打ち勝つことが出来る。


そう、騎士達は強いのだ。



「ねぇ、遊ぼうよ。」

奇妙な子供だ。

顔に張り付いた表情は少し希薄だ。その顔つきは中性的で男とも女とも取れる。膝下まで覆う一枚着。やや大き目な丸い碧眼。そして、何より際立つのがその耳までかかる白色の髪の毛だ。

「ん、駄目だぞ。坊主今は警戒態勢だ。家に戻りな。」

都市の中心部を巡回していた一人の壮年辺りの騎士が子供に対応する。

身に纏うのは使い古して、鈍い金属光沢を放つ簡素な造りをした全身を覆う鎧。


「遊んでくれないの?」

子供が首を傾げる。



「人の話来ているのか?危ないから家に帰れって言ってんだ。」

鬱陶しそうに手をシッシッと子供にあっちに行けと言わんばかりに動かす。


「たっく!!今日は何なんだよ。いきなり気持ちの悪ぃ化け物が出るは、意味の分からねえ馬鹿ガキの相手するわ。」

騎士は口に溜まった淡を道端に吐き捨てる。本来騎士としてあるまじき愚行だが今は警戒態勢となっているので道端に一般人の姿は無い。



「じゃあ、死んじゃえ。」



「あ、何言ってん・・・」

騎士は目をこれでもないかと言うぐらいに大きく見開く。騎士の腹から子供の右腕が腹から突き出していた。その手は子供の手と言うにはあまりにもかくばっている。鋭角に伸びた重厚な爪。その手は騎士の血で染まっているがよくよく見てみると六角状の模様が見える。



「がっ・・・あ?」

騎士が口から吐血する。後ろを向くと瞳を細くし、口の端を吊り上げて薄い三日月に変形させてニタニタと不気味に笑う子供。


「ぐ?ぐがあぁぁぁぁぁぁ!!!」

グチャと生々しい音を立ててゆっくりと腕が引き抜かれる。

足から力が抜けたのかドスッと尻餅をつく。腹から赤黒い液体が勢いよく流れる。両手で必死に止めようとするがその流れが止まることはない。



「・・・ねぇ、遊ぼうよ?」


騎士は首を上下に何度も振る。腹からは依然として血が流れている。今すぐ治療しなければ助からないほどの傷だ。しかし、騎士にそんなことを考える余裕はない。表情は恐怖一色に染まっている。



「わ・・わか・・た。な・・にを?」

息も絶え絶えに返事をする。



「・・・球遊びがいい。」



「球・・あそ・・び?た・・ま・・なんか・・どこ・にも?」



「・・ふふ。おじさんの頭どこまでとうくに飛ぶかな?」

子供は無邪気に頬を少し緩ませる。この子供の表情だけ見れば誰もが別の場面を想像するだろう。



「・・・ひっ!?」


子供は怯えきっている騎士を気にかけることも無い。尻餅を吐いている騎士の頭めがけて右足を後ろに振りかぶり力を溜める。



ゴキャッ


騎士の頭は簡単に胴体と分離してしまった。頭は地面に激突すると不規則に跳ね上がる。右に跳ねたり、左に跳ねたりしてまっすぐ進むことはなくあまり遠くへ行くことはなかった。

