愚者の遭遇
今回は変な登場人物がいるのでよんでいる読者の方々が混乱してしまわないか心配です。
滅んだ村を出て1週間。ようやく俺達は商業都市アルカシンについた。商業都市アルカシンはその名の通り商業が盛んで、この都市にいれば武器であれ、防具であれ、日用雑貨、食糧、その他大抵のものはそろう。
中には魔神具まであるらしい。ま、大抵は偽物のガラクタらしいが。
「ん?どうした!?」
レンが項垂れてる。こいつの性格を考えると少し首を傾げてしまう。都市についたらはしゃいで走り回るだろう。しかし、いつもニコニコとした笑みを張り付けているその顔には疲労が見えゲンナリしている。
「あ、あなたね・・・。私だっていつだって元気なわけではないんですよー。だいたい元気でいる方がおかしいんですよー。」
それもそうかと俺は頷く。
この都市につくまで間、魔物に遭遇したり、道に迷ったり、悪天候にあったりと散々だった。俺も顔に出しはしないが疲労が溜まっている。
「今日は1日宿で休まないか・・・?」レンに提案してみる。というか反対されてもおしきる。
「・・・さんせー。」
よほど疲れていたのか足取りがおぼつかず今にも倒れそうなほどフラフラしている。
その後、俺とレンは安めの宿をとり、まだ日はでていたが早めに休み溜まっていた疲れをおとすことにした。
余談にはなるが、俺とレンの部屋は一緒だ。別にやましい意味は無い。その方が万年金欠の俺の財布にはいいということだ。もっとも、俺もレンも特にお互いの部屋が一緒だからといって気にかけるような仲ではない。2,3週間も一緒に旅をしていればそこら辺の羞恥心は無いに等しい。
腰を深く落とす。10本の指で刀を握る。力は籠めない。卵を割れないように持つ感覚と似ている。力を籠めるのは標的を斬る瞬間のみだ。よけいな力はいらない。
心が静かになる。それは水面に映る波紋すら許さぬ静寂。
刀を高く振り上げる。
地球に吸い寄せられる力、重力に逆らわず、むしろ重力を利用する形で刀を振り降ろす。ほとんど無駄が見られない剣筋。
振り上げ、振り降ろす。振り上げ、振り降ろす。振り上げ、振り降ろす。振り上げ、振り降ろす。振り上げ、振り降ろす。振り上げ、振り降ろす。振り上げ、振り降ろす。
反復。
気が滅入るほど反復する。
何百、何千、何万と。
ザッ
足音。誰か来たのだろうか?素振りを一旦止め、音源に顔を向ける。
「なんだレンか。珍しいなこんな朝は早くに起きるなんて。」
レンはまだ起きて間もないのか、瞼を眠そうに擦っている。その太陽のごとき眩い金色髪はボサボサで天に向いている。
「何やってるのー?」少し間の抜けた声。寝起きだからだろう。
「見りゃ分かるだろ鍛錬だよ。鍛錬。」
実は俺は毎日、日の出とともに起きて鍛錬を行っている。習慣みたいなものだ。
そういえばレンが俺のこの行為を見るのは初めてだ。
レンも起きてきたことなので、俺は鍛錬を止め朝食をとることにした。
「へーー。毎朝あんなことやってたんだー。」レンが朝食のパンを口に咥えながら感嘆する。
俺はまあな、とあいずちを打ちながら湯気が漂う野菜スープを口に運ぶ。
お、うまい。
野菜がふんだんに使われ、塩で味付けされたスープが舌にジワーと染み込んでくる。この都市につくまでの2、3週間まともなものを食べれていなかったのでよけいに美味しく感じる。
「なんでそんなことやるの?」
首を傾げるレン。
