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第7話:遂に1人目。とはいえやっぱりムカついた。でも自業自得?

「フェンリルの顎から流れるよだれは川となり……」


 トリップしたエメルダの独演が続く中、騎士から事情を聞き終えた私とアキヒトは、その依頼について考えていた。


 つまり、国王によって勝手にフェンリルに献上されてしまった王女が、フェンリルの元から逃げ出したいと言っている訳か。しかも一刻も早くという事で、国王は最強ドラゴンを倒した男の噂を聞きつけ、この騎士を急ぎに急がせ派遣したと。


 数日の道のりを馬を乗り換え一夜でやってくるほど急ぐ要件とも思えんが、まぁそこは国王にとっては命令するだけの事で、この騎士にとっては国王の命令だから忠実に守ったんじゃな。


「それでどうする?」


 アキヒトがせっかくやる気になっている様なので、あえて判断を委ねてみた。アキヒトは首を捻った後、騎士に聞かれたくないのか小さい声で私に耳打ちしてくる。


「これで、そのフェンリルっていうのをやっつけちゃったら、フェンリルが可愛そうなんじゃないの?」


 私も耳打ちし返す。


「じゃあ、アキヒトは誰かに勝手にやられたら、仕方が無いと諦めるのか? 娘にとっては納得は出来まいよ。実際悪いのは娘に黙って勝手に約束した国王じゃが、仮に娘の代わりに国王をフェンリルにやっても、フェンリルはむさい男など要りはしまい」


 私の万能の力が今使えるのなら、その国王を姫の姿に変えてフェンリルにくれてやるところじゃが、残念ながらその力を失ってしまっている。私が力を失っているのは今のところアキヒトにも内緒だしな。


 私の言葉に、う~ん。と腕を組み考え込み始めたアキヒトを置いて、騎士に問いかけた。もっとも重要な事じゃ。


「それでそのフェンリルから姫を取り戻せば、いくら貰えるんじゃ?」


 私のおぼろげな記憶でもハーレムを作るのにも維持するにも、かなりの金が必要なはずじゃ。アキヒトは力ずくで金を集めるは嫌みたいなので、合法的に金を集めねばなるまい。国王ならかなりの金を出せるはずじゃ。


「いえ。それが陛下は報酬についてはお金ではなく別のものを差し上げると……」


「別のもの?」


「はい。フェンリルを倒した者には、姫を差し上げると、仰せになっておられます」


 うわ! 懲りない奴。同じ事を繰り返してどうする。いや、だが待てよ? そういう事か。


 最近フェンリルが戦いに介入して勝利した国の噂は近隣諸国に広まっておろう。フェンリルが戦場に出たとなると目立つからな。それを約束を違えてフェンリルから娘を取り返せば外聞が悪い。国王が約束して戦いに勝利したにもかかわらずその約束を反故しては、たとえ相手が魔物でも国としての信用にも関わる。


 だがこのままでは娘がうるさいし、勝手に逃げて来かねない。だがそれでは今度は自分の国がフェンリルに攻撃されてしまう。そして今フェンリルを退治出来そうな男、アキヒトの存在を知ったが、娘が国に帰って来てはやっぱり外聞が悪い。


 それでフェンリルを人知れず始末して、さらに娘をどこの馬の骨とも分からん奴にやって、表向きはフェンリルと娘はどこかで静かに暮らしている事にしたいのじゃな。


 その王女はフェンリル共々、国王である父親に完全に捨てられたという訳か。哀れなものだが……。にやりと笑い再度アキヒトに耳打ちする。


「受けるぞ。さっそく2人目じゃ」


「え? 何の?」


「ハーレムのに決まっておろう」


 察しの悪いアキヒトに耳打ちで、私の推測をすべて教えてやるとアキヒトは

「なんか可愛そうだね……」

 と眉をひそめた。


「そう思うんならお前が貰ってやれば良かろう」


「でも……、国に帰してあげる事は出来ないの?」


「娘を勝手に魔物にやって、それが不味くなるとすべてを隠匿しようとする国王じゃぞ。下手に国に帰したら、証拠隠滅のため娘といえど人知れず殺しかねん。良くて一生監禁じゃ」


「まさかそんな事まで……」


「じゃあ、殺されるか殺されないか、試しに国に帰してみるか?」


「そんな事……試せないよ」


 だが決断力のないアキヒトはやっぱりそう言いよどむ。私が付いてないと何にも出来んのか。まったく仕方の無い奴よ。


「まぁよい。判断はお前がしろ。お前のハーレムなのだからな」


 うじうじ悩むアキヒトに突き放す様に言うと、アキヒトも仕方が無いという風に、

「分かりました。お受けします」

 と騎士に答えた。


 騎士はその答えに安心した様子で溜息を付き、改めてカスタニエ王国のダンジェと名乗った。そして明日の朝早速王国に受けて出発したいという。それに対しアキヒトは、分かりましたと答え、明日の朝改めてこのギルドで集合する事となった。