勢いを失った頭は無残にも地面に苦悶の表情を張り付けて転がっている。


首から火山が噴火するかの如く血が噴き出る。吹き出した血が雨のように降り注ぐが子供は特に気にする様子を見せない。


「・・・むう。あんまりとうくにいかなかった・・。」

子供が不満なのか少し頬を膨らませる。




「総員構えろーーー!!!」

のどぶとい声が都市の中心部に響き渡る。

10人ほどの騎士が構えている。

騎士達の顔には動揺が走っている。当たり前だ。年端もいかない子供が全身を真っ赤に染めてニタニタと笑みを浮かべているのだ。不気味以外の何物でもない。




「ええい!!!怯むな!!」

この部隊の隊長だろうか。すっかり怯えきった騎士達を叱咤する。しかし、騎士達の表情に変化はあまりない。


「目の前にいるのは年端もいかぬ子供ではない!!我々の平和を脅かす化け物だ!!!」

隊長は何とか騎士達に戦闘意識を持たせようとするが無理だった。目の前いるのは子供なのだ。戦闘意識が削がれてしまうのも無理はない。



子供が騎士達の方へ歩き始める。



「・・もっと、遊ぼうよ・・。」







「中心部にキメラが発生した?どういうことだよ!?」

俺は驚きを隠せなかった。


落ち着いた雰囲気をだすグランの顔にも驚愕の色が走る。

可笑しくはない。むしろ、普通の反応だ。キメラは極秘事項。そんな存在がいきなり日中に都市の中心部にいるのだ。


数回深呼吸をして自分を落ち着かせるグラン。

「して、状況は?」


「はい。現在都市全体に警戒態勢が引かれており、人は家や宿に避難させてあります。キメラに騎士達が対応している模様で特に問題はなさそうです。」

アイナが淡々と答える。



「それで目撃者の方は?」

キメラの方は差して問題ない。強さ自体も大したことはない。騎士達が対応しているのならすぐ片付くだろう。問題なのはむしろ目撃者の方だ。いくらキメラのことが知られないように箝口令をしいて情報の流出を抑えたところでたかが知れているだろう。



「それが・・・。いきなり出現したらしいので多数の目撃者が・・・。」

アイナが渋るように言う。


グランが困ったように額を抑える。極秘事項の情報が流出してしまった可能性があるのだ。額を押さえたくもなるだろう。



――キメラか・・・。

キメラのことよりも先程逸れてしまったレンのことの方が気になる。キメラに襲われてないか不安になる。探しに行った方がいいかもしれない。



「どこへいくつもりじゃカイ君?キメラの方は騎士達に任せておけば問題ないだろう。」

グランに引き止められる。あまり今外に出るのは好ましくないからだろう。

騎士達はあまり冒険者を快く思っていない。そのため今外に出ると何かしらのいちゃもんをつけられて騎士達と衝突する可能性があるからだ。



「いや、連れとさっき逸れちまったんだ。少し不安なんでちょっと探してくる。」

俺はそういってギルドの扉に向かう。



バタンッ


いきなり扉が勢いよく開かれた。扉の先には体格がしっかりとしていて所々出っ歯っている厳めしい鎧で全身を包む騎士が立っていた。

扉が開いたと思うと次の瞬間騎士が床に勢いよく倒れ込んだ。よく見てみると致命傷こそないにしろ鎧の隙間から血が滲み出ている。鎧自体も所々破損している。

文字通り満身創痍。



「おい!!あんた大丈夫か!?」

俺は急いで騎士に駆け寄って声をかける。

騎士を起き上がらせてそこら辺の壁にもたれかからせて楽な状態にする。


「た、助けてくれ・・・。あ、あいつは化け物だ。お、俺達はや、奴にな、成す術もなく・・・うああああああああああああああああああ!!!!!!」

騎士は両手で頭を押さえてガタガタ震えていたと思うと、いきなり絶叫する。



「落ち着けよ!!!奴てのは誰だ?そいつは何処にいる?」

俺は騎士の肩を掴む。



「や、奴はと、都市のち、中心部にいる。で、でも、や、奴がなんなのかはおでにも分からない。」

顔が涙や鼻水で汚れながらもなんとか伝えようとする。



俺は騎士から聞くことだけ聞くと急いで都市の中心部に向かうことにした。








都市の中心部に着くともはや事後だった。


地面は血に染まって見るに堪えない。

騎士達は全滅だった。生き残りもいない。

頭や体の四肢などがいくつも無残に転がっている。




一人の影が目に入る。なんだこんな時に。


「おやおや。君は奴が気にかけていた・・・・。」

奇妙な奴だった。

40代後半辺りだろうか。眼鏡をかけているのだがその眼鏡の透鏡の光加減が妙で不気味さを感じさせる。所々ほつれている白衣を纏っているいかにも研究者って感じの壮年の男性が立っていた。