「強くなりたいからだよ。まぁ、今となっちゃ習慣みたいなものでもあるけど。」
始めた頃は本当にきつかった。何度寝過ごしてしまおうと思ったことか・・・。
そのたびに師匠に叩き起こされて、そんなこと出来なかったが。
「でも、カイ充分強いですよー?」
少し前なら嬉しかったかもしれない。でも今は皮肉にしか聞こえない。
「俺なんか雑魚だよ。世の中には在り得ないと思うほど強い奴がゴロゴロいるからな。」
そう世の中には才に溢れ、理不尽と思えるぐらい強い奴らが吐いて捨てるほどいる。そんな奴と比べれば自分なんて蟻ぐらいに矮小な存在と言っても過言ではない。
才が有る訳でもない。希少な力を持っている訳でもない。特別な存在でもない。
凡庸。笑えるくらいに普遍的な存在だ。
そんな俺に残されいるのはひたすら自分を鍛えることぐらいだ。それしか俺には残されていない。
だから俺は自分を鍛える。
例え手が届かないとしてもだ。
朝食を終えた俺達は路銀が尽きそうなので取り敢えずギルドで依頼を受けることにした。
そして、今俺とレンはギルドの向かっている。
-が。
レンがいつの間にかいない。辺りを見回してみても道を往来する人が多すぎてレンがどこえいったのか見当もつかない。
勝手にどこか行ったのだろう。まるで猫みたいな奴だ。
まぁ、宿で落ち合えばいいか・・・。
「やあやあそこのお兄さん。」軽快な口調
「ん~ん?無視はいかんぞ。無視は。」厳かな渋みのある口調。
「ううう・・・。僕のことなんてがんちゅうにないんですね。・・・ううう。」弱弱しく、泣き虫を連想させる口調。
「えっと・・・。もしかして俺のことよんでる?」
声のする方向に振り向く。
「ひゃはははは!!!おめえ以外に誰がいるってんだ!?この地味顔がぁ--!!」
地味な顔で悪かったな。
一応誤解が無いように言っておく。今俺に話しかけているのは一人だけだ。
俺自身も疑問に思った。
一人が口調や声音を変えて話しかけてきているのだ。
見た目二十代後半の男性と言ったところだ。服装は白を基調とした黒いラインが2本十字架を形どるように走っている祭服を身に纏っている。首には十字架ではなく鈍く銀色の金属光沢を放つ髑髏のアクセサリー。
目にかかるか、かからないぐらいまで伸びた少し癖がある黒が強めの鼠色の髪の毛。
時折見える思わず底冷えしてしまうほど鋭く光る眼光。
あまりに違和感がある組み合わせなのか、少し不気味だ。
だが、一番不気味なのは表情だ。特徴が掴めない。どんどん変わっていく表情や口調。
――何なんだ、こいつ?
「いやいや、そんな睨み付けないでおくれよ。ただ僕は君に聞きたいことがあっただけだよ。」落ち着いた雰囲気を醸しだす口調。
「聞きたいこと?なんだよそれ?」俺は首を傾げる。
「そんなに急かすんじゃねえよ。」荒々しい口調。
急かすなと言われても無理がある。はっきり言って関わりたくない。要件だけすましてさっさとこの場所を離れたい。
「いやね君はこの世界についてどう思う?」無機質を思わせる口調。さっきまでとは打って変わって顔に表情というものは少しも残っていない。
「?いきなりそんなこといわれたって・・・。」
困惑する。何なんだ?質問の意図が読めない。唐突すぎる。
「そんな難しいことでもない。君がこれまで生きていた世界、周りの環境についてどう思うかだ。」口調に変化がない。
――本当に何なんだ?
