表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

第6話:いよいよハーレム作り開始……だがその前に。

 どうやら「アキヒトの彼女」設定が常時効いているらしい事は分かった。しかしそうなると一回逃げようとした時に、金を持つのを忘れた事すら、その設定の所為で無意識にワザと持って行かなかったのかとも思えてくる。何せ私の能力は完璧なのじゃ。


 その完璧な能力で「アキヒトの彼女」設定が発動しているとなると、これは諦めるしか無いということか? まさか自分の能力でここまで縛られるとは予想外だった。


 しかしそれでも自分の身を守ろうと思ったら、やっぱりあれだ。アキヒトにハーレムを作らせ、ハーレムの女にアキヒトの相手をさせれば良いのじゃ。そうすれば私がアキヒトに襲われずにすむ。


 こうなってはそれしかあるまい。


 そうなると取りあえずあのギルドの受付の女、エメルダがターゲットだな。ふむ。決まりだ。ギルドに足を向けるべくそう告げようと視線をアキヒトに送った。


「アキヒト。昨日は初日という事で見送ったが、今日より本格的にハーレム作りに入ろう。取りあえずエメルダに会いにギルドに向かうぞ!!」

 と、大声で宣言しようと思ったが、さすがに内容が内容だけあって街中で大声で言うのは「恥じらい」設定に抵触した。なので小声で耳打ちする。


 すると私の言葉にアキヒトは戸惑った視線を向け、その視線に相応しい戸惑った返答をしてきた。


「え? いいの? 他の女の人と……したりして」


「何を言う。お前はその為にこの世界に来たのであろう。遠慮する事は無いのじゃ」


「でも……」


「でも、ではない。さっさと行くのじゃ!」


 渋るアキヒトを引きずる様にしてギルドに向かうと結構な人だかりが出来ていた。どうしたのじゃ? と思っていると受付で対応に追われているエメルダと目が合った。エメルダは他の者には分からぬ様に、視線で裏に回るように合図してきたので、その通りギルドの建物の裏に回る。


 取りあえず建物の裏口と思われるドアの前まで来ると、アキヒトが首を捻った。


「どうしたんだろう?」


「この騒ぎがこのギルドの普段どおりでないとすれば、当然昨日のドラゴンが関係しているのであろうな」


「ああ。世界が滅ぼされるとか言ってたしね」


「うむ。それがいきなり退治されては、騒ぎにもなろう」


 そしてしばらくするとやっと裏口が開きエメルダが顔をだした。


「待たせてごめんなさいね。中に入って」


 その言葉に私とアキヒトはドアを潜り中に入る。そして廊下を進みいくつかのドアを通り過ぎある一室に案内された。エメルダは私達に椅子を勧める。そこはこのギルドで働く者達の休憩室らしく大きな長方形のテーブルと椅子が数個あったが、今は私達以外の人影は無かった。


 アキヒトが椅子に座りその右隣に私が座った後、エメルダもアキヒトの左隣に座る。すると早速アキヒトに媚びた笑みを向ける。


「あなた凄いわよ。色んなところから問い合わせが来てるわ。一応まだあなたの身元は公表してないけど」


「問い合わせとはなんじゃ?」


 だがアキヒト越しに問いかけた私をエメルダは見向きもせず、アキヒトに向かってさらに言葉を続ける。やっぱりこの女ムカつくな。


「誰が倒したのかっていうのは当然だけど、他に先駆けて召抱えたいっていう王侯貴族や、中にはさっそく自分の領内の魔物を退治してくれないかっていう話まであるの。五色のドラゴンじゃない普通のドラゴンだってそう簡単に倒せるものじゃないし。強い魔物もゴロゴロしているわ」


 そして「もっとも……」と言いながらエメルダはアキヒトに左腕に自分の腕を絡ませ、しな垂れかかる。


「あなたに掛かればみんなイチコロなんでしょうけど……」


 お前がすでにイチコロになってるだろうと突っ込もうかとも思ったが、いけしゃあしゃあと「そうよ」と返されるのが目に浮かんだのでぐっと我慢した。


「しかしそういう話が来ているのなら、それに乗るのも良いかも知れんな。召抱えたいという申し出は断るとしても、退治して欲しいという魔物を退治して回るのも良いかもしれん」