「誰だよ?・・・それに奴って・・・。」



「僕に構っていていいのかね?」



「どういうことだよ・・「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」


喉太い獣声が響く。


「な、なんだ!?」


俺は急いで音源に足を向ける。

嫌な予感しかしない。急がないと。






「さて君は生き残れるかな・・・。」











☆☆☆☆☆


私はレン。18歳の美少女魔女っ娘!!カイは失礼だから14歳なんか言ってたけど本当だよー。本当に本当だからねー。

商業都市アルカシンに到着した私とカイ。

と、思ったらすぐカイは私の目の前から消えちゃった。この歳で迷子とか後でカイのことをからかってあげよー。

まぁ、わざとカイの所から離れたんだけどねー。

あれよ。年頃の女の子には色々と秘密が付き纏うものなのよ。お、私なんだかかっこいいー。

色々と用を済ましたら、お腹がすいたと思って取り敢えず都市の中心部に向かったの。

でも、歩いても人の気配が何一つない。

これは可笑しいなーと思って辺りを見回していると一人の子供が見えた。

とりあえず、その子供の方へ行ってみる。

近づいてその子供を見ると思わず声を上げそうになったけど、なんとか抑えた。

その子供は体中血塗れだった。


よく分からない状態に頭が困惑する。取り敢えず私は声をかけることにした。



「えっと、そんな格好でどうしたのー?」



「・・?おねいさん誰・・・?」

その子は首を傾げる。少し変わった子に見える。まだ幼さが見えるあどけない顔に、きれいな碧眼。そして何より印象強いのはその白髪だ。見た感じ11,2歳かなー?



「おねーさんはレンっていうのー。レンって呼んでねー。」



「・・・分かった。れ、レン?」



「そう、そうー。あ。君の名前も教えてよ。」



「・・・私の?」



「うん、そうだよー。」

名前が分からないと色々と不便だしねー。



「・・・あーるごじゅうはちって呼ばれてる。」



「へ?あーる?何それ?そんなの名前じゃないよー。」

しかし、それ以外分からないと言う。

どういうことー?

こんな意味の分からない名前付けるひとこの世どこ探したっていないよー。


「・・・たぶんこれは私の名前じゃないの。呼ばれているだけなの・・・。」


?どいうことー?

意味が分からないよ。そう呼ばれてるのに名前じゃない?頭の中がこんがらがってきた。

あーーもういいや!!


「じゃあ、私君のことアルって呼ぶけどいい?」



「・・・あ、アル?それって私の名前・・・?。」



「うん?そうだよー?」

よく分からないけど頷いちゃえ。



アルは何度も「アル」と繰り返して言っている。



「アルどうしたのー?」



「・・ううん。なんでもないの・・・ふふ。」

嬉しそうに笑みを浮かべるアル。何かいいことでもあったのかなー。




「何こんな所で油を売っているんですか?R-58?」

声のした方を向いてみると40代後半辺りの眼鏡をかけて、白衣を身に着けたいかにも研究者って感じのおじさんが立っていた。



「?アルどうしたの?」

アルがいきなりブルブルと震えだす。

私の服をギュっと掴んでくる。



「R-58こちらへ来なさい。」



「・・・い、いや。」



「おやおや、随分反抗的ですね~。R-58こちらに来なさい!!!」

いきなりおじさんが怒声を上げる。

それに反応してアルの身体がビクッなる。



「・・・はい。」

諦めたように返事をするアル。

なんだかアルをあのおじさんのとこにいかしちゃいけないよう気がする。

引き留めようとアルを抱えようとする。


でも、無理だった。アルを止めようとしたけどアルは無理矢理、前に進んでった。

アルの凄い力に私は驚く。


アルがおじさんの前に立つ。


「先程は少量でしたが今回は多めですよ~。」

そう言って小型の筒状の先端に針がついているものを取り出す。



「な!?」

おじさんはいきなりレンの首に針を突き刺した。


驚く。アル大丈夫なの!?