だいたいこの世界のことをどうこう聞かれても答えれるわけがない。疑問にしたことすらない。
だって、それは「なんで人は生きているの?」みたいな漠然としすぎていること聞かれているようなものだ。
その旨を伝えてみる。
「アハハハハハハ!!!君は何にも分かってないみたいだねぇ。滑稽すぎて笑えるよ。アハハハハハハ!!!」
いきなり笑い出す。しかし、表情は依然として無い。表情が何も伴うことのない笑い。
馬鹿にされている気がしないでもないが今はそんなことどうでもいい。
ドン引きだ。
不気味すぎる。
いや、もう不気味を通り越して恐怖すら感じる。子供がみたらもしかしたらトラウマになってしまうかもしれない。
というか今俺達がいる所が道端なわけで当然子供とかもいるわけで・・・。
何人かの子供が泣き出している。トラウマ確定だな・・・。
「まぁ、いいや。僕の勘違いだったようだ。悪かったね時間を取らして。」
やっとこいつから解放されると思い内心ホッと息を吐く。
「君が気づいた時にまた会えたらうれしいね・・・。」
――いや、こっちはあんたみたいな不気味で得体の知れない奴には二度と会いたくないよ・・・。
奴はじゃあねと言うと人ごみに紛れ俺の視界から消えていった。
不気味な男から分かれて30分ほど歩くと目的地であるギルドに到着した。
「何か御用ですか?」
ギルドの建物の中に入ると受付嬢みたいな人が声を掛けてきた。
だいたい150センチ後半の身長。
澄んだ黄色の瞳。セミロングのダークブラウンの髪は光沢に溢れている。
見た目20代前半ぐらいの女性でおっとりとした雰囲気を醸しだしている。
「依頼を受けにきた。」
俺は受付嬢にギルドカードを渡す。
ギルドカードとは持ち主の名前、ギルドでのランクや実績などの情報が記されている。記されているといってもギルドカードに直接書き込まれているわけではない。ギルドカードには1センチほどの小さな魔石がついていて、それに魔力を通すとそれらの情報が見られるらしい。
「カイ・テトライトさんですね。階級は参ですね。」
ちなみにこの前レッサードラゴンを撃退した時に階級がひとつ上がった。
「私はギルドアルカシン支部の受付を担当しているアイナ・メリスと申します。気軽にアイナと呼んでください。」
「分かった。よろしくアイナさん。」
要点を手短に説明する。俺は今旅用の資金の調達に来ている訳である。護衛とか人探しとか、それなりの知識が必要だったり、時間がかかるものは出来るだけ避けたいな。魔物の討伐辺りの方がいいかもしれない。慣れてるしな。
「ギルドマスターに会えないか?」
「いきなりというのはさすがに・・・。キチンと面会手続きをしていただかないと無理ですね。」
確かにいきなりギルドの責任者に会うのは無理か。
「じゃあ、一言だけ伝えることはできないか?」
「はぁ、その程度でした出来ますけど・・・。」
俺の意図が読めず困惑したような表情を作る。
よし。
「じゃあ、キメラと一言伝えてきてくれ。」
その一言伝えれば大丈夫だ。
数分後思惑通りギルドマスターとの面会が許可された。
アイナさんに案内され小奇麗な客室に案内された。
中に入ると2つの背凭れ付きの長椅子が対面する形で設置されており、その間には長方形の机が置かれている。
長椅子の片方に老人が一人座っている。
五十代後半だろうか。歳を経てすっかりと白に染まってしまった髪の毛は後ろに掻き上げられている。
顔にある深い皺は欠点にならず、大人の渋みを醸し出している。
「おぉ、よくおいでになった。わしはここのギルドマスターを務めさしてもらってるグラン・ガルムと申す。」
「カイ・テトライトだ。」
「で、どこで知った?あれは機密事項のはずだ。」
グランは単刀直入に質問をしてきた。キメラについてだろう。
「師匠からだ。」
師匠に弟子入りしてから一緒に旅をしてきていたわけだが、その旅の途中で普通に生活しているだけでは知り得ることのない様々な知識を教えてくれた。キメラもその内の一つだ。
「して師匠とは誰だ?」グランは目線を向けてくる。その目には少しの疑心が見られる。
あまり師匠の名前を出したくない。師匠であるリーンに迷惑を掛けたくないこともあるが、リーンの弟子というこであまり注目を集めたくない。あの師匠かなり有名なんだよな。
それに色々とトラウマが蘇ってくるからな。
しかし、ここでは逆に信用性を高めるために敢えて名前を言う方がいいだろう。
「リーン・フリードだ。」
グランの目が大きく見開かれる。しかし、その口から出た言葉は以外なものだった。
「おぉ、あのお転婆娘か!!」
「お、おてんば?」
え?なにそれ?
