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第4話:異世界一日目の結果。これも自業自得?

 有り金と言うのはあくまで依頼があった場合だと言い張るエメルダと、アキヒトがドラゴンを倒さなければ滅んで居たのだから有り金を出して当然、と主張する私の対決はしばらく続いた。


 結局エメルダの、自分の権限でここのギルドの有り金をすべて出せる訳がない。という主張を渋々受け入れた。やむなく当面困らないだけの金を出させ、そして正式な報酬額はギルド本部に問い合わせるという事になった。


 ふむ。まぁ返答を待たねばならんのは面倒じゃが、結果的には良かったかもしれん。一ギルド支店の有り金全部より、ギルド本部からの報酬の方が多い可能性もある。


「ギルド本部は、あのドラゴンを一撃で倒せる男を敵に回す度胸があるか聞いておいてくれ」

 と一言残し、今度こそ本当にギルドを後にした。


 そしてエメルダの姿が見えなくなってからアキヒトに声をかけた。


「確かにあの女は気に食わなかったが、ハーレム要員候補の1人には違いあるまい。良かったのか?」


「う~ん。でも、せっかくの初めての夜だし、君と……神様と一緒に居る方が良いかなって」


 ふむ。変な事を気にする奴だな。じゃがまぁ、そう言われては悪い気もしないか。


「それは気を使わせてすまんな」

 と笑いかけると、アキヒトは顔を赤くして俯いた。理想の彼女の姿の私に照れている様じゃ。


 私達は歩き続け、ドラゴン襲来とその後の死亡の混乱の中、逞しくも営業をしていた宿屋を探し出しその扉を潜った。


「あ。部屋は僕が取ってくるよ」


 宿屋に入るやいなやアキヒトはそう言うと、受付に駆けて行く。1人残された私は空いていた椅子に座った。今まですべて私任せにしていたくせに殊勝な事ではないか。


 まぁいくら異世界でも、言葉が通じるのなら部屋を取るぐらい簡単ではあろうがな。そう思って部屋を取っているアキヒトの背中を見ていると、ぐぅ~~っと腹部から音が鳴る。


 なんだ? と思っていると、急激にお腹が苦しいというか切なくなってきた。思わずお腹を抱えて椅子の上で蹲っていると、部屋を取ったアキヒトが返ってきた。


「どうしたの?」

 と椅子に蹲る私に心配そうに声を掛けてくるアキヒトに、状況を訴えようとした瞬間、またも私の腹部が、ぐぅ~~っと鳴った。


「ああ。お腹が空いたんだね。じゃあ、何か食べに行こうか」


 笑いながら言うアキヒトに私は赤面した。どうやら女の子がお腹が鳴るのを聞かれるのは「恥じらい」設定に抵触するらしい。しかしこれが空腹という感覚か。神なので知識としては知ってはいたのじゃが、自分がなってみぬと分からぬものじゃな。


 アキヒトは一旦宿屋を出て、今度は飯屋を探す。町の混乱はまだ収まりきってはいなかったが、人間は食わねば生きていけぬので、開いている飯屋は簡単に見つかった。


 店に入りテーブルに座ったが、2人とも言葉は通じるが料理の名前は分からない。全知の私は当然この世界の料理の名前もすべて知っていたはずじゃが、今はすべて忘れてしまっているのじゃ。


「アキヒト。どの客が食べている料理が美味しそうなのだ?」


「う~ん。僕もこの世界に来たばかりなんだから分からないよ」


「良いから選べ。料理を食べた事がない私が選ぶよりはお前が選んだ方がマシなはずじゃ」


 私の言葉に、アキヒトは店内を見渡し、ある男が食べている物を自信なさそうに指差した。私は店員を呼んで、

「あの客が食べている物を2つ」と注文する。そして今後の為にその料理の名前を聞いておいた。


 人並の記憶力になってしまったので膨大な知識の大半を失ったが、失う時に無意識に捨てる知識を取捨選択したらしく、生活に必要な知識は優先して残っている様だ。だが感覚というものは良く分からない。始めに転んで膝をすりむいた時にその感覚を「痛い」と判断したが、それは地面に膝を打ったら痛いはず、という知識があったからに過ぎないのだ。


 しばらくするとテーブルに料理が並べられ、その匂いが鼻腔をくすぐり、口の中に唾が溜まった。アキヒトが「美味しそうな匂いだね」というので、きっとそういう匂いなのだろう。


 皿に盛られた動物の肉を焼いた物を一切れ口に入れる。アキヒトも同じ物を口に入れ、そしてちゃんと噛んでいるのか分からないくらいすぐに飲み込んだ。


「美味しいね」


「美味しいと言うのはどういう感覚じゃ?」


 美味しい物を食べた方が良いという知識はあるのじゃが、実際その美味しい物を食べた体験がある訳ではない。その為問いかけた私の言葉に、アキヒトは首を捻り少し考えていた。そして首を捻りながら答える。