私は心配になって急いでアルの元に駆けつく。



「・・・逃げてレン・・・。」

ガタガタと震えだすアル。

自分の両腕で自分を抱きしめる。

血管が膨れ上がる。


「・・あが・・ががっ・・あがあっががっがああああああああああああ!!!!!」

白目をむく。

メキメキと人体上鳴ってはいけない音が鳴り始める。

口が出っ張り始める。

犬歯が鋭く尖る。

身体が膨張して服が破れ始める。

下半身が漆黒に染まった毛覆われる。

右腕に紅い六角状の鱗が走る。爪が厚く長く鋭角になる。

左腕が緑濁色に帯び、スッと細く伸びる。先端には円形に近い拳3つ分の大きさの顔がある。赤く細長い舌が伸びる。

頭に雄々しい鬣が生い茂る。

メリメリと音を立てて肩甲骨辺りから白や灰色が混ざった鷲の様な形をした大きな翼が生える。



「ふはははははは!!!やはりそうか!!感情の高揚が鍵だったか!!」



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

けたたましい叫び声を上げるアルだったモノ。



「あ、アルなの?」



目の前にいるのはアルじゃなかった。優に3mを超す体躯をしたキメラだった。



キメラはその巨大な剛腕を私を狙って振り降ろしてくる。



私は動けなかった。どうしたらいいのか分からなかった。

ただの魔物だったらよかったのに。もしそうならいつもみたいに魔法を唱えればよかった。


――でも、あれはアルだよ?私どうしたらいいの?







「あれ?なんともない?」

レンは困惑した顔をする。自分の身体を手でまさぐって自分の安否を確かめる。



「たく・・。何とか間に合ったー。」

俺は安堵の息を吐く。

あ、危なかった。あと少しでも遅れていたらレンは即死していただろう。


目の前にいる巨大なキメラ。

今奴の右腕を刀でなんとか受け止めている。刀がへしゃげてしまうんじゃないかと思うほどの圧力が腕に伝わる。


刀に力を籠めて力づくでキメラの腕を押し返す。

その反動で後方に飛ばされてしまう。うまくバランスを取り着地する。


――なんて力だ。

まともに力勝負したら駄目だ。強い一撃を狙うより幾分か威力が弱くなっても手数を多くした方がいいかもしれない。


見た所このキメラは攻撃が単調で、でかい図体のせいかあまり速さがない。


その巨大な剛腕を振りかざしてくる。


紙一重で躱すが内心ヒヤッとした。こいつ確かに速くはないが巨躯のせいか攻撃範囲がかなり広い。


キメラは空振りの代償として大きな隙ができる。


俺はここぞとばかりにありったけの力を籠めてキメラの懐に飛び込む。

刀を膝より低く構える。腰を思いっきり捻り、その動きに追随するように剣筋が下方から上方へ。



「ダメェーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

レンがいきなり叫び声を上げる。


一瞬体が驚いて硬直する。その一瞬が不味かった。キメラに届いたものの刀撃が浅くなってしまった。

傷口から赤黒い液体が噴射されるが大してきいているようには見えない。



「がっ!??」

刀を振りぬいて出来た隙に強烈な一撃を見舞われる。

吹き飛ばされるが、受け身を取って威力を軽減させる。それでも体の芯を金槌で思いっきり殴られたような衝撃が俺を襲う。

クソが。なんつう威力だ。肋骨が何本か折れたかもしれない。



「カイ!?大丈夫!?」

吹き飛ばされた俺の近くにレンが駆けつける。


「お前なんで邪魔すんだよ!?」


「だって!だってあれはアルなんだよ!!」

レンは今にも泣きそう顔で何かを訴えてくる。



「どういうことだよ!?」

意味がよく分からない。どういうことだ?



レンは必死になって現状の説明をする。


俺は必死にキメラ攻撃を躱しながらもレンの言葉に耳を傾ける。


レンから説明されたことまとめるとみると、


・今戦ってるのはアルっていう子供がキメラに変☆身したらしい。

・変☆身したのはあやしいおっさんに何らかのことをされたことが原因らしい。

・アルをなんとか殺さないでほしい。

・アルをなんとか人間に戻してほしい。


以上のことになる。



えーと。



「無茶いうなあああああああああああああああああああああああ!!!??」

無茶いうなよ!?だいたい何が変☆身だよ!?ふざけてんのか!!