「いやまさかアヤツが弟子なんぞをとっているとは・・・。世も末じゃな。」
グランは髭に手をあてて遠い目をしている。
「そ、それはどういうだ?」
いや、あの師匠のお転婆とか想像できない。いや、したくない。
「10年以上前のことなのだが、お主この都市が夜になると門が閉じて入れなくなるのはしっておるな?」
知っている。この都市に入った時に教えられた。
そもそも、だいたいの都市では夜間の魔物や盗賊などの襲撃に備えて中に入れないようにしている。この都市もその例外に漏れることはない。
「それをあの小娘朝まで待たず門をぶち壊して中に入りおった。当然騎士や冒険者達が奴を都市に入れないように抗戦するわけだが、それらを一人でのしおっての。」
あれは大変だったと深い皺をつくりニッコリと笑う。
――いや師匠、アンタ何やってんだよ!?
あまりの突拍子の無い話にどうようが隠せなかった。冷汗がタラタラと垂れる。
他にも色々耳を疑うようなことを聞かされた。
意味不明な建築物を造り空を飛んだり、先代勇者をぶん殴ったり、悪名高い盗賊団の砦に単体で突撃して制圧してくるとか。
もはや人間じゃないよ。改めて我が師匠の人外度を認識する俺だった。
閑話休題
「いかんいかん。年寄りは話が長くなってしまうのう。」
グランは自嘲気味に後頭部をかく。
「本題に戻すとするかのう。キメラがどうしたのじゃ?」
「この前キメラに遭遇した。それも人間を組み込んだな。」
「なっ!?」
驚くのも無理はないだろう。キメラは昔帝都で一人の研究者が研究していてもので、
今ではその研究自体が凍結されている。
当たり前だった。生物と生物を組み合わせて新たな生命を生み出すなどという神をも恐れぬ所業が許されるわけではない。しかし、当時は魔王軍との戦況は芳しくなく、戦力になる可能性があるということで、この研究は禁じられることなく進められていた。そうして進められたこの研究は様々な問題は残るが一応形にはなった。
しかし、そのあとが問題だった。
誰も気づいていなかったのだ。キメラを発案した研究者がどうしようもないぐらいに狂っていたことに。
研究者は人間にまで手を出してしまったのだ。
流石に目を瞑っていた帝都もこれには黙っているはずがない。
当然研究は永遠凍結を命じられ、研究者は死刑にされた。
「そうか。まさかそこまでことが進んでいるとはのう・・・。」
グランの口調は何か知っているかの様だった。
俺はグランにキメラと遭遇した時のことを詳しく話した。
「キメラについて何か心当たりがあるように見えるが何か知ってるなら教えてくれ!!」
こんなこと放っておくことなんかできない。そんなことしたくない!
「むぅ、しかしだな・・・・。」
渋るグラン。
「ま、マスター大変です!!!」
いきなりアイナが客室に入ってきた。肩で息をしている。途切れ途切れに聞こえる荒い息。よほど急いで来たのだろう。
「なにがあったんじゃ?まずは落ち着け・・・。」
グランはアイナを宥める。
落ち着いたのかその小さな唇で必死に言葉を紡ぐ。
「き、き、キメラが出現しました!?」
すいませんでしたーーー
かなり更新遅れました。
いや、新キャラの性格決めるのにかなり悩んだんですよー