 騎士、ダンジェが姿を消すと改めてアキヒトが不満を口にした。


「でも、やっぱりなんか納得できないな」


「まぁ、世の中納得できる事ばかりではあるまいよ」


 そこにやっとフェンリルについての長い独演を終了したエメルダが、初めて気付いた様に声を上げた。


「あら? あの騎士はどこに行ったの?」


「騎士ならさっき帰ったぞ」


 テーブルに肘を置いて頬杖を付く私の呆れ顔の答えに、エメルダは肩をすくめた。自分でもトリップしてしまう事は自覚している様じゃな。


「それでフェンリルを倒すっていう依頼は受けたの?」


 その問いに頬杖を付いたままアキヒトに視線を送ると、アキヒトは気乗りのしない様子ながらも、うん、と頷いた。


 その答えにエメルダは恍惚の表情を浮かべる。そしてアキヒトを恍惚とした目で見つめ両腕で自分を強く抱きしめる。


「あぁ……。じゃあ、あなたのあの魔法の一撃で、強大、凶悪なフェンリルが一瞬で肉隗に……」


 そう言いながら自分で己の身体をまさぐり身をくねらせるエメルダ。その官能的な姿に、アキヒトは赤面し、「恥じらい」設定が発動した私も当然赤面した。だがエメルダは赤面する私達に構わずさらに身をくねらせる。そしてアキヒトに覆いかぶさる様に詰め寄った。


「見たい……。見てみたいわ。フェンリルを倒すあなたの姿を。お願い私を一緒に連れてって……」


 飛んで火に入るとはとはこの事か。だがやっぱり「浮気には怒る」設定が発動し、アキヒトに他の女が近づくとムカついてくる。なので私の口からエメルダに着いて来いとは言いたくない。


 仕方が無い、と椅子から立ち上がってアキヒトに耳打ちする。


「私は席を外しているから好きにしろ」


 そういい残して部屋を出る。出る時さすがにエメルダが不思議そうに私を見てきたけど無視をした。はたからみればカップルに見える男女なのに、その片割れの女が、男が浮気をするのを助長する行動をしているのだから当然か。まぁ好きにしろも何もエメルダから強引に迫ってなし崩しなんじゃろうが。


 一瞬他の人が部屋に入らない様に部屋の前で見張っていようかとも思ったけど、さすがに2人の声が聞こえてきたらムカつくどころの話じゃなさそうなので部屋から遠ざかる。


 ふん! 見つかるんなら勝手に見つかればよい! だいたいアキヒトもアキヒトじゃ! 私の事を彼女と思っていると言うならば、私がハーレムを作れと言っても全力で断るのが筋であろう!


 自分でも理不尽と感じるアキヒトへの怒りをくすぶらせたままギルド内の廊下を当てもなく進み、偶然目に入った階段を昇った。


 階段は屋上まで続いていた。屋上はこの世界では珍しい事に平らで、その屋上に大の字に寝転がった。目の前に青空が広がり白い雲が通り過ぎていく。


 いくら神でもいつも天から地上を見下ろしている訳ではない。時には気分転換に万能の能力を使い、地上から空を見る事もある。だが今見ている空はその時のとは違う気がした。


 手を太陽にかざしてみると、血の色が透けて見える。息を大きく吸うと風の匂いがする気がした。胸に手をやるとトクン、トクンと心臓の音が聞こえる。これが実体というものなのじゃな……。


 その鼓動を聞いていると不思議と気分が落ち着いて来たので、そのまま寝転がり聞いていると、落ち着き過ぎたのかそのまま私の意識は途切れた。



 目が覚めると青かった空の端の方が微かに朱に染まり、結構な時間が経っている。


 アキヒトは? と、辺りを見渡したが当然居ない。慌てて階段を降りて元の部屋に戻ったが、やっぱり居ない。建物内を適当に歩き回って見たがやはりどこにも姿は見えなかった。私が先に宿に帰ったと思って、アキヒトは宿に帰ったのかも知れんな。


 仕方無しに宿へと向かって歩き出した。


 だが歩き出していくらもしない内に、前からアキヒトが駆けながらやって来た。そして私の姿を見つけると、

「あ! 神様!」

 とさらに駆け、近寄ってきた。


「どこに行ったのかと思って、心配してたんだ。宿に戻ってみても居なかったし」


 そういうアキヒトは、ずっと私を探して走り回っていたのか汗だくになっている。


「あ、すまん。ギルドの屋上で寝てた」


「そうなんだ。でも、見つかってよかったよ」


 汗だくの顔でそう言って笑うアキヒトに、なぜか赤面した。いや、今は「恥じらい」設定が発動する時でもないと思うのじゃが。


「じゃあ、帰ろうか」

 と、いうアキヒトと並んで宿へと向かう。


 青い面積より朱色の割合が増していく空の下を、アキヒトと歩きながら、ふむ、赤い空も良いものだなと思っていると、不意にアキヒトが口を開いた。


「あ、そう言えばエメルダさんが明日一緒に来るって」


 ふ。アキヒト。せっかく忘れていたものを間の悪い奴め。ぐっすりと眠っていた怒りが猛然とおき出し、治まっていた反動からか一瞬で臨海を超えた。ほとんど反射的に右拳を握り、隣を歩くアキヒトの顔面目掛けて振りぬく。


 ガキッ!


「ぬわぁ~~~!!」

「だっ。大丈夫!?」


 あまりの痛みに、右手を抱えのた打ち回る私に、アキヒトが心配そうに掛けてきた。


 アキヒトを守っている、絶対防御結界の事を忘れてた……。


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