愚者が進む
硬い決意は鋭い剣となり、時にあらゆるものを貫き通し、時に決して折ることの出来ぬ剣となる。
「なに?」リーンは眉をひそめる。
「俺をアンタの弟子にしてくれ!」俺はリーンの目をまっすぐ見る。目は絶対に逸らさない。もう俺は逃げない。
リーンは額に手を当てて溜め息吐く。
「駄目だ。」
「なんで!?」
「当たり前だ。あまりに唐突すぎる。それに私とお前はあって間も無いんだぞ?そんな
私に何故そんなこと頼める?」当たり前の疑問だった。俺とリーンはほぼ赤の他人と言っても遜色ない関係だ。いきなり、弟子にしてくれといっても首を縦に振ることは出来ないだろう。
「色々考えて決めたんだ。頼む。」俺はリーンに頭を深く下げる。
「・・・・駄目だ。そろそろ朝飯の時間だ。先に行ってる。」
一瞬、逡巡するような素振りを見せるが、断られてしまった。リーンは全く諦めようとしない俺から逃げるように去って行った。
「にゃろう。そんな簡単にはいかないか。」
●リーン
私はリーン。リーン・フリードという。わけあって冒険者をしながら旅をしている。私のことは今どうでもいいんだ。今私はとある少年に弟子入りを志願されている。少年とはたいした縁がある訳でもなく、たまたま通りかかった時少年が魔物に襲われていたので助けたぐらいだ。
はっきり言って困ってる。
どう対応していいのか分からない。私自体弟子をとることなど生まれてこのかた考えたことすらなかった。そしてその考え今も変わることは無い。
少年の名はカイという。特筆した所があるわけでもない。何かの才に溢れているわけでもない。容姿だって特徴も余りなくそこまで整っているということもない。文字通りどこにでもいるような少年だ。性格は少し捻くれているようだが・・・・。
少年が襲われていた魔物・ゴブリンは魔物の中でもかなり弱い部類だ。最底辺といっても過言ではない。しかし、そのゴブリンですらカイは倒すことが出来ないのだ。別に彼はただの村人だ。別にゴブリンを倒せなくても問題は何一つない。むしろ普通のことだ。基本的にまともな訓練を受けていない人が魔物を倒せるはずもない。
しかし、私の弟子になるというならそうもいかない。私とともに行動するということは職業柄、死と隣り合わせということになる。そうなる以上ゴブリンですら余裕に倒すことすらできない者を連れて行くのは絶対に出来ない。死に行かせるようなものだ。
そう、私はカイを弟子にするつもりは微塵も無い。
だが――
「リーンさん頼む!俺を連れてってくれよ!!」
・・・まただ。自分が無意識的に溜め息を吐きだしているのが分かる。これで朝から数えて37回目だ。いくら断っても諦めることなくしつこく来るのだ。おかげで私はかなり疲れてしまった。
カイがじっと私の目を見つめてくる。思わず目を逸らしてしまいそうなほど真っ直ぐに。
その目には揺るぎない決意があるように見える。
『男子三日会わざれば括目して見よ』か・・・・
最初に会った時にその瞳には決意などは感じさせるものなどなく、迷いやどこか虚ろなものが垣間見れた。
一体彼に何があったのだろうか?
そんな疑問を感じつつも、私はなんとかカイを諦めさせれないかとしこうを思考を走らせる。
作戦番号42
リーンが川の方へ向かっていくのを確認。こちらにはまだ気づかれていない。
この作戦に失敗は許されない。
右方向確認、左方向確認、後方確認。不確定要素は見当たらない。
よし。突撃―――
「リーンさん頼む!!俺をアンタの出弟子n・・・ってうわあああああ!!?」俺は思わず声を上げてしまう。
濡れて体に張り付く艶やかで瑞々しい藍色の髪の毛。
息を呑むほど白くきめ細やかな肌。まるで彼女だけ背景から切り離されているかのように錯覚する。
普段マントに隠れてよく分からなかったが胸部にある二つの丸みをおびた物体は大きく豊満な魅力に満ち溢れていた。
引き締まってすらっとしているお腹はとても健康的だ。
出るとこはしかっり出て、しまるとこはしまる。ほとんどの男はこれを見たら鼻血を吹き出す。それほど、官能的体だった。
ハイ、水浴び中でした。本当にありがとうございます!
視線がつながる。
リーンの瞳が大きく見開かれる。
「えっと、こんにちは!!」なんとかふりだした言葉がこれである。無理だ!なんと言われようが俺は限界だ!!
「ふざけるな!!」いつも冷静なイメージがあるリーンが打って変わってまるで阿修羅のように見える。
あ、俺終わったな☆
ガンッ
なにか硬いものが頭に当たる。速すぎて俺には見ることですら適わなかった。
頭に強い衝撃が走り、俺の意識は暗転してしまった。
いつもそうだった。俺は自分が欲しいと思ったモノを何一つ持っていない。
いつもだってそうだ。自分が欲しいと思えば思うほどに手に入れることは出来なっかった。自分の目の前から消えていった。
でも、今度は違う。手に入れてみせる。
「んぁ・・・・」頭がボーっとする。後頭部に何か暖かくてとてもやわらかい感触がする。
俺なにやってたっけ?
