愚者の決意
「ここは・・・・」
目に入ったのは見慣れた天井だった。天井にはいくつもの染みがあり、その染み達が不気味な笑みを浮かべているように見えて子供の時怖くて寝れなかったのが思い出される。
ガタッ
音のした方に視線を向けてみるとそこには母さんが驚いたように目を見開き立ち尽くしていた。
「あ、母さ・・・っ!?」いきなり抱きつかれて、少し混乱する。
「この大馬鹿息子がっ!!!アタシがどれだけあんたのこと心配したと思ってるの!?」
さらにギュッと強く抱きしめられる。こんなにも心配させて申し訳ないと思う反面嬉しいとも思う。しかし、この歳で母親に抱きしめられいるのが恥ずかしく顔が少し赤面するのが分かる。
しばらくたつと、母さんも落ち着いて俺の今の状況を教えてくれた。どうやら俺はゴブリンとの戦闘で大怪我をおい、2日間寝込んでいたらしい。頭に手を当てると包帯が何重にも巻かれている。いくら包帯といってもここまで何重にも巻かれるとそれなりの重さになるのでバランスが少し取りずらい。
というか何でこんなに包帯まいた・・・・・・・。
俺をここまで運んできてくれたのは、通りすがりの旅人らしく再三「あんたが今生きているのはあの旅人の御陰なんだからちゃんと御礼を言っとくのよ。」と口酸っぱく言われた。
ちなみにその旅人は助けてもらった御礼ということで家に泊まって貰っているらしい。
ベッドで落ち着いて寝ていることもできず、家をでて村をてきとうにフラフラ散歩する。
「旅人か・・・・・」
ゴブリンの最期が頭の中で再生される。どう考えても俺は殺されているはずだった。でも今重症こそおっているものの、生き長らえている。
殺されたのはゴブリンの方だった。突然ゴブリンの首が胴体から分離した。ただの村人である俺にそんなことできるはずもない。思い当たるのは俺を連れてきたって言う旅人のことだ。というか、あいつ以外該当者がいない。
――俺は助けられたのか。
俺は助けられた。その事実が胸を締め付ける。俺は負けた。分かてった。ただの村人が魔物なんかに倒せる訳もない。そう、俺はただの村人、それ以上でもそれ以下でもない。ただただ、変わった出来事も無く平穏に生きて死んでいく存在。俺は特別なんかじゃない。俺はアイツみたいにはなれない。そんなのは分かってる。だから、俺はアイツの後を追わなかった。
「だけど・・・」
だけど、今心を満たしているのは心の奥深くに突き刺さる後悔と自分が誰かも分からなくなるほどの空虚感ばっかりだ。
「ほんと、情けないな俺・・・・。」惨めな気持ちになる。それを誤魔化す様に自虐的に自分を笑ってみるが、効果わなく惨めさが一層に増した。
ザッ
音がした方に目を向けて見るとマントを身に纏い、フードを被っている例の旅人がいた。
「よう、アンタか。」
「・・・・・・」旅人は俺の声に反応してこちらの方を向くが無言のままだ。
「助けてくれたのはアンタだろ?ありがとう。」
「気にすることは無い。たまたま通りかかったついでにやったことだ。」旅人が口を開く。その声凛として耳によく響く。
「つれないこと言うなよ。俺はアンタの御陰で生き長らえているんだ。俺はカイ・テトライト。アンタは?」
握手を求め俺は旅人に右手を差し出す。
「リーン・フリードだ。」頭に被っていたフードをとり握手に応じる。
が、俺は動揺を隠せなかった。
腰まで伸びたまっすぐ伸びた藍色の髪の毛、見る者に冷徹な印象を与える切れ目の長い紫眼、すっと透き通った鼻、うっすらと桜色をした控えめな唇。歳はおそらく二十代半ばぐらいに見える。
「お、女ぁ!!?」あまりの衝撃にかなり失礼なことを口走ってしまった。
「ふん!失礼な奴だな。」俺の言葉にリーンさんは眉をひそめ、すこし不機嫌な表情になる。
「わ、悪い。そ、そうだ、アンタどうしてこんな辺境の村なんかに来たんだ?」俺は自分でも酷いと思うあからさますぎる言い方で話を逸らそうとする。
リーンさんは呆れたように溜め息を吐く。
「魔物の討伐だ。これでも一応冒険者なのでな。」
冒険者とは各町(町といってもそれなりに大きいものに限る)や各都市にあるギルドで依頼を受けて生計を立てている人達のことを指す。その依頼の中には当然魔物の討伐なども含まれていて、死と隣り合わせの職業だ。その反面一攫千金の職業とも知られており冒険者に憧れる者も少なくない。近年とある理由があり魔物の討伐がを舐めてかかるものが増えていて死亡率が一番高い職業でもある。
「私も一つ聞いていいか?」なんだ?と俺は返事を返す。
「なんでカイは魔物に立ち向かった?」
空気が凍る。何も言えなくなる。急所だったからだ。
リーンは黙る俺に構わず続ける。
「君はただの村人のはずだ。魔物に適わないことは分かっているはずだ。」
「それはっ・・・に、逃げ切れなくて。」嘘だ。どうしようもないくらい薄っぺらい嘘だ。
「嘘だな。」即座に見抜かれる。
「あの時いたゴブリンは一体だけだったはずだ。ゴブリンはそこまで移動速度は速くない。いくらただの村人だとしても逃げようとすれば逃げれたはずだ。」
動揺を隠しきれてない俺にリーンさんは淡々と正しすぎる事実を言い放つ。
何も言えない。何を言えばいいのかも分からない。だってリーンさんに言われたことは自分でも分かっていたことだから。分かっていたのにしなかったことだから。何も言えるわけがない。
「お、俺は「いや、いい。悪かった。ただの他人が深入りするのも失礼だったな。忘れてくれ。ただ、一つ言っておく何事も命あってのことだ。今回みたいに命を無駄にするような行動は極力ひかえてくれよ。」いうことだけ言うとリーンさんは去って行った。
リーンに言われたことを考える。リーンさんに言われたことは常日頃俺が第一に考えていたことだ。俺は弱い。分かってた。命はなによりも大切だ。かけがえのないものだ。そうだ、俺はなに一つ間違っていない。この考えは間違っていないんだ。
でも、でも俺は・・・・
太陽の温かい日差しが差し込む。漆黒に染まった大地に明るみが取り戻されていく。一つの時が終わりを告げまた新たな時が始まる。
「母さん、母さん!リーンさんはどこ!?」
「リーンさん?あぁ、フリードさんのことね。フリードさんなら外で日の光を浴びてるわ。ちょ、ちょっと!?まだ怪我も癒えてないんだから安静にしてなさいよ!!」
母さんの小言が聞こえたがそんなの聞いている暇なんかない!
外にでるとリーンさんが「う~ん」と思いっきり背伸びしていた。
「リーンさん!リーンさん!」
「なんだカイ朝から元気だな。」
リーンさんと朝の挨拶を済ます。
リーンさんを俺はまっすぐ見つめる。リーンさんは俺をみて首を傾げる。
言い訳するのはもう終わりにする。
俺は決めたんだ。
「リーンさん俺を弟子にしてくれ!!!」
やっと、やっとこの駄目主人公決意してくれたよ。
はい、今回カイにとっての大きな分岐点となりました。
あ、でもカイの強さとかはなんら変化ありません。ゴブリンに負ける雑魚のまんまです。
ほんと、もうすこしどうにかならんかこの主人公・・・・