 どうやらアキヒトは自分から女を口説くのは苦手そうだ。ならばそこかしこで大物狩りをして英雄扱いされれば、このエメルダの様な女が向こうから勝手に寄ってくるじゃろう。


 すると私の言葉にエメルダはうっとりとし、だがそれでも私には目もくれずアキヒトにさらに身体を密着させた。


「巨大なドラゴン……。凶悪な魔物……。人々が恐れおののく怪物達を、この手は一瞬にして肉隗に変えるのね……」


 エメルダは半分トリップしかかり、私がこの場に居るにも拘らず、今にもアキヒトに覆いかぶさりそうになっている。ここまで私の存在を無視するとはいい度胸ではないか。


 だがアキヒトに目を向けると、昨日エメルダに迫られた時は戸惑っているばかりだったのに、今は少し余裕があるみたいで顔を赤らめながらも微かに笑みを浮かべている。あれか? 経験を積んで余裕が出ましたか?


 その経験とは私とであろうが! アキヒトめ! 私という者がありながら! いやいや、何を言っておるのだ私は。しかしやっぱりムカついて来た。あ。そうか「アキヒトの浮気には多少怒りはするものの寛容で、決定的に嫌いになる事はない」この設定が発動しているのか。


 この設定は、逆に言えば浮気されても許しはするが、やっぱり怒りはするという事じゃ。ふむ。では私がムカついて来るのも仕方あるまい。とにかく、どうにかしてアキヒトの浮気を妨害せねば。


 いや、駄目だ駄目だ。それでは本末転倒だ。そもそもエメルダをあてがう為に、アキヒトをここに連れてきたのだ。


 あ~~いやだ! そもそもどうして私が「浮気」されて怒らねばならん。アキヒトが他の女に手を出すと怒ってしまう自分に、さらに腹が立ってくる。くそ! このやり場の無い怒りをどうしてくれようか。


 よし! 取りあえずこの問題は先送りにしよう。ハーレムを作るなら最終的には仕方ないが、今のところやっぱりムカつくのだ。椅子に座ったまま身を乗り出しアキヒトを押しのけ、エメルダとアキヒトの間に強引に割って入って話題を変えた。


「それでどんな化け物を倒して欲しいと言って来ておるのじゃ?」


 割り込んだ私にエメルダは露骨に嫌な顔をしたが、ここまでされてはさすがに無視する事も出来ず、渋々私に向けて口を開いた。


「どんなって言っても色々よ。今は手元に資料が無いから詳しくは言えないけど、比較的近場からも来てるし、ここから歩いて行ったら数日掛かるくらい遠いところからも来ているわ」


「昨日の今日で、よくそんなところから来ておるものじゃな」


「どうやら、早馬を乗り継いでやって来たみたい。よっぽど切実で急ぐんでしょうね」


 ふむ。効率を考えれば近場から片付けるべきだろうが、よっぽど切実というのにも興味が引かれるな。


「アキヒト、どうする? 取りあえず話を聞いてみるか?」

 とアキヒトに顔を向けると、私に押しのけられ仰け反った態勢のアキヒトと至近距離で目が合う。するとアキヒトは少し身動ぎし身体を引いた。気付くとお互いの身体が結構密着している。


 途端に「恥じらい」設定が発動し、慌てて身を離す私をエメルダは鼻で笑った。ムカついたので何かやり返してやろうとも思ったが、それでは話が進まないのでアキヒトに改めて問いかけた。


 するとアキヒトは予想通りの返答をした。つまり「うん」と頷いたのだ。ちょっとは積極的になったかと思ったけど、やっぱりこいつ判断力無いな。ともかく早速エメルダから話を聞こうと思って問いかけたが、エメルダは首を振った。


「それが、実は私も詳しい話は知らないの」


「何故じゃ?」


「何か裏があるのかも知れないけど、その依頼を持ってきた騎士は、ある王国から急いで来たって言うだけで、内容はドラゴンを倒した者に直接言いたいからってそれ以上は何も喋らないのよ」