確かリーンの所にいってそれで・・・・
「あ!!」考えていたことを思い出し、体をバッと起こす。
「む、起きたか」凛とした声が耳に届く。
声のした方を向いてみる。そこにはリーンが正座していた。
そこで、俺はある重大なことに気付く。ま、まさか・・・
俺は今までリーンに膝枕されていただとおおおおおおお!?
な、なんておしいことをしたんだ・・・・、もう少し横になっていればよかった!!!
「だ、大丈夫か・・・?」俺が頭を押さえて悶えているのをみて明らか引き攣った顔で心配してくる。
「だ、大丈夫です!」
そして、思い出される天国(リーンの裸)。顔が真っ赤になっていくのが分かる。
そのことを察したのかリーンがとても冷え切った口調で
「忘れろ。」
こえぇ・・・。足がガクガク震えるのが分かる。
「まぁ、いい・・・。すこし聞いていいか?」リーンが真剣な表情になる。
俺は頷く。
「なんでお前は私に弟子入りなんかしようとした?」
「俺は強くなりたいんだ。」
「なら、止めておけ。必要以上に強くなったていいことはない。むしろ悪いことの方が多い。それに、お前みたいなただの村人が今から強くなるのには並大抵の努力が必要だ。もし、冒険者になるというならはっきりいって十中八九死ぬだろう。それでもお前は行きたいというのか?」
「あぁ、俺はもう決めたんだ。俺はやらなきゃならないことがある。いや、どうしてもやりたいことがあるんだ!!アイツの目の前にいかなきゃいけないんだ!!!ここで引き下がるわけにはいかない。」俺はリーンを強く見つめる。
リーンが硬直する。しかし、次の瞬間表情を緩めフッと笑みを浮かべる。
「お前にも譲れないものがあるんだな。でも、どうするんだ?私は旅人だ。いつまでもここにいるわけではない。」その言葉にはなんとか俺を説得しようとする意図が見える。
「大丈夫。あんたについていくから。俺もこの村を出る。」俺にもう迷いはない。
「はぁ・・・。仕方がない。私はこれからこの近くにあるゴブリンの巣の除去に行く。」
「な!!?」俺は絶句する。この村の近くに魔物の巣があるだと!?
「それについて来い。ただ戦う必要はない。見ているだけでいい。私がいる世界がどういうものかその目で見てみろ。その上でまだ私についてきたいというなら了承しよう。」
リーンから事実上の許可が下りる。
思わず顔がにやけるのが分かる。やった。遂に、遂に・・・。
「浮かれるな。まだ決まったわけじゃない。ゴブリンは基本夜行性だから明日の早朝しかける。見ているだけとわいえ準備は怠るなよ。」リーンの切れ目の長い紫眼が更に鋭くなる。
しかし、俺は内心喜びを抑えることが出来なかった。
魔物。魔物とは何か?そもそも魔物という定義自体がかなりあやふやなのだ。どこからどこまでが魔物でどこからどこまでが魔物でないか?定義は一応あることにはあるのだがうまく機能していない。魔物とは体内にどれだけ魔力を保有いしてるかで決まる。ある一定の魔力を超える存在が魔物とされている。しかし、この魔力というのがやっかいで個体の魔力量の差が激しすぎるのだ。人間も例外なく魔力を微塵も持たない者もいれば、国ひとつを簡単に破壊できるほど魔力を持つ者もいる。そのため種族の魔力保有量の平均値を出してその結果から魔物かどうか判断する。
だが、魔物であっても魔物と思われていない種族や、魔物ではないのにそうだと思われている種族もいる。だから魔物の定義はあやふやなのである。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇこの森ってこんなに深かったんだな・・・」今俺は森の中を歩いている。だが、悲しいことに体力が全然無い。
普段からたいして運動していなかったからなぁぁ・・・
日頃運動しとけばよかったと溜め息が漏れる。
「おい、聞いているのか!?」前方からトーンがやや高めの凛とした声が聞こえる。
「聞いてるよ、リーンさん。でもこんがらがってなにがなんだか・・・結局魔物ってなんなのさ?」さっきから延々と魔物の話をしているがはっきり言っていみが分からない。
「まぁ、いい。」あ、あきらめられた。
ま、いいや意味分かんなかったし。
「ゴブリンのことはしっているな?まぁ、お前は一度遭遇しているから身体的特徴はわかるな。ゴブリンは魔物の中でもかなり低位な位置に存在する魔物だ。個体の強さでいったらたいしたことはない。問題なのはその繁殖力だ。一度の出産で生まれる数が多い上にそのうまれた幼体も3年も経てば成体になる。気をつけろよ。今回はゴブリンの巣に向かってるんだ。すくなくとも30体以上はいることは覚悟しておいて欲しい。」
「さ、30体!?」俺は絶句する。背中に冷汗が大量に流れるのが分かる。うへぇ・・・
そんな俺の心境を見透かしてきたのかリーンは
「怖じ気づいたか?」と挑発してくる。
「そ、そんなわけあるかい!!」と俺強く虚勢をはるのだった。
「着いたぞ。ここがゴブリンの巣だ。」リーンが指を指す。
指の先は洞窟だった。どうやらあそこがゴブリンの巣のようだ。
よく見ると洞窟の入り口には見張りらしきゴブリンがニ体ほどいた。
「うわ!?本当にい・・わぷっ」口をいきなりリーンに抑えられる。
「静かにしろ・・・!」リーンに睨みつけられる。
「では、行って来る。しっかりと見ていろ。」
俺はコクリと頷く。
リーンが懐から剣を抜く。この剣がリーンの武器らしい。しかし、妙な剣だ。剣身は普通ますっぐだ。しかし、リーンのもつ剣は大きくまっすぐではなく、大きく反っている。刃の部分が片方しかなく、刃には水面に揺れる波のようなものが描かれている。
不思議な武器だ。武器がもつ獰猛性があまりなくむしろ武器なはずなのに落ち着いた雰囲気を醸し出している。
!?
