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第23話:衝撃的な料理

 水を汲んだ後馬車に戻り、しばらくするとエメルダの料理が出来上がった。そして鍋の周りを囲んで昼食が始まった。その料理を一口食べた瞬間、私の舌に稲妻が走る。


「アキヒト。もっと食べたいと思うのは美味しいと言うんじゃったっけ?」

「うん。そうだけど?」


 とアキヒトは口に入れかけたスプーンを持つ手を止め、私の問いに答える。


「じゃあ、美味しくても食べたく無くなるのは、満腹じゃったっけ?」

「うん」


 とアキヒトは、またも手を止め私の問いに答えた。


「それじゃあ、満腹じゃないけど、食べたく無くなるのはなんというんじゃろう?」

「え~と、不味い……かな?」

「なるほどな」


 私はうんうんと、頷いた。


「不味いぞ! エメルダ」

「何回りくどい事言ってるのよ。ムカつくわね! 文句を言わずに食べなさいよ!」


 私の言葉にエメルダが憤慨すると、フランティーヌがエメルダに加勢してきた。


「そうです。出された物に不満を言うなど行儀が悪いですわよ」


 ちっ! また行儀か。うるさい奴じゃの。今朝は挨拶してきたからちょっとは態度が変わったと思ったら、やっぱり私を目の仇にしとるではないか。


「よし! フランティーヌはこれを美味しいと言うんじゃな。では、神様手ずから御代わりをよそってやろう。器を貸せ」


「そっそう言っている訳ではありません! 自分のノルマはこなしなさいと言っているのです!」


 じゃが、フランティーヌはそう言って慌てて自分の器を隠すように抱き寄せた。やっぱり、お前だって不味いと思っとるんじゃろうが!


「良いから、器を寄越せ!」


 しかし、フランティーヌは必死で器を庇う。私はその器を奪おうとフランティーヌに襲い掛かる。しばらくその様子を見ていたエメルダが遂に切れた。


「あなた達……。いい加減になさいよ……」


 エメルダの低い声が響き、私もフランティーヌも思わず身を竦ませる。いかん。さすがに怒らせたか? じゃが、自らも一口食べたエメルダの動きが止まった。そしてしばらくすると、スプーンを器に戻した。


「……不味いわね。料理が苦手だったからずっとしなかったんだけど。しない間に前よりもっと駄目になってたみたい」


 おい。作った当人が食べられなくてどうする。


「仕方ないわね……。神様が買ってきたお菓子を食べましょう。神様持ってきて」


 う~ん。神様を当然の様にこき使いおって。じゃが、まぁ仕方がないと立ち上がった。そしてフランティーヌの後ろを通る時に、その肩を叩く。


「お前はノルマをこなせよ」


 え!? という顔を向けたフランティーヌにかまわず、馬車からお菓子を取り出す私の後ろで、

「良いから、鍋に戻しなさい」

「……すみません」

 と言うエメルダとフランティーヌの会話が聞こえてくる。


 その後、改めてみんなで座ってお菓子を食べる。うむ。やっぱりこっちの方が美味しいではないか。


「どうじゃ? お菓子を買っておいて良かったじゃろうが」

「何を言ってるの! 初めからお菓子を買わずに、ちゃんとした物を買って置けばなんの問題も無かったのよ!」


 うっ! そ、そうか。エメルダの怒声に反論できず、口をつぐんだ。


「でも、どうするの? 次の町までずっとお菓子を食べるっていう事?」


 アキヒトがお菓子を食べながら問いかける。私はそれでも全然構わんのじゃがの。じゃが、エメルダは不満らしくため息を付きながら言った。


「そうね……。そうなるけど、やっぱり料理が出来る人間が必要なのかも」


 とはいっても、フランティーヌは料理は出来んじゃろうし、アキヒトも無理じゃろう。私も出来んが、それは私に料理が得意と望まなかったアキヒトの所為じゃしな。


「仕方が無いわ。料理が出来る人間を用意しましょう」


 エメルダの言葉に私は思わず首を傾げた。


「え? それは確かに必要かもしれんが、そう簡単にそんな人間が旅について来てくれるもんかの?」

「大丈夫。それは問題ないわ。絶対に連れて行ける人間が居るの。お金が必要だけど」


 そると今度はアキヒトが疑問に思ったらしく、話に割り込んできおった。


「それってどういう事なの?」

「奴隷を買うの。急いでいるし、確実だわ」


 そういえば、こやつなにやら急いでおるが、何を急いでるんじゃろうな? そう思っておると、アキヒトが驚いた声をあげた。


「奴隷? そんな人がいるんだ?」

「ええ、そうよ。アキヒトの世界には居なかったの?」

「それは……。居るところには居るって言うか、昔は居たって言うか……。でも、奴隷を買うなんて、良い事なの?」


 う~ん。どうやらカルチャーショックというやつみたいじゃの。フランティーヌに目をやると、奴も不思議そうな目でアキヒトを見ておる。フランティーヌにとっても奴隷を買うと言うのは、当たり前の事のようじゃの。