「で、でも!!なんとかしてよ!!」



「無理だっつうの!!」

だいたいキメラについて知識がほとんどないってのにどうしろっつうんだよ!?



「それでもアルを助けたい!!」

俺の目をそのクリクリとして大きく吸い込まれるような深い蒼の瞳でまっすぐ強く見る。視線は微塵も逸れることはない。

その瞳には強い思いが宿っていた。



「あ~~~もう!!やればいいんだろ!やれば!!」

俺はやけくそ気味に後頭部を掻き毟る。



さっきまで泣きそうだったレンの表情が花が咲いたかのように明るくなる。


いや、あんまり期待されても困るんだけど・・・。


――でも、どうする!!?

正直具体案が出てこない。

賭けてみる所があるとすれば怪しいおっさん何かされたということだ。レンの話から推測するに恐らくアルって子は薬物を投与されたんだと思う。

もし、その薬物の効果が一時的ものなら、その効果が切れれば元に戻るかもしれない。


だったら、その効果が切れるまで気絶させて動きを止めておけばいい。

もし、元に戻らなくてもその後考えればいいか。

ここで問題になるのがどうやって気絶させるかだ。



「おいレン。お前雷魔法の中級辺りのって使えないか?」



「う、うん。一応使えるけど・・。でも、すこし時間がかかるよ。それに中級位になると当たりどころが悪かったら死んじゃうかも・・・」



「大丈夫だ!時間なら俺が稼ぐ。それと雷を一点集中させないで分散するように魔法の構成を造れ。」



「で、でも・・」

まだ、不安があるのか渋るレン。



「でももクソもねえ!!お前がやるんだ、助けたいんだろ!!」



「うん!!分かった!!5分いや・・3分時間を稼いで。それまでに何とかしてみせる!!!」

レンの瞳に強い決意の炎がつく。

レンがその場で目を閉じる。


「さてとこっちもやるか。」

そういうと俺を睨み付けキメラと対峙する。








俺の持つ刀いう武器は今回ようなことにあまり向かない。そもそも刀は切ることに特化していて気絶させることには向かない。しかも、この刀・妖刀村正は特に切れ味が高い。

しかたない少し難しいが頑張るか。刀の刃を立てないで峰うちを狙っていくしかない。下手に刃が入ってしまったら致命傷を与えかねない。


キメラとの間に沈黙が生まれる。お互い次にどう出るのか窺がっているのだ。

先に動いたのはキメラのほうだ。



左腕で殴りかかってくる。

何の苦も無く、体を少し捻るだけの最小限の動きだけで躱す。

しかし、キメラも馬鹿ではなかった。キメラの左腕は一頭の巨大な蛇で出来ている。

キメラは蛇を俺の足に巻きつける。


――しまった!?


キメラはしっかりと蛇を足に巻きつけ、俺を滅茶苦茶に振り回す。



「がっ!!」

地面や壁に何度も叩きつけられる。

一瞬息が止まる。


刀を水平に薙ぎ、蛇をスッパリと切断する。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

腕(蛇)を切断された痛みでキメラは雄叫びを上げる。しかし、大して効いていないようだ。断面からはもう血が流れていない。治癒力が高い。


いきなり切断されたのでキメラはバランスを崩し地面に倒れる。



その間に俺は深呼吸をして乱れた呼吸を整える。


――不味い。

頭がフラフラする。視界が少しぼやける。奴の攻撃を喰らい過ぎたか。



こっちはもうボロボロだっていうのに、キメラに疲労はあまり見えない。


倒れていたキメラがゆっくりと起き上がる。

フシューと荒い鼻息を立てる。


意識がぼやける。

恐い。恐怖が心の奥底からジワリと滲み出てくる。恐い?怖い?逃げたい?