「う~ん。もっと食べたいと思う感じかな?」


 なるほど。と言って、またその「美味しい」物を一切れ口に入れた。


 その後私とアキヒトは、その「美味しい」物すら口に入れたくなくなる感覚。つまり「満腹」になると店を出て、宿に戻った。


 宿に着くと早速アキヒトが取った部屋へと向かう。部屋を取った時はその後すぐに飯屋に向かったので、初めて部屋に入る事になる。


 アキヒトを先頭に、受付の横の階段を上って最上階である3階に着き、さらに廊下を進むと突き当たりの部屋の前でアキヒトは止まった。


「ここが取った部屋だよ」


「一部屋なのか?」


「うん。別に一部屋で良いかな~~って、思って」


 そう言ったアキヒトの声は少し上ずっていた。


「ふむ。そうか」


 アキヒトの事を挙動不審とは思いながらも部屋の扉を抜け、中に入った。その後にアキヒトが続く。部屋の中は結構広く、調度品も中々の物を置いている。結構値が張りそうだ。だが広い部屋にしては問題がある。


「どうしてこんなに部屋が広いのに、ベッドは一つなのだ? 余裕でもう一つ置けるだろ」


 私の素朴な疑問に、だがアキヒトはあからさまに目をそらす。嫌な予感がした。扉の前にはアキヒトが立っている。窓は……ここは3階。逃げ道はないか……。


 警戒しなければとは思っていたが、まさか初日から来るとは。止むを得まい。あえてアキヒトに近寄りその前に立った。


「いいかアキヒト。確かに今はお前の理想どおりの彼女になっておるが私は神様でな。いくらなんでも――」

 と口を開いたが、アキヒトはそれを遮って叫んだ。


「だって。この世界では僕の彼女って、神様も言ったじゃないか!」


 ああ、足を怪我して背負って貰う時に確かに言ったな。


 大人しいはずのアキヒトの目が血走っている。理想の女の子と部屋に2人きり。しかも私の方からお前の彼女だと宣言してしまったのだ。テンパるのも無理は無いか。しかしあれはあの場をしのぐ為だけの台詞のつもりだったのじゃが……。もしかして失敗したか?


「いや、だからあれはそのつもりで私を守って欲しいと――」


「だから僕は君が彼女のつもりだよ!」


 アキヒトはまたも私の言葉を遮り、そして両手で私の両肩を掴む。そしてアキヒトの顔が私の顔に近づいてくる。


 くっ! 避けなければ。じゃが私は動かない。動けないのではない。避けたいと「思えない」のだ。なぜじゃ? そこに私の脳裏に「設定」が浮かぶ。「彼氏であるアキヒトのする事は拒みつつも最終的には何でも受け入れる」これか!


 うわ~~~~!! と思っている間に、アキヒトの唇が私の唇を塞ぐ。


「ん~~~!!」


 しかも恐ろしい事に、嫌じゃないから余計に困る。「受け入れる」設定により、むしろ嬉しいと思ってしまう自分に泣きそうになった。自分神様なのに。


 だが、設定に縛られるなら縛られるで、それを利用してやる。設定から外れない範囲でなら自由に動けるはずじゃ。「恥じらい」設定に賭ける事にした。アキヒトが唇を離した瞬間、すかさず口を開く。


「初めて会ったその日になんて恥ずかしいから、また別の日にしよう」


 その言葉にアキヒトの動きが一瞬止まる。上手くいったか? よしここが勝負じゃ。一気にたたみ掛けよう。


「こういう事はもっとお互いの事を知ってじゃな。それから少しずつ……」


 だが私の淡い期待は裏切られた。アキヒトは

「でも、我慢出来ないよ! 君は僕の理想の女の子なんだから!」

 という言葉と共に私を抱きかかえる。


 ひ弱と思っていたら意外に力がある事に驚いた。私が与えたチート能力に腕力強化は付いてないのだ。テンパって火事場の馬鹿力でも出てるのか? そして設定が邪魔をして抵抗が出来ないまま、ベッドの縁まで運ばれてしまう。


 だがアキヒトはそこで力尽きたのか、ベッドまで運んだ事に気が緩んだのか、私は乱暴にベッドの上に落とされた。


「危ないではないか!」


 抗議の声を上げたが、それと同時に背筋に疼くものが走るのを感じた。乱暴に扱われた事により、最後まで残っていた一番発動して欲しくなかった設定。「むしろ本当はM気質」設定が反応したのだ。


 もはや、抵抗したいと「思わなくなった」私に、アキヒトが覆いかぶさってきた。近づいてくるアキヒトの顔を見つめる私の目が「設定」により思わず潤む。「設定」によりがんじがらめとなり、抵抗するすべを失った私は、心の中で絶叫した。

 いやだ~~~~~!!


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