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第9話:すべてはこいつが悪い事に決定した。

 貧弱なくせしてどこからその体力が沸いてくるのか、朝方になってやっとアキヒトが眠りに着くと、静かにベッドを降りた。普段はの○太のくせして、この黒の○太が! そしてアキヒトを起こさない様に音を立てずに衣服を身につける。


 神様がこそこそしなければならいなのは気に食わないが、起こしたらまた襲われかねんからな。何せサルだし。


 そして扉をゆっくりと開けると廊下に出て自分の部屋に向かう。そして部屋の扉を開け中に入ったところで声を掛けられた。


「おはよう。神様」


「……おはよう」


 見ると、ベッドの上で横たわるエメルダが笑みを湛え私を見つめている。


「どういうつもりじゃ?」


 私を引っ掛けアキヒトの部屋へと向かわせた事について、睨んで問いかける私に、エメルダは平然と答える。


「どういうつもりって何の事かしら? 私の方こそ、ちょっと夜風に当たって部屋に帰って来たら神様が居ないからびっくりしたんだけど。アキヒトに抱かれるのを嫌がってたのに」


 ちっ! いけしゃあしゃあと、ワザとらしい。だが何を言ってもどうせはぐらかされるだけであろうと、口を噤んだ。


「いつまでそんなところに立っているの? お疲れでしょうからベッドに横になったら?」


 エメルダの言葉にはムカついたが、実際クタクタだったので大人しくエメルダの隣で、エメルダに背を向けベッドに横になる。そしてさっさと朝食の時間までもう一度寝てしまおうと目を瞑った。


 だがその私の背にエメルダが囁いた。


「昨日はあなたが抱かれたんだから、今夜は私よ。邪魔しないでね」


 はっ! っとして振り返ると、エメルダはすでに私に背を向けていた。そうか。わざわざ私をアキヒトに抱かせたのは、私に口を出させない為か。せめて王国に着くまでは大人しくさせようと思ってたのに。


 だがとにかく疲れていたので、エメルダへのムカつきも睡魔に勝てず、瞬く間に眠りに着いた。


 とはいえすぐに朝食の時間となり、エメルダに起こされる。そしてみなが集まる食堂に向かって席に着く。しばらくするとアキヒトもやってきて、私に微笑みかける。昨夜の痴態を思い出し、思わず顔を赤くする私の様子を見てエメルダがクスリと笑った。


 その瞬間カッとなり、椅子から立ち上がりエメルダを睨み付けた。だがエメルダは私が睨んでいるにも関わらずすました顔で平然と答える。


「え? なぁに神様?」


 私の脳裏に反射的にエメルダへの罵詈雑言が浮かんだが、何も言えずまた椅子に座った。私の脳裏に浮かんだ怒声は、2人きりならともかく他にも大勢居るところでは「恥じらい」設定が邪魔して怒鳴れる内容ではなかったのだ。


 改めて椅子に座り黙々と朝食を食べる。朝は先日食べたのと同じ様にパンとジャムが有った。この世界の朝食の定番なのかもしれん。そしてその他に野菜や肉が少し。そして食べ終わったら早速馬車に乗る。


 馬車の中は、よっぽど険悪な雰囲気になるかと思ったけど、やはり寝不足で私もアキヒトも、ついでに釣られてエメルダもずっと寝ていた為平穏にすんだ。


 そして次の宿についてまた食事をし、お風呂に入った後またもエメルダと同じ部屋に入った。


「今夜は私の番だからね」


 エメルダはそう言うと鏡台の前に座り、お風呂に入った後にも拘らず軽く化粧をし、首筋と手首に香水を振りかけた。そして露出度の高い黒いドレスを身に纏う。


 私の前で平然とアキヒトに抱かれる為の準備を進めるエメルダの姿を、ベッドに横たわりながら眺めていたが、途中で見ているのが嫌になり背を向けた。


 エメルダの立ち上がる音がするので、部屋から出て行くのかと思ったら私に近寄ってきた。何のつもりだ? と思っていると、エメルダが私の耳元で囁く。


「これに耐えられないのなら、ハーレムを作るのなんてお止めなさい」


 思わず振り向くと、人の悪い笑みを浮かべたエメルダと目が合った。


「私は強い人に抱かれるのが好きだからアキヒトに抱かれたいけど、独占したいとまでは思わない。だからハーレムの一員になるのは構わないわ。でも、ごたごたに巻き込まれるのは真っ平よ」


 エメルダはそう言うと私から離れ、背を向けた。そして右手を「じゃあね」とでもいう風に肩のところでヒラヒラと振ると、部屋から出て行く。


 ちっ! ハーレムを作るならアキヒトが他の女を抱くのにグダグダ言うなという事か。人間の癖に生意気な。そんな事くらい分かっておるわ! だが設定が発動してどうしてもムカつくのだからあるまい!


 しかし……確かにそのムカつきを女達にぶつけていては、ハーレムを作るもなにもないか……。やはりムカつきはアキヒトに向けるべきだな。


 とりあえず殴るか? いや、アキヒトは絶対防御結界で守られているから、殴ったらこっちの手が痛い。確認済みじゃ。さてどうしたものか?