次の瞬間にはリーンはゴブリンの目の前にいた。驚いていたのも束の間次の瞬間にはゴブリンのくびが飛んでいた。いつ剣を振りぬいたのかも分からないほど速かった。
隣にいたゴブリンが仲間が殺されたことに気付く。しかし、気づくのが遅すぎた。
すでに首が胴体からおさらばしていた。
見張りのゴブリンを倒すとリーンは電光石火で洞窟の内部に突入していった。
それにともない木に隠れていた俺も慌てて後を追う。
すでに事切れたゴブリンに目をやる。
しかし、なんて切れ味だ・・・。ゴブリンの切られてしまった断面は綺麗だった。まるで、元からその部分がくっついていなかったように錯覚する。
洞窟に入るとそこは阿鼻叫喚の地獄だった。
ゴブリンの死体だらけだ。リーンに向かってどんどん現れるゴブリンの首が次々玉のようにどんどん宙に舞っていく。ちらちら黒い影が見える。おそらくあれがリーンだろう。迅すぎて目で捉えることすら出来ない。
赤黒い血飛沫が舞う。血を血で洗うそんな場所だった。
こわい・・・・。怖い、恐い、コワイ、コワい、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ
ドスッ
あまりの光景に後ずさり尻餅をついてしまった。
音に反応したのか数匹のゴブリンがこちらに向かってくる。汗が滝のように流れる。身に着けている衣服を汗がグッショリと濡らす。
恐怖で体が硬直して動けない。
恐怖で頭の中がまっ白で塗り潰されていく。なにも考えられない。あるのは肌で感じる絶対な恐怖のみ。
声を上げようにも声帯が麻痺してしまったのか、口がパクパクするだけでなにもでてこない。
シュパッ
鋭い音がしたと思うと目の前のゴブリン達の首が宙を舞っていた。
ゴブリンの胴体からものすごい量の赤黒い液体が吹き出す。
あぁ、まるで雨みたいだなぁ・・・・
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
太陽が冷え切った村を照らし、どんどん温度を与えていく。朝だ。
朝早くマントをみに纏い、頭にフードを被っている女性が一人。完璧に傍から見たら不審者だ。
「来るわけないか。」リーンは予想どうりというような顔だ。
「さて、行くか。」リーンは村に背を向け歩き出す。
「遅いぜリーンさん。」
「なに、鳩が豆くらったような顔してんすか?」
「ふっ、後悔してもしらんぞ?」
「後悔ならとうの昔にしてる。今から俺はその後悔を取消に行くんだ。」
「ふっ、ぬかすな。では、行くか。」
「あぁ。」
――なぁ、色々当回りしちまったけどよ、俺やっと進みだしたよ。だけどもう少しお前の前に行くのには時間がかかりそうだ。なんせ、俺はイマだ、ただの村人と変わりないからな。でも、俺は必ずお前の前に行く。お前が求めてなくても、嫌がってもだ。
だから覚悟していろよ『シーア』
一人の少年が一かけら決意を伴い愚者へと成る。
「ところで私達は晴れて師弟関係になったわけだ。」
「へ、なんで剣構えてんの?え、そのまんまこっちにジリジリよってくるの止めて!!」
「その口の聞き方叩き直してやる!!!」
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
補足するとリーンの武器は刀です。
ただ、この世界ではあまり刀普及してないのでカイは奇妙な武器と思ったんですね。
序章にあたる部分は終わりました。次回から、やっと本編です。
では。