「ふむ。そうなると国の体面に関わる問題か何かかの?」


「そうかも知れないわね。でもやっぱりその騎士の話を聞いてみないとどうとも言えないわ」


「それはまぁ、そうであろうな」


 だがそこに突然アキヒトが大きな声で割って入ってきた。


「じゃあ、その騎士に会って話を聞こうよ」


 私とエメルダが思わずアキヒトに視線を向けると、アキヒトは私に、はにかんだ笑みを浮かべて来た。


 例によって自分が空気になっているのを察して、彼女の前でちょっと頑張って積極的になってみました。って感じか? そんな事アピールされても困るが、まぁちょうど良い。いつまでも私に判断を任せられても困る。ここはアキヒトに任せるか。


 エメルダがその騎士を連れてくると騎士は入り口のところで礼儀正しく一礼した。黒い短髪で年のころは30過ぎぐらい。口元は引き締まり顎は四角く、鍛え上げられ筋肉によってか体格もなんか四角い。いかにも口が堅そうな男だった。


 エメルダはまたアキヒトの隣に座りながら騎士にアキヒトの向かいに座るように勧めたが、男はエメルダの勧める椅子に座らず、テーブルを挟んだアキヒトの向かいに近寄っただけで立ったまま口を開いた。


「私はとある王国に使える者です。名は……私の名前から身元が知られ王国の名も知られては元も子もありませんので、無礼とは思いますがご了承下さい。勿論、依頼をお受けして頂けるならば、私の名は勿論、国も名乗らせて頂きます」


 ほ~。ずいぶん慎重だな。しかしそれほどまでして隠さなねばならんとは、どんな依頼だ? まぁ詳しく話を聞くか。と思ってはみたもののこちら側を代表して話をするはずのアキヒトが、騎士に話の続きを促さない。


 仕方が無いのでアキヒトの座る椅子の足を軽く蹴り、アキヒトがこっちを見たので目で合図をする。するとアキヒトはやっと気付いて口を開いた。


「あの~。それでどんな依頼なんですか?」


 やっと話を促したアキヒトに、騎士は少なくとも表面上はまったくじれた様子を見せず話の続きを始める。


「実は我が国の姫をフェンリルから救い出して欲しいのです」


「フェンリル?」


 聞き覚えの無い名前にアキヒトが首を傾げると、エメルダが待ってましたとばかりに突然解説を始めた。


「フェンリルとは神話にも出てくる巨大な狼よ。その大きな口は世界を飲み込むほど大きいと言われているわ。神話では多くの神々をかみ殺した。まさに神すら恐れる魔物。さらに……」


 相変わらず話が長いやつめ。しかしやけに化け物に詳しい女だな。さすが強い者フェチと言ったところか? もっとも神である私は、そんな奴を恐れた覚えは無いがな。知識の大半を失ってはいるが、私が恐れる者等居ないのは間違いないはずじゃ。所詮この世界の人間が勝手に作った神話よ。


 エメルダの独演に付き合っては居られないと、またアキヒトの椅子の足を蹴った。アキヒトはエメルダに一瞬視線を向けたが、エメルダがトリップしているのを確認すると騎士に向かって再度問いかけた。


「それでどうしてさらわれてしまったんですか? そのフェンリルに」


 騎士も喋り続けているエメルダに、良いのか? という視線を一瞬向けた後、問いに答える。


「実はさらわれたと申しますか……我が国は他の国に攻められ戦争となったのですが、敵国は勝算あって攻めて来ただけあり優勢で、我が国は滅亡の危機に瀕しました。そこにフェンリルがやって来て国王陛下にこう申したのです。「姫をくれるなら敵軍を追い払ってやろう」と。国が滅んでしまっては民は勿論の事姫の命もありません。陛下はその申し出に乗り、フェンリルは陛下との約束どおり敵軍を追い払ったのです」


「でも、その王様が姫をフェンリルに渡すのを嫌がって、さらわれちゃったとかですか?」


「いえ、陛下は約束を違えず姫をフェンリルに与えました」


「え? じゃあ何が問題なの?」


「それが……」


「それが?」


 言い難そうに口をつぐんだ騎士だったが、アキヒトの再度の問いかけに渋々と言った感じで、目を瞑り少し俯きながら口を開く。


「姫が「自分に断りもなしに、勝手にやるな!」とお怒りになられまして」


 まぁ当たり前だわな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