 アキヒトに外部からのダメージを与える事は出来ない。では、内部にダメージを与えるしかない。毒を盛るか? いや、チート能力のオプションで毒に対しての免疫を与えてある。しまった。毒に対する免疫は、オプションから外すべきだった。


 あ。そうじゃ! 良い方法を思いつた。これならばアキヒトにダメージを与えられるぞ。アキヒトめ。見ておれ。


 アキヒトへの制裁の方法を思いついた私は、エメルダが居ないのでベッドを1人で占領し、やがて寝息を立てた。



 朝目が覚め辺りを見渡してもエメルダの姿は無かった。ちっ! まだアキヒトの部屋か。一瞬エメルダへの怒りがわいたが、すぐにその怒りはアキヒトに向けるべきだと考え直す。


 ハーレムを作れとけしかけているのは私なので、アキヒトが悪い訳ではないと考えないでもないが、「浮気には怒る」設定が発動してしまうのだから仕方が無い。


 いやちょっと待てよ? 私の設定はアキヒトの願望で成り立っている。では私が「浮気には怒る」のはアキヒトの願望なのだ。なのでアキヒトは、私が「浮気には怒る」事について責任を取るのは当然なのじゃ!


 つまり、私がアキヒトに腹を立てるのはアキヒトの所為であり、アキヒトには私の怒りを受け止める責任がある。うむ。完璧な理論武装じゃ。よし! すっきりした。これで容赦は入らんな。


 それからしばらくすると、ドレスを少し着崩したエメルダが部屋に帰ってきた。


「おはよう」

「おはよう。神様」


 私とエメルダはそう挨拶を交わし、その後エメルダは探る様な目で、私の顔を覗き込んだ。


「なにか、吹っ切れたみたいね」


「どうしてそう思う?」


「私を睨んでないからよ」


 エメルダはそう言ってドレスを脱ぐ、そして地味な服を手に取った。とはいえ「彼女にしては地味」なのであって、「恥じらい」設定のある私にはとてもではないが着れない代物なのだが。


「ムカつきはすべてアキヒトに向ける事にしたからの」


「でも、ハーレムを作れって言ってるのは神様なんでしょ? それで他の女を抱いてアキヒトを怒るのはお門違いなんじゃないの?」


「それはそうじゃが、アキヒトが望んだから私はアキヒトの彼女になったのじゃ。ならば私が彼女としてムカつくのは、どんな事であろうとアキヒトの所為であろう」


 すると私の言葉にエメルダは、クスリと笑った。


「確かに、そういう考え方もあるわね」


 その後朝食の時間になったので、エメルダと並んで朝食が用意されている部屋に向かう。エメルダの身長は私とアキヒトとの中間くらいの背丈なのだが、履いているヒールの高い靴の所為で、アキヒトより少し高いくらいになっている。


「その靴、歩き難くは無いのか?」


「普通に歩く分にはなれたわ。さすがにこの靴で走ろうとは思わないけど。神様も履いてみる?」


「いや。止めておく。見るからに足が痛そうじゃ」


 部屋につくとアキヒトの姿は見えなかった。まだ来ていないようじゃな。もし先に来ていたらエメルダにアキヒトの注意をひきつけておいて貰おうと思ってたのじゃが、好都合じゃ。


 おもむろに、アキヒトへの報復の準備を進める。その様子を見ていた隣に座るエメルダはぎょっとした目で私を見、私は無言でにやりと笑い返した。


 準備を終え、改めてテーブルの上を見渡すと、透明の液体が入ったビンが目に付いた。


「これはなんじゃ?」

 とエメルダに聞くと彼女はビネガー《酢》と答えた。ほうほう、と少し飲んで見ようとコップに注ぎ、コップを口に近づけた。


 だがエメルダが、

「駄目よ! それは飲み物じゃないの」

 と慌てて止めた。


「飲めんのか?」


「ええ、それを飲んで美味しいという人は滅多に居ないでしょうね」


「ほうほう」


 私はそう言いながら、改めてそのビネガーをコップに注いだ。その様子をエメルダは怪訝そうな顔で見ている。


「もしかして神様って味覚がおかしいの?」


「いや、アキヒトが彼女に特殊な味覚を望んでいない限り、味覚は普通のはずじゃが?」


 エメルダは私の言葉にさらに怪訝そうな顔になり首を傾げた。


 しばらくするとアキヒトがやって来た。アキヒトは私の姿を見つけると、昨夜エメルダの訪問を受けた事に気まずそうな顔をしたが、私がにっこりと微笑んでやると、とたんに表情を明るくし、のこのこと近づいてきて私の前の席に座った。


 そして私に視線を向けた後、エメルダにも顔を向ける。アキヒトに微笑むエメルダに、アキヒトもはにかんだ様に笑った。ふっ。だが笑っていられるのも今のうちよ。


「アキヒト、お前の分の食事は用意してやっておいた。ありがたく食え」

 

 そう言って、野菜や肉を挟んだパンが乗った皿をアキヒトの前に滑らせた。


「ほんとう! わぁ神様が僕の分を用意してくれるなんて嬉しいな」


 アキヒトは嬉しそうにパンを手に取ると、エメルダが

「あ!」と声を上げるのにも構わず大きく口を開けて被りついた。


 そして笑顔でパンを咀嚼していたが、突然声を上げ、そして椅子からも転げ落ちた。


「ひぃ~~~~!!」

 とのた打ち回るアキヒトに、私は心配そうに駆け寄る。


「すまん、アキヒト。ちょっとマスタードが多かったか? さあこれを飲め」

 とコップをアキヒトに差し出した。アキヒトはコップを手に取ると、コップを一気に傾ける。


 だが今度は半分以上中身を飲んだところで、ぶっ! と噴出す。そしてゴホゴホと激しく咳き込んだ。ふむふむ。ビネガーとやらを飲むとこうなるのか。飲まなくて良かった。


 そしてこの様子にエメルダが呟いた。


「……鬼だわ」


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