『カイが出来るわけない』


頭によぎる『アイツ』の声。

実際『アイツ』が言ったわけじゃない。多分俺が勝手に造った俺の心の中にいる『アイツ』だ。


ふざけるな!!こんなとこでやられているばあいじゃない。心の中に渦巻く負の感情を無理矢理ねじ伏せて、両眼をカッと見開く。


「さあ、まだまだ行こうか。」




「カイ!!」

レンだ。

レンの方に視線を向けるとその顔には自信が満ちているように見える。


俺は二ィと口の端を吊り上げて笑みを浮かべる。



「よっしゃあ!!」

掛け声とともに駆けだす。


ズガッ


キメラの懐に移動し刀を地面に突き刺す。


地面を強く蹴り上げ跳躍し、更にキメラの肩を踏み台にして反対側へ跳躍する。

反対側移動時キメラの肩を強く踏み込んだのでキメラの状態が崩れた。


「今だ!!レンーーーーー。」





☆☆☆☆☆


私はアルを助けたい。

でも、カイに頼りっぱなしだ。情けない。でも、しょうがないじゃない。どうすればいいのか分からないんだもの。

アルの嬉しそうに笑う姿が頭に浮かぶ。

アルの苦しそうに悶えてる姿が頭に浮かぶ。


胸がギュッと締め付けられる。

どうにかいて上げたい。


カイは私にもう道をしめしてくれた。要求ばっかでどうしようもない私に。ただ駄々をこねているだけの私に。


だから、ここだけはしっかりやらなきゃいけないんだ!!



「今だ!!レンーーーーー。」

カイの合図だ。


さっきまで溜めていた魔力を一気に解放する。


さあ、助けようアルを。


『我が求めるのは雷。深き天と、深き地の狭間に置いて。罪深き愚かなものよ悔い改めよ。ならば汝に与えよう。神より降り注ぐ数多の雷。』

『テンペスト・ボルト』









レンが放った雷は俺の目論見どうりキメラに寸分の狂いも無く直撃する。

俺の刀は一応金属で出来ている。つまり避雷針の代わりとなる。


バチッバチッと帯電が目がくらむほどの起こる。


バタンッ


キメラが口から黒い煙を出して仰向けになって倒れる。


俺は自分の目を疑った。さっきまでキメラだったものが物凄い勢い萎みだしたのだ。萎みきった後には小さな子供がいた。衣服は何も身に着けていない。体中に煤がこびり付いて汚れている。

でも、確かな音を立てて呼吸をしている。生きている。助けられたのだ。


レンは子供に近づきギュッ強く抱きしめる。


「うわぁぁん~~」

レンが安堵したのかグスグス泣き始める。

そんなレンを気にもかけずに子供はレンの胸の中気持ちよさそうにぐっすりとねむるのだった。






ビクッ

なんだ!?この悪寒。何か最悪なことが起ころうとしている。よく耳を傾けてみると大気が揺れている。鳥達がざわめいている。微かに地響きも起きている。なんだ!?


――じょ、冗談だよな?

心当たりがある。この感じ。頼む俺の思い違いであってくれ。

俺は急いで双眼鏡を取り出して遠くを見る。


いやな予感ほどよく当たるものだ。

双眼鏡で見た先には都市一つを滅ぼしかねない威力を持つ戦略級の魔法陣が浮かび上がっていた。


「レェェェェェェェン!!!!!今すぐ東の方向に防護魔術を発動しろぉ!!!」


「い、いきなり何!?」

いきなり怒鳴られてレンがビクッとなる。しかし、そんなこと気にしている暇はない。


「今できる最大のものだ!!!」

レンは訳が分からないような表情をして、渋々魔術を唱える。



――ギリギリ間に合うか?


しかし、時はきてしまった。


「ぐっ!!」

「きゃあ!!?」



いきなり視界が真っ赤に埋め尽くされた。






「けほっけほっ」


「だ、大丈夫かレン?」

俺は息も絶え絶えにレンの安否を確認する。


「あ、カイ。私は大丈夫。アルも。でも何が起こったのかさっぱり分からないよ。」



いきなり困惑するのも当たり前だろう。おれだって困惑している。


運が良かった。助かったことが奇跡にしか思えない。奇跡以外の何物でもない。

危なかった。咄嗟に『アレ』を使わなかったと思うとゾッとする。背中に流る冷汗が止まらない。



辺りを見回してもなにもない。比喩でも皮肉でもなく文字通り何もないのだ。



今分かることは商業都市アルカシンが地図上から姿を消したことだけだった。


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