「どうしていけない事と思うの?」

「だって、奴隷って人を無理やりさらって来て売ったりするんでしょ? そんなのいけない事だよ!」


 アキヒトは憤慨して言った。じゃがその言葉に、エメルダではなくフランティーヌが驚いて声を上げた。


「まさかそんな事しません! そんな事をして売られた人が居れば、その人が訴えてさらった人間が捕まります!」


 どうやらフランティーヌは、自分がそんな事に賛成しているとアキヒトに思われるのが嫌みたいじゃな。そしてその言葉にアキヒトは首をかしげた。奴隷と言っても、アキヒトの世界とこの世界とでは、意味合いがかなり違うようじゃ。


「じゃあ、奴隷ってどんな人がなるの?」

「当然、自分で自分を売った人がなるのよ。そうじゃなくて誰が人を売れるって言うの?」


 エメルダが、さも、当然でしょ? という風に言うと、アキヒトは虚を突かれた様に一瞬ぽかんとした。


「え? そうなんだ。でも、どうして自分を売ったりするんだろう?」


「そうね……。良くあるっていうか、ほとんどがそうなんだけど、飢饉で作物が取れなかった農村の娘や息子が、他の家族を食べさせる為にとかね。この場合は自分がっていうより、実際は親が売っているのに近いんだろけど。それでも子供が嫌だって言い続けたら、売るのは無理だわ。それと、たまに働き口が見つからなくて食べるに困って自分を売るって人も居るわ。奴隷として買われたら、一応食事は与えられるから」


「そっか……」


 アキヒトもエメルダの説明に一応納得したみたいじゃな。自分で自分を売っとるなら、文句の言いようもないしの。


「で、その奴隷はどこで売っとるんじゃ? 次の目的の町か?」


 私の言葉にエメルダは、

「そうね……」

 と腕を組んで考え込み始めた。


「さすがにどこの町でも売っているってものじゃないわ。かなり大きな町じゃないと。目的の町まで行くのに、本当は通り過ぎるつもりの大きな町があったんだけど、そこに寄りましょう」


 なるほどの。しかしそういえば、以前エメルダは、御者を雇うのはアキヒト以外の男を連れて行く事になるから嫌だとか言っておったな。すると、その料理を作れる奴隷と言うのも女の奴隷を用意するつもりなんじゃろうな。という事は……。


「その、奴隷とやらはハーレムに入れる事になるのか?」

「それは分からないわ。もちろんそれにこした事は無いけど、料理が出来る人って事を優先して選ばないと本末転倒だし、アキヒトにも好みはあるでしょうし……」


 ふむ。それもそうじゃの。


「アキヒト。お前の好みってどんな女なんじゃ?」


 アキヒトは私の言葉に一瞬キョトンとすると、次第に顔を赤くし始めた。なんじゃ? 今更女の好みを聞かれて恥ずかしがる様な面子でもあるまい。そう思っていると、アキヒトは言い難そうに口を開いた。


「え~と、神様……が、僕の好みかな」

「あ……」


 そういえば、そうなんじゃったな。私の顔も思わず赤くなった。そしてなにやら後ろから殺気を感じると思って振り向くと、フランティーヌが立っている。


「なんじゃ?」

「いえ。何でもありませんわよ」


 と、私の問いかけににこやかに答えておるが、なにやら目が笑っておらぬ。ちっ! アキヒトめ。正直なのは良いとして、もう少し気を使って喋ってくれんと、私が無駄に恨まれるではないか。


「まぁよい。とにかく料理が出来る者の中から、出来るだけアキヒトの好みに合いそうなのを探そう。好みに合いそうな奴が居なかったら、料理に専念して貰えば良いんじゃし」


 私がそう締めくくると、アキヒトが、あ! とした顔をして口を開いた。


「でも、条件を選べるなら、馬車を動かせる人が良いんじゃないかな? そしたら交代で馬車を動かして貰えて、エメルダも休めるよ」


 お、なるほどの。アキヒトの癖になかなか気が効くではないか。


「確かにその通りですわね。アキヒトの言う通りです」


 フランティーヌもアキヒトを褒めておる。ふむ、アキヒトもたまには活躍しないとな。じゃが、そう思っていると、エメルダがなにやら複雑そうな顔をしているのに気付いた。


「エメルダ。何か言いたい事があるのか?」


 すると、エメルダは言い難そうな顔をして言った。


「こう言っちゃあ、なんなんだけどね。さっきも言ったけど、奴隷になる女の子って大抵農村の出なの。あなた達ぐらいの年齢の農村の娘で、私程度に馬車を操れない娘なんて、条件を付けるまでも無く居ないのよ」


 コ○助で、すみません……。


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